004 夏の終わり
北海道は天候が悪い日が多くて、農作物の不作が問題だとテレビで言っていたが、暑さがたいしたこと無いことは、僕らにとっては都合は良かった。
野宿なんかした夜は逆に寒くて凍えそうだったりしたけれど、いろんな場所を廻ってそれは楽しい逃亡生活だ。
山田さんがどうしても見たいと言った富良野の風景も見終えて、僕らは美瑛を抜けて旭川で旭川ラーメンを食べる為にバスに乗っていた。
丘陵地帯には舗装された一本道が延々と続き、両脇には牧草地と農地が広がり、これぞ北海道な景色に目を奪われていた。
そしてその一本道の遙か向こうに僕は旅の終わりを見つけてしまった。
「……山田さん、降りるよ」
停車ボタンを押し、何が起こったのか解らない山田さんの手を引いて、バス停に停車したバスを僕らは降りた。
日は傾きかけていて、夕陽が世界を茜色に染めている。
世界の終わりみたいだと僕は思った。
「……何かあった?」
山田さんがそう言ったとき、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
僕らを降ろしたバスとすれ違いにパトカーの赤色灯がたくさん見えた。
山田さんも気が付いたようだ。
「……もう、夏休みも終わるし、この辺でいいんじゃない?」
手を繋ぎ、バスに乗ってやってきた一本道を逆戻りする。
「まだ、夏は終わって無いじゃないか」
「今年の夏は短かったのよ。天候も不順だし」
坂道を見上げると、反対方向からもパトカーが赤色灯を回してやってきて、僕らは一本道の真ん中で行く先を遮られてしまった。
「……本当の楽園なんてなかったなぁ」
僕はそう言ってアスファルトに座り込んだ。
「ここが楽園でいいじゃない」
山田さんはそう言って愛想のない顔で僕の顔をのぞき込んだ。
「そう言えば、宿題なんだけど……」
「……それで?」
「……山田さんと手を繋いで、山田さんを抱きしめて、山田さんとキスをして、山田さんとセックスして、山田さんと一緒に生きていきたい」
それを聞いた山田さんは嬉しそうに笑った。
そして僕の頬に軽く口づけして言った。
「続きはまた今度ね」
パトカーのサイレンの音が近づいてくる。
僕はきっと続きなんて無いんだろうなと思いながら、山田さんとパトカーが来るのを待った。




