41.キスにはキス!?
41.キスにはキス!?
バスの中に緊張が走った。なつが慌てて取り繕うように言った。
「かみむらさん、違うんです!これはトランプの罰ゲームで、そもそも…」
律子が日下部の方に歩み寄ってくる。齋藤が他人事のようにニヤニヤ笑っている。今まで寝ていた連中も何事かと目を覚ました。
「りったん、落ち着いて!」
圭織が律子をなだめる。律子はかまわずにロケットパンチを回収すると、日下部の胸ぐらを掴みあげた。そして…。
「あっ!」
その場にいた全員が声を上げた。律子が日下部にキスをしたのだ。いや、正確にはキスではなくて口移しだった。日下部は口の中から、味がしなくなったガムをこっそり吐き出した。
「鉄人、捨てないでね」
「はい…」
日下部は吐きだしたガムを再び口に含むと生唾を飲み込むようにごくりとガムを飲み込んだ。しかし、このやり取りは他のメンバーに勘違いをさせるのには十分だった。
「なに?なに?なに?」
いきなり、日下部と律子のキスシーンを目の当たりにしたいろはが取り乱す。
「りったん、僕というものがありながら、どういう事?」
りきてっくすも狼狽えている。
「じゃあ、りっきーにもあげる」
そう言って、律子は再び口からガムを吐き出し、りきてっくすに手渡しした。
「なに?これ?」
「それが欲しかったんでしょう?今、鉄人にあげたやつ。捨てたらダメだからね」
律子はなつが日下部にキスをしたところなど見てはいなかった。ただ、単にガムの捨て場に困ったから日下部の口をゴミ箱代わりにしたのだと言う事だった。
「みなさん、そろそろ仙台駅に到着します。身の回りのお荷物など、お忘れ物の無い様にしてくださいね」
「それは無理!瑠璃ちゃんに盗られた僕の心は持って帰れないよ」
「りきてっくすさん、気持ちは嬉しいんですけど、必ず持ち帰って下さい」
「うっ…」
涙目で瑠璃を見つめるりきてっくすをよそに、バスは広瀬通りを仙台駅に向かってひた走る。律子はこっそりスマホを手に取る。