最終章『Zero・dark・hour』第二十話
「なあ、花蓮。君は一体何がしたかったんだい?」
「さあね。私は、私自身の事も何も解っちゃいなかったって事かしら」
それは奇妙な光景だった。
周囲には誰もおらず、自分が自分に話しかけているようだった。
「君は、私の野望を叶える為に私に賛同してくれた。そうだね?」
「そうね。過去の私は、貴方の事が好きになり、貴方の夢に賛同した。そしてそれは間違いだった……」
セントパレスチナタワーの最上階。
ここより下の世界は、地獄と化している。
断続する震動。
四方八方から広がる火の手。
白煙は止むこと無く。
炎は天を焦がしている。
まるで、かつてのロスト・クリスマスの再来だ。
「私は裁也に敗れ、君は死にかけ、そして妹の気まぐれで復活した。だが……」
「?」
少女は――如月結維の肉体に宿る人格『皇零』は、そこで頭を振った。
「私には、君の考えが読めない。君は、私に復讐したいのか、妹を壊したいのか、裁也に殺されたいのか。
それとも、私に加担して世界を壊したいのか、妹を守りたいのか、裁也を解放したいのか。
そのどれもが有り得そうで、どれもが違うようで……。
君は一体、何をしたかったんだい?」
「…………。そうね、私は一体何がしたかったのかしら?」
結維に潜む人格『如月花蓮』は、屋上をつかつかと歩き、地上を見下ろした。
地上から聞こえる悲鳴、阿鼻叫喚を耳にし、目を閉じて、破顔する。
「ねえ零。私にはね、自分でも解らなかった願望が潜んでいたの。周囲を破滅させたい、破壊したいという願望。
でもそのくせ、自分の大切だと思う物や人を守りたい、慈しみたいという相反した感情も持ち合わせている。
これは、立派に『人間』だという事にならないかしら?」
「『人間』ねえ。普通の人間ならば、ここまで酷い事を躊躇なくやれるとは思わないが」
「それも『人間』だからよ。いつの世も、悲劇をもたらすのは人間よ。彼らの意志が世界を破滅に至らせている。それは歴史が証明しているって、貴方が言った言葉よ、零」
「ふふっ、そうだったかな」
彼は笑い、漆黒のマントを翻す。
顔面を被う黒のバイザーを装着し、屋上の扉を睨む。
「さて、そろそろ告死者――フィクサーが来るぞ。全てを終わらせる為に」
「そうね。彼が選ぶのは、過去の亡霊かしら。それとも未来の希望かしら」
「現在に囚われて破滅する、という選択肢もあるのかもしれないぞ」
「それも運命が決める事よ。女神様がいるとしたら、どんな結末を選ぶのかしら?」
扉が開く。
少年と少女が手を携えて、かつての夢の跡にやってきた。
「そこまでだ、皇零!!」
少年がいきり叫び、私は笑った。
「その名は、この場では不似合いだ! 私は〝ゼロ〟!! それ以外の何者でもない!!」
「うるさいっ!! オマエの野望も、ここで、今度こそ終わらせる!!」
突きつけてくる分子刀。
輝く銀の双眸。
それは与えられた異端の力。
それもこれから封印される。
「フッ、強がるなよ裁也。お前は、これから死ぬんだ。愛される者に裏切られてなァッ!!」
「いきがるなよっ!! お前が、これから死ぬんだよっ!!」
「では開始しよう――終曲をッ!!」
パチン、とゼロは指を鳴らす。
それを合図に、裁也の左目が切り裂かれた。
隣に立つ、如月結維の人格によって……。




