表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虎武流合神 フージンオー  作者: 陽仁狼界
第0話 過去の物語
1/2

0-1 BC5,000,000

 それは、ヒトが言葉を得るはるか以前の話。

 その時、ヒト以外の言葉を持つ『モノ』が居た。

 遥か天上より顕れしそれは、今正に戦いを繰り広げていた。






 ギャリン!という甲高い音と数瞬の後に、ズズン、と巨大な物体が落ちる重い音が響く。


『く…!ぅう…』


 緑の平原のど真ん中に落ちた物体はその巨体に見合わぬ高い『声』を発しながら、黄色と黒の身を起こした。

 その目の前に、それと同等の大きさの巨体が優雅に降り立つ。


『……ふっ、他愛も無い。どうした、真式シンシキにならぬのか?……いや、なれぬのか。貴様自身が封じたのであったな』


 低く、気品さを感じさせる声で『言葉』を発しながら、青い巨体は相対する黄黒おうこくに手を伸ばした。


『ッ!黙りなさい!貴方こそ真式を出せば容易にわたしを討てるでしょう!?何故素式(ソシキ)のままなのです!?』


 その手を振り払いながら黄黒は立ち上がり、両の手を鋭い爪へと変えて青と対峙する。

 青の巨体は黄黒の態度にやれやれと頭を振り、言葉を吐いた。


『今の腑抜けた貴様に真式を出す必要はないからよ。……それにしても、貴様の考えが理解できぬ。導きを与える『神将シンショウ』でありながら、何故貴様は我らに背く?』


『彼らは自らの足で立ち上がる『芽』を持ちます!我らが介入すればその『芽』を摘むことと同義だからです!』


 爪を振りかざして黄黒は青へと飛びかかる。

 青は事も無げにそれを受け止め、黄黒を弾き飛ばした。


『がっ…!?』


『猿共の芽など、我らが導きにより得る益に比べれば微々たるもの。何故なにゆえにそれを守る』


『自らの足で立ち上がらぬならば、物言わぬ人形ヒトガタと何が違いますか!?彼らは人形に非ず!人間です!』


 黄黒の巨体はそう叫んで両爪を光らせ、再び青へと躍りかかる。


『………チッ』


『がぁっ!?』


 ごぎゃ、と鈍い音。

 青の巨体はその両腕をしっかりと受け止め、蹴りを見舞って黄黒を吹き飛ばした。


『もう貴様に掛ける言の葉は無い。神将の姫巫女虎飛(フーフェイ)よ、神将機シンショウキが一つ、神虎ジンフーを置いて消えるが良い』


『…………』


 ギリギリと全身を軋ませながら黄黒の巨体は立ち上がる。

 そして身を伏せて両の爪を大地に突き立てた。


『……無様だな虎飛。今更何を…』


『貴方達の好きにはさせません…この神虎も、人間たちも!』


『ガォォォォォォォッッ!!!』


 虎飛と呼ばれた声に呼応するように、黄黒が吠える。


『……!?き、貴様、まさか!?』


 その咆哮、そして青の巨体の驚愕と共に両爪に輝きが宿り、黄黒の足元の大地を真っ二つに引き裂いた。

 青の巨体は上空へ飛び退き、黄黒は大地の底へと堕ちて行く。


『神将機と護神将ゴシンショウ、我ら神将の半分を失えば、幾ら貴方でもどうにも出来ないでしょう!』


『おのれ…おのれぇフゥゥゥゥフェェェェェイ!!!!!』


『ギャオォォォォォォォォッ!!!』


 青は吠えた。

 その内部に居る『白銀色の髪を持つ男』と共に。







「………ごめんなさい。貴方を巻き込んでしまいました」


 黄黒が堕ちる最中さなか、内部に居た『黄金色の髪を持つ女』は悲しげに呟く。

 その言葉を向けられているのは、胸に抱く布の中。


「…あ、だ、あぶ」


 女に抱かれた、女と同じ色の髪を持つ男の赤子。

 首には髪と同じ色の石が埋め込まれた首飾りが掛けられ、その目は女に対して無邪気に向けられている。


「母を許してとは言いません。…言えません。……そして願わくば、貴方に幸せを」


 女がそう呟くと、その額に光が宿る。

 二つの菱型が十字に組み合わさり、その中央に『虎』の文字が打たれた紋様。


「時を超えて、良き出会いに巡りあってください。影虎エイフー


「あだ…」


 その言葉を受けた赤子は、次の瞬間女の手から忽然と消え去った。


「……貴方にも詫びねばなりませんね、神虎」


『グルル…』


 赤子が消えたのち、女が言葉を発すると、先程まで人型を象っていた黄黒は獣へと形を変えて『気にするな』と言いたげに唸る。


「ありがとうございます。……では、わたしはしばし眠りに付きます。目覚めがいつになるかは分かりませんが、永い時を要するでしょう。それまで、人々を頼みましたよ」


『ガォォォ!!』


 黄黒の獣が吠えると、女は一つ頷き、赤子と同じく忽然と消え去った。

 そして時計の針は五百万年以上もの永さを進む。

感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ