001 終業式の放課後
「それで?」
と、山田さんは普段と同じようにまったく愛想のない少し低めの声で言った。
それで、と言われても僕も困る。
なぜなら今ほんの少し前に、僕は山田さんに告白をしたばかりで、好きですと言う言葉の答えにそれで?と聞かれても逆に困ってしまう。
中学校生活最期の夏休みに潤いと華を添えるべく、一生一代の決心と心意気で僕はクラスメイトの山田さんに勇気を出して告白したのだけれども、なにやら妖しい暗雲が僕の頭の上に浮かび始めていた。
山田さん、正確には山田春と言う。
年齢は僕と同じ15歳で、背が小さく、並ぶ時は先頭にいるのが一年生からの定位置だった。
ショートヘアーが良く似合う、くりっとして射抜かれるような大きい瞳が印象的な女の子。
とくに親しい友人はいないようで、クラスでは一人でいることが多いけども、それを気にしている様子もない。
そんな彼女のことを僕が好きになったのは、三年生に進級した時におこなわれたクラス替えで、彼女と同じクラスになり、たまたま席が隣になってからの事だった。
あまり口数の多い方ではない彼女だったけども、こちらが話しかければ普通に会話してくれるし、普段はどちらかというとムスッとした表情が多いのだけれども、ときどき見せる笑顔がとても可憐で可愛かった。
「わたしも上山君の事をずっと前から……」
もしくは
「キモイ!! 近寄らないで !! ムリムリムリ!! 絶対無理!! チョー無理!!」
大雑把に考えれば、そのどちらかに類する答えが返って来ると思っていた。
YESなら万事OK、NOなら夏休みが後悔と恥ずかしさで悶々とする地獄の日々。
山田さんが出した答えはそのどちらでもなく、質問だった。
「そ、それでと言われましても……」
僕は思わず返事に困る。
僕より頭一つ分背が低い山田さんは、それまたとても冷ややかな目で僕を見上げていた。
少し口元が意地悪く笑っているように見えるのは、僕の心理状態がもたらしているだけの思い込みとは思えなかった。
「じゃあ、話は終わり?わたし、用があるから帰るから」
そっかー、用があるなら仕方ないよなと思いながら、僕は去っていく山田さんの後ろ姿を手を振って見送った。
解放されたと思う反面、けっきょく僕が告白しただけで、山田さんから返事は何ももらえなかった。
それで?ってどういう意味だろう?と僕は思う
OKだろうか、NOだろうか?少なくとも首の皮一枚繋がっている気がしないわけでもない。
「……あの」
つい、山田さんを呼び止めてしまった。山田さんは振り返りながら言った。
「なに?」
「さっきの、それで?の答えなんだけど……」
「あぁ。それで?」
「……宿題と言うことで……でき次第、メールするという形で……」
それを聞いた山田さんは、意地の悪そうな笑顔で解ったと言って携帯を取り出すと、僕にメールアドレスと携帯番号を教えてくれたのだった。