5.恋バナ
5.恋バナ
新幹線が発車すると、旅行気分も一気に加速する。
「日下部ちゃん、早く出して」
りきてっくすの言葉に日下部は出発前に買っておいた缶ビールとつまみを各席に配った。
「さすが、日下部ちゃん。段取りがいいね」
「当り前よ。私の鉄人なんだから」
「あら、りったん。そこは鉄人じゃなくて愛人じゃない?」
「かおりん、いきなり過激なことを言うわね。もしかして、既にお酒入ってる?」
「まさか!私はお酒飲めないもの、まゆゆも知っているでしょう」
「かおりん、まゆゆ、いいの!鉄人は私のものだから。愛人以上なのよ」
「まあ、かみむら先生ったら、相変わらずね。それじゃあ、日下部先生の隣に座ったら?空席みたいだし」
「美子さん!」
「ほら、日下部先生、顔が赤いわよ」
「じゃあ、移っちゃおっと!」
「おう!早く行け、行け。そしたら、なっちゃん、こっちにおいで。そんなじじいやばばあと同じ席じゃつまんないだろう」
「あ、いえ、私はここで大丈夫です」
もう一つのボックスでは二組の男女がぎこちない会話をしていた。開口一番、いろはの質問がそんな空気を生んでしまったのだ。
「めいさん、良かったですね。大好きなお二人と同じ席で。ところで、めいさんは水無月さんと大橋さんのどちらが好きなんですか?」
「ちょっと、いろはさん、いきなり何を言うの?」
「あれっ?それは僕も気になるなあ」
「水無月さんまで!やめてください」
「でも、いろはさんは大橋さんが好きなんだよね。なろうで公表したしね」
「水無月さん、あれはあくまでも小説の話でしょう!」
「あら、大橋さん。私は本気ですよ。こうして会ってみて、もっと好きになりましたよ」
「なつさん、助けて!お願い」
めいに助けを求められたなつは水無月と席を替わってもらい、三人のボックスへ移動した。
「なんか急に居心地が悪くなってきた…」
三人の女の子に囲まれて、大橋はどちらを向けばいいのか判らなかった。こんなはずじゃなかったんだけどなあ…。と、青ざめる大橋だった。