容赦ない世界
俺はいま人生で一番ピンチなのではないだろうか?
コンビニに行った帰りの夜の交差点に出ると、ライトをつけたトラックが隣から迫って来きていて、ブレーキ音と風で揺れる木々の音が、何故かはっきりと聞こえてきた
そして俺は避けることもできず、交差点で生々しい音をたてながら意識を失った
◇◆◇◆
俺は、いま人生で2番目にピンチな状況になっている
俺は、黒木啓太というどこにでもいそうな名前で、どこにでもいそうな短い黒髪に、平均的な顔立ちと身長という、驚くほど自分の長所が少ない奴だ。
そして、ピンチになっている理由はこの場所にある、俺がいる場所は大きな通りがあり、木造の家があり、人が沢山通っている、これだけ聞くと普通だろう。
しかし、ここが日本でないことはすぐに分かった。なぜなら約1キロメートルくらい先には、お伽話に出てくるようなお城が建っているのだ。
そして、車や、スマホを使っている人ももちろんいないし、おまけに熊の顔や、トカゲの顔をした、いわゆる亜人も街の中を普通に歩いている
「ここは異世界か?」
アニメに毒された影響なのか、俺にはその考えしか浮かんでこないし、俺みたいな一般人にこんな大規模のドッキリはしないだろう
現在の俺の持ち物はコンビニで買った、ジュースと漫画、後はもう食べ終わった肉まんの下にくっついている紙とポケットに入っている財布と携帯くらいだ。
買い物をしている人の、様子を横から観察すると、金貨や、銀貨みたいなものを使って買い物をしている。
「お金も使えないか...」
短い黒髪をかきながら、俺は頭を捻らせる
どうやって生活していくか...そういえば、芥川龍之介のある作品に途方に暮れていて、盗人になるか悩んだりする作品があったような気がするな
それは現在の俺と似ているのではないだろうか?異世界に来たんだしチートスキルとかがあればいいんだが、そんなものがあるようには見えないし、この考えが生きるか死ぬかの選択なのだろう
俺はとりあえず店のおじさんに話を聞いてみることにした。
「すいません、ここってどこなんですか?」
「へい、いらっしゃい、ここはアルトって言う大きな街さ!」
どうやら話は通じるらしい
「へえ、それじゃあ、この世界ってどんなことをして働いている人が多いんですか?」
「おかしいことを聞くお兄ちゃんだな、まあ、仕事のないやつは、モンスターを討伐したり、そこら辺で、盗賊でもやってんじゃないか?」
異世界のテンプレとなっている、冒険者やモンスターというワードがあることに驚いていた
そして、俺は冒険者になることを決めた
「ありがとうございます、また機会があったらこの店にくるんでよろしくお願いします」
そう言って、俺は急いで冒険者となるために走っていった
約1時間後...
「はあ、はあ、何でこうなったんだよ!」
後ろからは、数人組の男たちが迫ってきている
「おい、兄ちゃんちょっと待ってくれ!」
「悪いことはしねえから、話だけでも聞いてくれないか!」
男たちは、ものすごい勢いで走ってきている。捕まったらどんな目に会うんだろうか?考えるだけで、恐ろしい
そしてなんでこんなことになったか説明しよう
俺は店から離れてすぐに後悔することになった、初めて来た街の地図も、冒険者になるための場所もわからないのだ
「はあ、また話を聞くか...」
俺はそう思い、あたりを見回してみて、話しやすそうな人に聞いてみることにしようと足を進めると、前から見るからに悪そうな男たちが歩いてきてることに気づいた
そして、運悪く男たちの一人に目があってしまった。俺はとりあえず危険を感じたため、男たちの横を通り過ぎようとすると、ある男が突然ぶつかってこようとした
「おおっと、危ない」
あからさまな演技でぶつかってこようとしてきたが、俺は男をかわしてしまったせいか、男は本当に倒れてしまった
「ああ、手が!」
そして、俺を鋭い目つきで睨みつけて
「おいてめえ、なんで避けたんだよ?おかげで骨折しちまっただろうが」
なんだよこいつ、折れた手で普通に立ち上がったじゃねえかよ
「すいません、ぶつかりそうだったんで反射的に避けました」
男は、折れたとかいう右腕を左腕で支え、俺に話しかけてくる
「お前が避けなきゃ、俺は骨折しなかったんだぞ!どうしてくれんだ!」
結構理不尽なような気がするので、俺は男たちに聞こえない程度の小さい声で
「自分で転んでおいて、何なんだよこいつ」
と、愚痴をこぼした
「なんか言ったか?」
「いえ、何でもありませんよ」
「そうか、ならお前は、俺の大事な左腕が折れたんだが、どうしてくれんだ?」
あれ?さっきまで右腕を支えていたはずじゃあ...男を見るともう腕は支えておらず、右手はポケットに入れていた
「なら、病院でも行きますか?骨折しているか判断してもらって、そこで直してもらうこともできますよ」
この世界に病院なんてあるか知らないが、とりあえず牽制程度には使えるだろう
「そんなことはいいから、早くお前の珍しい服とか置いてけばいいんだよ!」
「そうですか、ならここだと恥ずかしいんで、ちょっと路地裏にでも行きましょう」
俺は、そう言って路地裏に入っていく。男たちは理解したのか、ニヤニヤしながら俺の後をついてきた
「それじゃあ、脱ぐんで皆さん後ろを向いていただいていいですか?」
俺はそう言うと男たちは素直に全員後ろを向いた。
馬鹿かよこいつら、俺はそう思い全力で逃げ出した
そして、一旦逃げたはいいものの、何故かバレてしまい、現在逃走中だ
骨折したとか言ってた男も、両腕に武器を持って、振り回しながら走ってきているので、完璧に嘘だろう
しかし、そんなことを行っても説得できる可能性は低いだろう。捕まったら身ぐるみを剥がされて殺さえる可能性もある。
流石に二回目もあっさりと死ぬわけにいかないので、俺はとりあえず安全な場所に逃げたいところだが、警察署なんてものは走り続けても見当たらないため、無いのだろうし、
これ以上逃げ続けても、相手のほうが人数が多いため、いづれ捕まるだろう。
俺は覚悟を決めて、振り向いた
相手は、さっきよりも少し増えて5人になっている
全員が何かしら武器を持ってるし、明らかに相手のほうが強そうだが、ここで逃げたら駄目だ。と自分に言い聞かせて正面から戦いを挑もうとする
訳もなく、そこら変にあった石を拾い投げつける、男たちはいったん止まり、慌てて避けたり防ごうとしたが、運悪く一人だけ顔面にあたってしまい、その場にしゃがみ込み、大声で叫んでいた
あと、4人
俺は、そう思い、ニヤリと笑うと前に歩き始めた
「うがっ!?」
突然、頭に強い衝撃が走った
俺は、その勢いで前に倒れてしまう。俺は首を回して後ろを見ると、鋭い目をした、筋肉質のスキンヘッドが見下ろしていた。
俺を襲ったメンバーの一人だと思い、俺は目尻に涙を浮かべる
はあ、短い人生だったな...
地球で一度死に、こっちの世界に来てからはまだ半日も経っていないのに、あと数分もしたら死んでしまうだろう。
頭からは血が流れ、意識ももうろうとしている中、男たちは武器を持ち、ニヤニヤしながら近づいてくる。
次の人生があったら、良い生活をしたいなあと思いながら俺は目を閉じた
「ねえ、あなた達はここで何をしているの?」
俺はその声で目を開ける。
そこには、銀髪の俺より2、3歳は年下であろう少女が立っていた
「おい、馬鹿、逃げろっ」
俺は声を振り絞り、少女を逃がそうとするが、少女は逃げるつもりがないらしい
「なんだ、お譲ちゃん?俺達と喧嘩する気か?」
少女はすました顔をしながら
「喧嘩ではないわ、これから始まるとしたら殺戮という言葉が当てはまるかもしれないわね」
と言う。男たちはニヤニヤしながらまた話しかけた
「よくわかってんじゃねえか、怖いんだったら早くこっちに来たほうがいいぜっ!?」
男が最後まで言おうとすると、突然炎のたまが飛んできた
「マジかよ、こいつは魔法使いかよ...」
「おい、逃げるぞ!」
リーダーらしき人の合図を聞いた男たちは、全速力で逃げていってしまった
「すまなかった、迷惑をかけたな」
俺は、もう立ち上がるくらいの体力は残ってなかったので、うつ伏せになりながら、助けてくれた少女にお礼を行言った
「もう大丈夫、ゆっくり休んで」
少女のその言葉を聞き、俺は目を閉じた