16.昨日の敵は今日の友
16.昨日の敵は今日の友
ティータイムを楽しんだ面々はその後、土産物店で買い物をして集合時間よりも早くバスに乗り込んだ。少し遅れて斉藤とりきてっくすも戻って来た。
「日下部ちゃん、ホテルの食事に前沢牛は出るのかい?」
「そこまでは判らないですけど、たぶん出るんじゃないですかね」
「ほらごらんなさい」
「どういう事ですか?」
「いやね、フードコートで私がお茶をご馳走したら、閉伊さんがお返しにと前沢牛のステーキ丼をご馳走するっていうのでね。それから2階のレストランへ行ったんですよ」
「食べたんですか?」
「ええ。おかげでお腹いっぱいですよ」
「行くタイミングを間違ったなあ」
斉藤とりきてっくすのやり取りを聞いていた水無月が口走った。
「ん?」
「いやね、そこって『源』でしょう?僕らもそこでお茶したんですよ。日下部さんにごちそうになったんですけど、どうせなら前沢牛の方がよかったなあと思って」
「バ~カ!お前らなんかにはおごってやらないにゃん。齋藤ちゃんだけにゃん」
「なんだか、二人、いつの間にそんな仲になったんですか?」
水無月は自分の卑しい発言にばつが悪くなり話題を変えた。
「前からだにゃん。それより河ちゃんと午雲ちゃんがまだ来てないみたいだね」
ちょうどそこへ午雲と美子が戻ってきた。
「遅いにゃん」
「でも、まだ時間前ですよ。それより、文化史館で気になる人を見かけたもので。ねえ、河さん」
「そうなのよ!白ずくめの女性でずっと私たちを見張っているような感じだったわ」
美子の話にめいとなつが顔を見合わせた。
「それ!私も気になっていたんですよ。藤原の郷からずっといましたから」
「藤原の里から?そうなの?」
「いやだ、なんだか気味が悪い」
他の女性陣も怯えるように言った。
「もしかしてあの人ですか?」
日下部がバスの後ろを指した。そこにはまさしく白ずくめの女性が立っていた。そして、じっとバスの方を見ている。
「キャー!」
女性陣の悲鳴が車内にこだまする。