エピローグ『1』
「おかえりなさい、裁也」
裁也を出迎えたのは、如月結維だった。
病院の前で待ち伏せしてたのか、寒そうに手をさすっている。
「結維……。もう、身体はいいのか?」
「もう大丈夫だよ。姉さんはまだ寝てるけどね。――それより」
結維は顔を近づけてきて、額をこづく。
「何か、言い忘れてる事あるんじゃない?」
「あ? ――ああ、ただいま結維」
「うん。おかえり、裁也」
「……そう。そんな事あったんだ……」
「うん……」
一との一件を結維に話した裁也は、力なく頷く。
全てが終わり、裁也の心のハリが無くなりつつあった。
いま裁也の中に在るのは、達成感と奇妙な空虚感だ。
「それで……今後はどうするの?」
「……解らない。まだ、何も考えてないな……。こうなるとは思ってなかったからな……」
「裁也……」
病院の待合室の天井を裁也は見上げる。
自販機のブーン、という音。
ノイズ混じりの映像の流れていないテレビ。
室内は二人の呼気が聞こえる。
「今までずっと、アイツの下で働いてきた。アイツを殺す事も考えた。だけど結局の所、俺は一を必要としていて、一は俺を必要としていたんだって事に気づかされたよ」
「うん……」
「アイツは俺の両親を殺した。だから俺はアイツを憎んだ。でも、それは本当の所どうだったんだろう」
「……え?」
「俺の両親は、一を殺そうとしていた。だから一は俺の親を殺した。
皇零は俺を殺そうとした。俺はだからアイツを殺した。
これって、一と俺は何の違いがあるんだろうな……」
そう言うと、結維に頬をはたかれる。
「ゆ、結維?」
「――全ッッ然違うよ!!
一君は人を殺すのを喜んでた。
裁也は、人を殺すのを躊躇って苦痛を感じてた。
結果は同じでも、そこに至るまでの過程が違うよ!」
「結維……」
「貴方は私を助けてくれた! お姉ちゃんを救ってくれた! これは、貴方が成し得た事でしょ?
それなのに、一君と一緒だなんて言わないでよっ……!」
「……面目ない」
涙を流す彼女の頬を裁也はぬぐう。
「それに、そんなに生きる目的が欲しいんなら、私の傍にずっと居てよ! 私を助けてよ! 私は――貴方無しじゃ耐えられない!」
「………………」
「それにお姉ちゃんだって今後どうなるか解らないんだもの。どこかに行こうとしないで、私の傍にいてよぉ……!」
「結維……」
彼女を抱きしめる。
結維の温もりが、鼓動が伝わってくる。
「結維、俺もお前と同じだ。俺も、お前がいないとダメなんだ」
「裁也……?」
「初めから解ってた事だったんだけどな。俺は、結維に――あの頃出逢った時からずっと気になってた。花蓮の妹じゃなく、如月結維としてお前の事が好きだった。……それを伝えるのが、こんなに遅くなっちまうなんてな……」
裁也は失笑する。
己の愚かさを。
大事なモノに気づけなかった自分を。
裁也は自分の馬鹿さかげんに呆れた。
裁也は結維の目を真っ直ぐ見つめ言う。
「結維。俺はお前の事が好きだ。だからこれからはお前の傍にずっといる。何かあっても、必ずまた戻ってくるよ」
「裁也ッ……!!」
結維の涙が零れ落ちる。
裁也は彼女を抱きしめ、二人の唇の距離が近づいていく。
キスするまさにその瞬間。
ブーン、とテレビに映像が流れた。
二人は咄嗟にテレビを振り向く。
「……っ!」
「そんなっ……!」
驚愕し、裁也と結維はテレビの映像に釘付けになった。
そこには、黒い仮面、黒い外套をつけた犯罪者〝ゼロ〟がいた。
無音で音が流れて来ないが、彼は強く拳を叩きつけ、何かしらの演説を行っているようだった。
結維は呆然となり、裁也は両眼を覆っている包帯をほどき、立ち上がる。
「やれやれ……。もう偽者が現れたのか」
「裁也……?」
「予想はしていたんだよ。あの黒い仮面そのものに、魂――人格のようなモノが宿っていて、つけた人間の〝ペルソナ〟を変えちまうんじゃないかってね」
脇に差していた柄を手に握り、裁也の両眼が開眼する。
金と銀の双眸を発動させ、裁也は出口へと足を向けた。
「じゃあ結維。ちょっくら行って来るよ」
「――ッ! 裁也!?」
「ゼロは俺の因縁の相手だ。皇零がいない今、アイツの名を語る偽者は許さない」
怒りを孕み、裁也は出口と歩き出す。
このまま出て行く彼を、結維は呼び止めた。
「? 結維?」
「帰って、来るよね……? 私の所に、絶対に帰って来るよね……?」
涙をためた瞳で結維は言う。
裁也は少し下を俯いて考えた後、結維の顔を見て笑った。
「当たり前だ。お前の傍が、俺の居場所だってさっき約束しただろ?」
「裁也……」
「じゃあ行ってくるよ、結維」
「……うん。いってらっしゃい、裁也」
微笑んで裁也を、結維は送り出した。
裁也は冬の街へと駆け出し、夜の闇へと消えていく。
石杖裁也の戦いは、まだ終わらない――
この話でペルソナは完結です。
長い期間書いてしまいましたが、今まで読んでくれた方々、ありがとうございました。
思えば、三ヶ月で書き終わるはずが、リアルの諸事情によって半年以上も書く次第になってしまった。
ともかく、書き終える事が出来て良かったです。
推敲して、どこかの賞に送ろうと思ってるのですが、自信は全くありません。
まだまだ、小説の腕を磨かないとなぁ、とか思う今日このごろ。
デビューして、自分の小説がアニメ化とかしたら、面白いだろうなぁ……。
と、いうわけで気付いたらまた作品を上げると思うので、見つけたらまた読んで下さい。
ではでは。




