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ペルソナ  作者: ウミネコ
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最終章『Zero・dark・hour』第二十二話

 切り裂かれた右目。

 閉ざされた視界。

 裁也の両眼は、いま暗闇しか映さない。

 痛みと底知れない恐怖。

 耳朶に響く癇に障る哄笑。

 這いつくばる地面が、酷く冷たい。

「クハハッ! 裁也ッ! 無様だな!!」

 皇零が裁也を蹴り飛ばす。

 残留人格である結維を投げ捨て、零は裁也の足にナイフを突き刺した。

「――ッ、ぐああああっ!!」

 裁也は刺された足を抑え呻いた。

「……これでもう、何も出来まい」

 零はナイフを捨て、裁也の頭を踏みつける。

「なあ裁也……。これでもうお前はお終いだ。何か言い残す事はあるか?」

「――――――ッ」

 裁也は無言だった。

 いや、それは違った。

 激痛で身を苛む彼は、言葉に出来る余裕などなかった。

 ひゅー、ひゅー、とか細い呼気が聞こえるだけで、裁也は心中の言葉を吐露するには至らなかった。

 即ち、如月結維を見逃せ、と。

 即ち、如月結維を救い出す、と。

 暗闇に心を囚われる中、裁也は自身の安全ではなく、結維の事を考えていた。

「……反抗的な目付きだ」

 パチン、と指を鳴らすと、気絶していた結維の人格が目を覚ます。

「え……? なに、これ……?」

 彼女はきょろきょろと周囲を見回す。

 今までの記憶はないらしく、突如自分がこのような惨劇の場に出くわした事に目を白黒させている。

 慌てふためく彼女の前に、零が――結維の顔をした零が優雅に挨拶をする。

「やあ如月結維。この顔では初めましてだね」

「……え? わたし……?」

 自分の顔に挨拶され、結維は混乱した。

 鏡の中の自分が挨拶をする。

 そんな不可思議な事がいま、現実に起きていた。

「ううん……そう、そうか……、そういうことか……」

 自身に話しかけ、彼女は自分を落ち着かせる。

「私は、貴方に身体を乗っ取られた。奇妙な機具を沢山つけられ、意識を失った時にはもう、どうしようもなかったのね……」

「聡いな。さすが花蓮の妹、といった所だ」

 マントを翻し、死に体の裁也を零は指差す。

「たつ、や……? 裁也ッ!? どうして!?」

「君のヒーローも、私には敵わなかった。いや、私達、かな?」

「何を……――ッ!!」

 零の纏う雰囲気がガラリと変わる。

 結維が既に知っている、馴染みのモノに……。

「お姉ちゃん……」

「結維……」

 人格を交替した花蓮は、結維に近づくとその頬を撫でる。

「……自分の顔が、こうして目の前にあると違和感を覚えるものね」

「おねえ、ちゃん……何で……」

「こんな事をするのかって? それはもう、貴女は既に知っているでしょ」

 結維はコクン、と頷いた。

 結維は何故、姉が自分に残酷な仕打ちをするのかをもう知っている。

 ただそれを、その理由を口にするのが怖かっただけだ。

 自分が内心感じていた疑念が、ただの妄想だと願っていただけだ。

 だがそれは都合のいい願望であって、未来に続く現実ではない。

「……お姉ちゃんは、私の事、嫌い、なんだよね……?」

「ええ。嫌いよ。好きな時もあった。だけど今の私は、貴女の事がこの世で一番嫌い」

「――――ッ!!」

 解っていた事だが、正面切って言われると辛い。

 頭に血がのぼり、足元がおぼつかなかったが、結維は続ける。

「……うん……知ってた、よ……。お姉ちゃんが、私の事、キライなんだって事は……。でも、私は信じたくなかった……。だって、私はお姉ちゃんが憧れだったんだもの」

「そうね。それも知ってたわ。だからこそ貴女が私は疎ましくなった。貴女の持つ、その歌の力が、私にもあればって思ったわ……」

「うた……?」

「そう……歌よ……。私にも貴女みたいに振るまえればと思った。ああやって、沢山の人を集めて、歌を歌って、人に喜んで貰えたらって思ったものよ……。

 私は、貴女が、羨ましかった……」

 面を伏せる花蓮。

 そんな彼女に、結維は手を伸ばすが、無下に払われる。

「――ッ! 何するの!?」

「……同情ならいらないわ。貴女は、私の手の上で転がってればいいのよ」

 見下した表情で花蓮は結維を睨む。

「その目つき……知ってる。お姉ちゃんが、私の事を、どう思ってたのかも」

「そう。言ってご覧」

「お姉ちゃんは、私の事を道具や玩具や動物だと、その程度だと思ってたでしょ。

 せいぜい、自分の気を紛らわせるペットだと、お姉ちゃんは思ってた……」

 結維の言葉に、花蓮は意外そうな表情を浮かべる。

「あら? 見透かされてたのね。さすが私の妹って所かな」

「馬鹿にしないで! それでも、私は、お姉ちゃんの事を信じたかったんだからっ!」

 パンッ! 結維の平手が花蓮の頬を叩く。

 涙を浮かべ、花蓮を睨んだ。

「……お姉ちゃんの事、好きだったんだからッ……!!」

「ふん……」

 そっぽを向き花蓮は、懐から拳銃を取り出し、結維に突きつけた。

「黙ってても死ぬ運命だから見逃してあげてたけど、これ以上その生意気な口を開くならこれで殺してあげようかしら!」

「――ッゥ!!」

 花蓮が引き金に指をかける。

 結維はジッと銃口を見つめ、花蓮を睨みつけた。

「……その瞳が、本当に嫌いだったわ……!!」

 サヨウナラ、結維。

 そう呟いて花蓮は引き金を弾いた。

 乾いた薬莢音が冬の夜空に響く――

そろそろ終わりになります。

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