32.深夜勤務手当は現金で
32.深夜勤務手当は現金で
部屋飲みは旅行社の2人を含め、総勢10人。りきてっくすが持ってきた焼酎はあっという間に空になった。
「日下部ちゃん、瑠璃ちゃんにバスからお酒を持ってきて貰うにゃん」
「そんなことは出来ませんよ」
「いいから、それをよこすにゃん」
りきてっくすは日下部のスマホをかすめ取ると、通話履歴から瑠璃に電話を掛けた。
「ちょ、ちょっと!」
「あ、瑠璃ちゃん?こんな時間にごめんね。幹事がお願いがあるそうなんだけど…」
その後もりきてっくすは一言、二言、こそこそと会話をして、スマホを日下部に返した。
「すぐ来るって」
「本当に大丈夫なんですか?」
りきてっくすが言った通り瑠璃がすぐにやって来た。クーラーボックスを抱えている。
「本当にいいんですか?」
「いいにゃん」
「じゃあ、幹事さん、すみません」
瑠璃はそう言うと、日下部に向かって両手を合わせた。
「え?どういう事?」
「幹事さんが深夜勤務手当を現金で支払ってくれると」
「えー!」
日下部はりきてっくすを睨み付けた。りきてっくすは知らんふりをしてクーラーボックスの中を物色している。
「しょうがないなあ…」
日下部は財布から札を1枚取り出し、瑠璃に渡した。
「みなさん、明日も早いですからほどほどにね」
瑠璃はそう言って部屋を後にした。
一風呂浴びた午雲が部屋に戻るとやけに賑やかだった。
「ここで部屋飲みか…」
そう呟いたものの、そちらは除かずにベッドルームに入ると空いていたベッドに潜り込んだ。既に寝ている齋藤の顔を見て思わず吹き出しそうになった。顔の落書きがまだ消えていなかったからだ。
「齋藤さん、明日、その顔でどうするんだろう…」