45.本音は僕も…
45.本音は僕も…
13番ホームに東京行き16:30発のはやぶさ24号が滑り込んできた。停車時間はわずか1分。齋藤以外は既にグリーン車の乗車口に並んでいる。
「りっきさんたち、齋藤さんと一緒じゃなかったんですか?」
日下部は列の後ろに居た、りきてっくすたちのところまで歩み寄った。
「じいさんは今頃、牛タン通りで美味しい牛タンに舌鼓を打っているんじゃないかな」
「お店が混んでいたので、僕たちは諦めて弁当を買って来たんですけど、齋藤さんは乗り遅れてでも食べると言っていましたから」
大橋が言うと、水無月も頷いた。
「マジで?」
「鉄人、これで、一人余らなくて済むじゃない」
律子がにっこり笑った。けれど、そういう問題ではないような気もするが。
「とにかくみなさんは先に乗っていてください。僕はギリギリまで待っていますから」
「まったく、世話の焼けるじじいだな」
齋藤が店に入ると同時に店内を占領していた団体客が一斉に出て行った。齋藤が注文した定食は出てくるまでに思ったほど時間がかからなかった。齋藤は時計を見ながらゆっくりと料理を堪能することが出来た。
「これで、普通に集合しても面白くないですね。ここはひとつ、間に合わなかったふりをしてみなさんを驚かせてやりましょうか」
齋藤はグリーン車から遠い1号車の乗車口付近で隠れるように列車の到着を待っていた。列車が到着すると素早く乗り込み、ゆっくりと車内を移動して行った。
日下部が車両に入って行くと律子が手を振って合図した。律子と圭織、りきてっくすが座っているボックス席の律子の隣に座った。他はいろは、めい、水無月、大橋。午雲、美子、なつ、まゆ。
水無月はいろはとめいを前にしてばつが悪そうだ。
「変なこと想像しないでくださいね」
見透かしたようにいろはが言う。
「魔法が使えたら記憶を消してしまうところなのにね」
めいも追い打ちをかけるように言った。
「齋藤さんはとうとう間に合いませんでしたね」
大橋が水無月を助けるように話題を変えた。「僕も見たかったなあ」と言うのが本音なのはもちろん、言える訳がない。