6.想い出のストラップ
6.想い出のストラップ
2列側の席では穏やかな会話でのんびりした空気が流れている。
「若い方はお盛んですな」
齋藤が三人娘たちのボックス席を眺めながら言う。
「あら、私たちだってまだまだイケますよ」
「河さんはお若いですね」
「はい、日下部さんにピンクレディを頂きましたからね」
「ひろめ市場のホワイトデーですね。日下部さんはそういうところがマメですよね」
「午雲さんもなんだかんだ言いながらチェックしているんですね」
「それはまあ一応。さすがに500作品全部は読破しきれませんけどね」
「そうそう!500作品ってすごいですよね。僕なんか何年かかることやら」
「水無月さんはまだお若い。500でも1000でも挑戦して下さい」
「でも、かみむら先生はそれ以上ですものね」
「そう考えると、そんな人たちとこうやって普通にお付き合いさせてもらっているのが不思議ですね」
日下部の隣に移動した律子はカバンに付けていたストラップを示した。日下部もそれを見て、網棚の上の自分のカバンを指した。そこには律子と同じみかんのキャラクターのストラップがぶら下がっていた。伊豆に行ったときに律子が日下部にプレゼントしたものだ。
「ちゃんと持っていてくれたんだね。鉄人」
「もちろんだよ」
「おい!そっちで二人盛り上がってるんじゃない」
当てが外れて少々苛立ち気味のりきてっくすが日下部と律子に癇癪を起した。
「なんだかんだ言っても、りっきさんはりったんのことがお気に入りなんですね」
圭織とまゆは口元をゆるめて、りきてっくすと律子を見比べた。
「ちがーう!よし!席替えだ。大橋くん、君がこっちに来たまえ。僕がフレッシュ三人娘を楽しませてあげよう」
「そういうことでしたら、りきてっくすさん、こちらへどうぞ」
針のむしろに座らされた心地だった大橋には、りきてっくすのこの言葉はまさに渡りに船だった。
「大橋さん、逃げるんですか?」
「いいじゃない。せっかくだからいろんな人とお話しましょうよ」
いろはの追撃をめいはやんわりとかわした。大橋はめいに礼を言って席を立った。そして、代わりにりきてっくすが三人娘の席にやって来た。