29.カラオケバトル勃発
29.カラオケバトル勃発
名取は内心面白くなかった。カラオケで見せ場を大橋に持って行かれたからだ。そんな名取の心中を察した日下部はなろうの日下部に耳打ちをした。
「なんだ、別に遠慮することないのに」
「でも、僕たちは現実のものではないですから…」
「名取さん、それは言わない約束ですよ」
「そっか!現実じゃないと消えちゃうんだっけ?」
言ってるそばから名取の体が透けて来た。
「何やってんだ、お前!」
井川が名取にげんこつを見舞おうとしたのだけれど、井川のこぶしも名取を捕える前に消えてしまった。酔いどれ軍団の面々はこうしてみんな消えてしまった。
酔いつぶれていた名取が目を覚ました。顔中落書きだらけでポカンとしている。ステージでは未だ大橋のワンマンショーが続いている。
「何だ、夢か…」
そして、名取は再び夢の世界へ。次に目覚めた時の名取の運命はお約束の通りだろう。
「日下部さん、私もカラオケ歌いたいです」
刹那が言った。
「どうぞ」
日下部はデンモクを刹那に渡した。刹那はデンモクのタッチパネルを迷わず操作している。どうやら、曲は既に決まっているらしい。送信ボタンを押すとすぐにイントロが始まった。『アゲハ蝶』ポルノグラフィティだ。歌い始めた刹那はこれまでのおどおどしていた刹那とはまるで別人だった。
「私も負けてられないわ」
しおんが続く。『エリーゼのために』BICK-TICKだ。
「日下部さんも負けないで」
まゆが日下部に言い寄る。
「じゃあ、そろそろ、うさぎさんチームの出番かな」
日下部が選んだのは『ロマンスがありあまる』ゲスの極み乙女だ。
「ネコさんチームも負けてられないにゃん!」
負けじとりきてっくすも立ち上がる。『天城越え・ジャマイカバージョン』だ。
二次会はライブハウスさながらに盛り上がっていった。