35.葵とあゆみ
35.葵とあゆみ
防災庁舎の周囲は町によって震災復興祈念公園として整備されるため、4月1日からしばらくの間、立ち入り禁止になっている。にも拘わらず、今でも献花に訪れる人が絶えない。
葵とあゆみは震災直後からボランティアで被災者への支援を行ってきた。
「葵さん、またバスが来たわよ」
「本当だ。最近はただの観光で来る人も多くてイヤになるわね」
葵はバスに近づいていく。
皆、神妙な面持ちでバスを降りた。建物の周りには工事用の囲いが施されていて、そばまで行くことは出来ない。もはや、建物とは言えない骨組みを遠目に見るだけでも胸にこみ上げてくる想いを誰もが抑えられなくなっていた。
いろはが涙を浮かべながらすすり泣く。それを合図に女性陣の目から涙がこぼれる。男性陣も涙こそ見せないが、みんな歯を食いしばってその建物を見つめる。そこへ一人の女性が近づいてきた。
葵は一行のそばまで来て異変に気付いた。皆が神妙な顔をして女性たちは涙さえ浮かべている。
「遺族の方かしら?」
彼女がそう思うほど、彼らは他の観光客たちとは雰囲気が違っていた。実際に、遺族の方たちの中にはここに居るのが辛いからと、別の土地に移って行かれた方も少なくない。
「こんにちは」
葵は無表情で一行に挨拶をした。
「こんにちは。防災庁舎、取り壊されるんですか?」
日下部の問いに葵は答える。
「とりあえず、2031年までは県有化されて保存されることになっています…。失礼ですが、観光の方ですか?」
「あ、いえ、観光と言うわけではないんです。僕たちは小説を着ている仲間で、震災後から“スマイルジャパン”と言う被災者に笑顔を届けるための企画を内輪ですけど、やっていて」
大橋がそう説明すると、葵は少しだけ表情を和らげた。
「そうでしたか…。あ、私、震災直後からボランティアをしている桜葵と申します」
葵はそういうと、あゆみをこちらに呼び寄せた。
「この子は藤あゆみ。同じくボランティア活動をしている子です」
葵に紹介されてあゆみはぺこりと頭を下げた。