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ペルソナ  作者: ウミネコ
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アフターストーリー2

 星の綺麗な夜だ。

 そんな事は目が見えなくても解る。

 裁也は探偵事務所の跡地にやって来た。

 以前と変わらず、戦いの傷跡はそのままで放置されている。

 まるで廃墟同然だ。

 特殊な結界でも張られているのか、そこに裁也の気配以外感じられない。

 裁也は手探りで事務所の入り口から二階へと登っていく。

「………………」

 異常だった。

 真冬だというのに、事務所の室内であろう場所は、適温を保っていた。

 屋根も壁もなく、冬の夜空の真下、裁也は椅子に座って相手を待つ。

 柄をテーブルの上に置き、夜空を見上げると、

「こんばんは」

 と、不意に声を掛けられた。

 裁也の目の前で、空間が歪みながら一人の少年が現れる。

「こんな月の綺麗な夜は、とても気分がいいね裁也」

「そうだな一。いや、悪魔か」

 裁也がそう言うと、一は苦笑する。

「悪魔でも月の綺麗さには感動を覚えるものさ。人間と同じようにね」

「随分と人間臭い悪魔がいたもんだ」

 裁也が嘆息すると、一は微笑んだ。

「久し振りだね、裁也。因縁に決着はつけてきたみたいだね」

「久し振りだな、一。俺はゼロとの決着をつけてきたぞ。後は、お前との因縁を終わらせにきた」

「終わらせにきた? そんな有り様で、僕に敵うつもりかい?」

「戦いにきたわけじゃない。対話で終わるなら、それはそれで俺は構わない」

「ふむぅん」

 唐突に、ガチャン、とテーブルにティーカップが二つ置かれる。

 何もない空間から一はコーヒポットを取り出し、カップにコーヒーを注ぎこんだ。

「何のつもりだ?」

「話が長くなりそうだからね。喋れば喉が乾く。そうだろ?」

「コーヒーを飲めば、余計に喉が乾くだろ」

「そうなの?」

「以前言ったはずだ。憶えてないのか」

「まあいいじゃん、難しい事はさ。そんなに長くなるわけでもないし」

 ため息をつきながら裁也は注がれたコーヒーを一口飲む。

 それもそうだ。

 長くなっても、一晩中語り明かすわけではあるまい。

 一もコーヒーを飲み、皿にカップを置くと「さて……」と話を切り出した。

「まずはおめでとう、と言っておこう。皇零との決着、如月花蓮と結維を救った事は称賛に値するよ」

「ふん……。俺は結局、零は助けられなかった。その点じゃ、俺はアイツに――お前に負けたもんだよ」

「いやいやいや、そんな事はないさ。現に僕は驚いている。君と零の友情が、彼の本来の〝ペルソナ〟を呼び覚ましたわけだからね」

「……その、本来の〝ペルソナ〟ってのは何だ? アイツも最後に言っていた。『狂った皇の人格』ってやつに関係してるのか?」

「ふむん? 何だ、そこまで辿り着いているわけじゃなかったのか」

 残念だな、と一は言う。

 裁也が黙っていると、「まあいいか」と一は呟いた。

「特別に教えてあげるよ。これはここまで頑張った君へのご褒美だ。

 いいかい裁也。皇はね、長い年月この国を裏で支配してきた家系だ。これは君も知ってるね?」

「ああ」

「そう。だけどね、長い年月支配してるって事はつまり、優秀だという事だ。だけど単に優秀なだけだったら、とっくに皇の家系は他の連中に滅ぼされている。そうだろ?」

「まあ……わからんでもない」

 優秀なだけでは無理か。

 確かに、不確定要素が混じれば簡単に破滅する。運やコネ、周囲とのコネクション等も関係してくるのだろう。

「皇の連中もそれは解っていたようでね、それはまあ随分と臆病になっていたもんだったよ。財や地位を築いた連中ってのは、それを失うのが最も怖いらしい。

 ――だからこそ、アイツらは絶対的な力を欲した」

 要はこの僕さ、と彼は言った。

「何代か前かな? 連中は、家柄の中で一人の子供を選出した。失っても害のない、それでいて優秀な子供をね。

 そしてその子供と僕は契約したわけだ」

「………………」

「結果、彼と僕はめでたくパートナーとなり、皇の連中の地位は強固なものとなった。沢山の代償を払ってね」

「だろうな。お前が、何の見返りもなく契約するはずがない」

「くふふぅ。お褒めに預かり光栄だよ」

「……で、一体その子供は何を差し出し、お前は何を得たんだ?」

「皇の家系全員の魂」

「――ッ!?」

「僕が言ったんじゃないよ? その契約した子供が言ったんだ。『僕以外の皇の人間をお前に提供する』ってね。

 いやはや、その時はさしもの僕もビックリしたね。まさか、自分以外の人間を差し出すとは、さすがの僕も驚愕したよ。よっぽど彼の、皇への憎しみは根が深かったようだ」

「それでお前は……全員分の魂を喰らったのか」

「うん。別に断る理由もないしね。それに彼らも満足なんじゃない? 皇の地位を確立したかったっていう彼らの願いは叶ったわけだし。幸せそうに死んでったよ」

 クックック、と一は当時の事を思い出したように嗤う。

「生贄の多さに満足した僕は、その子供に彼が望んだ以上の力を与えた。そして皇は繁栄し、日本を裏で牛耳れる程の状態まで昇りつめた。優秀な子供も沢山、生まれてきたしね」

「……だが、お前はいまこうして俺と契約を結んでいる。何故だ?」

「簡単な事だよ。喧嘩別れさ」

「……何?」

「やっぱ人間、分不相応な力を手に入れちゃうと、傲慢になっちゃうのかね~? それとも、彼だけやっぱり異常だったのかもしれないし」

「……解るよう説明してくれ」

 不意に、一の身体が溶け出し黒い液体が裁也の喉に絡みついてきた。

 耳元で、おぞましい声が囁かれる。

「――奴はな、このオレを殺そうとしたんだよ。勿論、返り討ちにしてやったけどな」

「何……だと?」

「アイツは俺が邪魔になったんだ。だから、人格だけを次の世代に憑依していった。ペルソナだけを移植して、オレをずっと狙ってたんだよ」

「……それは、つまり……」

「そう。皇零にも、移植されてた。つまり今回の戦いは、皇零と石杖裁也の戦いではなく、このオレ、西尾一と皇の亡霊との戦いだったわけさ」

 皇の呪われた人格――

 それが初めて一と契約した皇の人間のモノだったという事か……。

「そしてオレは、オレを殺そうとした連中『石杖』の家系の子供――つまり、お前と契約したわけだよ」

「――ッ!?」

「『石杖』は皇の傍流だ。ついでに言うなら『如月』も皇の遠縁に当たる。今回の事件は偶然なんかじゃねえ。言うなら、神々の壮大なゲームだったわけだよ」

 神々のゲーム――

 零が最後に言っていた言葉。

 その意味が、一に説明されやっと理解出来た。

「じゃあ……これは、この戦いは元々お前や皇の爺さんに仕組まれていたって事か?」

「大半はな」

「大半?」

「ああ、大半だ。まさか、このオレが読みきれねえイレギュラーが発生するとは思わなかったがね」

「イレギュラー? 何だよ、それは」

「お前だよ、石杖裁也。お前が、俺にとってのイレギュラー。突然現れた事象だ」

「……俺がか?」

「ああ。本来はな、以前のロスト・クリスマス事件で、俺と奴の戦いは終わらずにまだまだ続くはずだったんだよ。お前はあそこで死に、俺は新たな手駒の候補者を探す予定だった。――だけど、お前は生き延びた」

 裁也の喉を圧迫していた触手が消える。

「――これも、運命ってやつなのかねぇ。僕が決着をつけるんじゃなくて、裁也がケリをつけてきたわけだしね」

「お前の予定じゃ俺は死ぬはずだったが、結維はどうなってたんだ」

「あの子は本来関わりあう人間じゃなかった。この物語に参加する以前の人間だったんだけどね。これもまた、運命、なんだろうね――」

 一の声が次第に遠のいていく。

 眼前にあった気配も薄らいでいった。

「一、お前――消える気か?」

「まあね。この世界に今のところ用はないし、君ももう僕がいなくても十分やっていけるだろ」

「――この力と武器はどうする。お前がいなくなったら、効力は発揮しないんじゃないのか?」

「それは違うよ。君と僕は繋がったままさ。危なくなったり、面白い事があったら、また君の前に姿を現すさ。それに、その力はとっておけ。いつ必要になるか解ったもんじゃないからね」

「……まだ俺に、使う機会があるって事か?」

「さあね。使わないに越した事はないけど、この世界は謎に満ち溢れてる。イレギュラーは絶対防げない現象なんだよ」

「悪魔のお前でもか?」

「悪魔の僕でも、だよ」

 一の姿が掻き消えていく。

 悪魔は――西尾一は笑って言った。

「じゃあね、裁也。また今度会おうね」

 別れの挨拶を済まし、彼の気配は完全に消失した。

「じゃあな、一。なるべくだったら、俺はもうお前と会いたくないけどな」

 皮肉を言い、裁也は星空を見上げる。

 冬の風が、ひどく身に凍みた。

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