34.震災の爪痕
34.震災の爪痕
朝食は大食堂でのバイキングだった。日下部は齋藤、午雲と共に大食堂を訪れた。美子と圭織、なつ、めいが既に食事をしていた。
「僕たちもご一緒させてもらっていいですか?」
「どうぞ」
日下部の申し出に美子は笑顔で応じた。
「他のみなさんは?」
「聞くだけ野暮ってもんですよ」
「ごもっとも…」
なつの問いに齋藤が答えると、一同、苦笑する。
そのころ、大浴場では大騒ぎになっていた。原因は言うまでもない。
その後、めいめいに食事を終えた一行はフロントで清算する日下部をロビーで待っていた。その中にあって、人知れず売店で買い物をする律子の姿があった。
日下部が戻ると、一行は揃ってバスに乗り込んだ。
「みなさん、おはようございます」
ガイドの瑠璃が笑顔で迎えてくれた。瑠璃は人数を確認すると運転手の弥欷助に合図した。ホテルの玄関先では若女将の絵痲としおん、刹那が一行を見送りに出ていた。
「ところで、日下部ちゃん、この後はどこへ行くのかな?まさか、これで終わりじゃないよね?」
「ええ、せっかく東北に来たのだから、被災地の様子を見に行こうと思います」
「スマイルジャパンですね!」
「そうですね、大橋さん。みなさん、作品を寄せていただきましたが現状を目にしておくのもいいのかなと思いまして」
そして、バスは一路、南三陸町へ。
南三陸町と言えば、防災対策庁舎の悲劇が一番にあげられる。
「われわれ年寄りは生き残り、若い職員が流されてしまった」
当時の宮城県南三陸町の副町長の言葉が思い起こされる。最後の瞬間まで住民に避難を訴え続け、被災した職員の勇気を僕たちは決して忘れてはいけない。
赤い鉄骨の骨組みだけが残る建物にバスが近づいた。道中、旅行気分ではしゃいでいた面々の顔が引き締まった。