21.しおんと刹那
21.しおんと刹那
ホテルのバーでしおんは刹那を待っていた。
しおんには大事な役目があった。刹那と共にその役目を果たすため、日下部たちを追い掛けていた途中でトラブルが発生し、しおんは刹那に役目を任せて一旦、その場を離れた。そして、ホテルのバーで再び刹那と落ち合うことにしていたのだ。その刹那がいつまでたってもやって来ないのだ。日下部たちはとっくにホテルに到着しているというのに。
刹那はホテルの前で途方に暮れていた。来たのはいいけれど、どうして来たのか判らなかったから。そこにいきなり声を掛けられ驚いて抱えていたバッグを落としてしまった。バッグからは札束がはみ出ていた。
瑠璃はホテルの駐車場でバスの中をチェックした後、弥欷助と共にホテルへやって来たところだった。そこに平泉で会った白ずくめの女性を見かけて声を掛けた。
「先ほどの方ですよね?」
驚いた女性が落としたバッグから札束がはみ出したのを見て、「怪しい!」直感でそう思った。
「あなた、先ほどこのツアーの行き先を聞きましたよね?ツアーの人たちとはどういう関係なんですか?」
狼狽る刹那に瑠璃は容赦なく質問を投げかけた。
「あなた、一体何者?」
「それが…。憶えてないんです。記憶を無くしたみたいで…」
「ウソをつくなら、もっとましな嘘をつきなさいよ」
刹那は今にも泣きだしそうだった。
「黒川くん、どうやら本当みたいだぞ。何か事情がありそうだ。中でゆっくり話を聞いてみよう」
刹那の態度を見て弥欷助は刹那を連れてホテルに入った。
「あっ!刹那さん、しおんさんがバーでお待ちかねですよ」
ホテルのベルボーイが刹那に声を掛けた。どうやら、刹那はこのホテルに所縁のある人物のようだ。弥欷助はベルボーイに事情を話して刹那を引き渡した。
女性陣は宴会場に入ると、律子が真っ先に日下部の隣に座った。並ぶようにまゆと圭織が座る。りきてっくすは三人娘に手招きをしている。美子は齋藤と午雲の間に来た。いちばん端にポツンと座っていた水無月の横にめいが座った。水無月は下を向いたままだった。
「水無月さん、具合でも悪いんですか?」
水無月の顔を覗き込んだめいは思わず声をあげた。