27.奇跡的なすれ違い
27.奇跡的なすれ違い
しおんは我が目を疑った。
日下部達なろうファミリーは酔いどれ軍団と一緒に二次会を行うため、最上階のバーへやって来た。しおんは道中の刹那の失態を詫びるべく日下部を待っていた。ところが入ってきた面々の中に日下部が二人いる。
「どういうこと?」
すかさず絵痲に確認した。
「私も今、初めて気が付きました」
小林商事の“たま遊会”。今回の社員旅行は名取が幹事で仕切っていた。その名取が旅行代金を一桁間違って振り込んだのだ。そのため、余分な現金を返金するため、しおんは小林商事の日下部に連絡をした。これまでは日下部がずっと幹事をしており、しおんも日下部とは面識があった。
「振り込んでくれればいいよ」
日下部はそう言ったのだけれど、端末の不具合で期日までの振り込みが出来なくなった。それで、現金を直接届けることにした。受け渡し場所は最初に現金が必要になる平泉のレストハウスになった。
しおんは刹那を伴って平泉まで出向いた。ところが、ホテルでトラブルがあったと呼び出された。しおんは日下部の写真と現金が入ったバッグを刹那に任せて、平泉を後にした。
刹那は現金を抱えて、日下部たちが昼食をとる予定になっている2階のレストランへ向かう途中の階段で足を踏み外し転倒してしまった。朦朧とした意識で外のベンチに腰かけるといつの間にか眠ってしまった。
目が覚めると、なろうファミリーが目の前を通り過ぎるところだった。刹那は慌てて一行の後を追った…。奇跡的なすれ違いが生じた瞬間だった。
その二人の日下部のうち、片方の日下部がしおんに気付いて手を振った。
「やあ、夢乃さん、今日はどうしたの?約束をすっぽかすなんて珍しいね。おかげで結構焦っちゃたよ」
「あ、あの…。こちらの方は?」
「ああ!びっくりした?この人も日下部良介って言うんだって!名前も姿も同じなんて、マンガみたいで笑っちゃうよね」
「いえ、ちっとも笑えないんですけど…」
しおんは事の顛末を説明した。日下部は笑って許してくれた。