23.下戸の宿命
23.下戸の宿命
宴は次第に盛り上がって行き、水無月の顔の痣を気にする者など居なくなっていた。
齋藤は酒が飲めないので徳利を持ってみんなの席を回った。
「幹事さん、お疲れ様。今のところ無難に立居振る舞っておりますな。まだ呑みが足りないのでしょう?」
「なんのことです?」
「日下部さんの乱れた姿が見たいのですよ」
「鉄人はいつも冷静だよ」
「これはかみむらさん。どうぞ一献」
「齋藤さん、りったんにはあまり飲ませないでね」
「それでは桂さん、代わりにどうぞ」
「はい。少しだけなら頂きます」
まゆは少しだけ齋藤に注いでもらうと、一気に盃を空けた。
「では」
返盃を求めたまゆに齋藤は首を振った。まゆはにっこり笑い盃に酒を満たした。それを齋藤に押し付けると、どすの利いた低い声で齋藤を睨み付けた。
「私の盃が受けれへんの?」
「うっ…」
まゆの迫力に気圧された齋藤は飲めないはずの酒を一気に煽った。煽った瞬間、周りの景色が回転を始めた。哀れ齋藤はその場にひっくり返った。
「齋藤さん、大丈夫ですか?まゆゆもやり過ぎよ…」
圭織がまゆを見ると、既にまゆは目が座っていた。それを見ていた水無月は先ほどのまゆの言葉を思い出し凍りついた。
「ちょっとトイレに行ってきます」
そう告げて、席を外した。
トイレで用を足していると、隣に日下部が並んで立った。
「日下部さん、桂さんっていつもあんななんですか?」
「どなたですか?どうして僕の名前を?」
「えっ?冗談はやめてくださいよ」
「おい!日下部、早くどけよ。漏れちまうじゃねえか」
後ろで見知らぬ男が怒鳴っている。
「井川さん、もう少し我慢してくださいよ。僕だって急には止められませんよ」
すると、その男は水無月の場所に割り込んで勢いよく排出した。そのしぶきは水無月を襲った。水無月は何が何だか解からなくなった。