19.浴場の悲劇
19.浴場の悲劇
若女将の絵麻が部屋に訪れた。
「あら、皆さん、居らっしゃらないんですね」
「ええ、早速お風呂へ」
「そうですか。お隣も?」
「ええ」
「この別館の大浴場は混浴ですから、知らないでお入りになると女性の方は…」
「大丈夫ですよ。僕が話しておきましたから」
「さすが、幹事さん。それでは館内の施設をご案内しますので皆さんには幹事さんからお伝え下さい」
絵麻はお約束の説明を一通り終えると、最後にこう付け加えた。
「わたし、ここのバーをやって居りますので是非、二次会でご利用下さい」
別館の大浴場へやって来た水無月は脱衣場で服を脱ぎ捨てると浴場へ駆け込んだ。ほんのり立ち上る湯気の向こうに二人の人影を確認するとそっと近づいて行った。
「いいお湯ですね」
コンタクトレンズを外していためいといろはは近づいて来る人影はてっきり女性だと思い込んでいた。まさか混浴だとは知らなかったから。声を掛けられて初めてそれが男性だと気付いた。一瞬、声が出せなかった。
まゆは脱衣場でここが混浴だということをみんなに知らせてめいといろはにもそれを伝えようと浴場へ入った。もちろん、服は脱がずに。その時めいといろはの悲鳴が聞こえた。
「キャー!変態!痴漢!」
めいはそばにあった桶で変態男をひっ叩いた。いろはも周りにあったありとあらゆるものを変態男に投げつけた。男は驚いて立ち上がった。立ち上がったはずみで腰に巻いていたタオルが落ちてしまった。めいといろはが再び悲鳴をあげる。男は即座にその場から逃げだした。
「二人とも大丈夫?ここ、混浴だから」
まゆの言葉にめいといろはは「早く言ってよ!」と、声を揃えた。
部屋に戻った水無月は顔に痣を作っていた。
「あれ?カズさん、その顔どうしたんですか?」
「ちょっと転んじゃって…」