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ペルソナ  作者: ウミネコ
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第一章『学校占拠事件』六話

『トライブ』による如月結維捜索が始まった。

 結維は、『トライブ』の首領と思われる人物が彼女の名前を告げた瞬間、顔を俯いた。

 側にいる詩音が、結維を抱きしめて、周囲から顔を隠してくれている。

 結維の名前を知っているクラスメイトも、この混乱でバラけてしまい、幸いな事に結維の周囲にはいないようだ。

 ――何故謎の犯罪者達が自分を探しているのだろう。

 結維はその可能性、理由を考える。

 理由不明、意図不明、意味不明。

 正直な所、連中が自分を狙っている理由が解らない。

 仮にあるとしたら、ネットシンガー『YUI』としての顔で恨みを買った事だろうか?

 だが、YUIの正体は、事務所の人間位しか知らないはずだ。

(もしくは、その付近の関係者か……。いや、でも……)

 結維は首を振る。

 彼らにも特別恨みを買った覚えはない。

 まだ駆け出しのネットシンガーを潰すライバル事務所があってもおかしくないが、それにしてはメリットが薄すぎる。

 むしろ強硬手段に出るほうが彼らにマイナスのはずだ。業界にも〝ルール〟があるのだ。

 その〝ルール〟を破って危険を侵してでも、YUIを追い込むメリットが結維自身見当もつかない。

(はたまた、その〝ルール〟すら知らない無法者か、全く関係ない人?)

 その前に、こんな大がかりな事を表立ってやるわけないと、はたと気づく。

 その筋の連中が、業界の〝ブラック〟を面に出すハズがないのだ。

 そうなると本当に見当がつかない。

 何故、連中は如月結を狙うのだろうか……。

「ふーむ、これではらちがあかないな」

『トライブ』が結維を探し始めて、かれこれ一時間は経過していた。

 黒バイザーの男は、片手に写真を持ち一人一人女生徒との顔を一致させようとしていたが、ひどく効率の悪い事に気づいたようだ。

 こんな事をしている間にも、外部に残った人達が校内の異変に気づき、何らかの対処をしているだろう。

 その内、警察が来てテロリスト達を逮捕するはずだ。

 それまでの我慢、時間との勝負だ、と結維は肚を決める。

 決意を胸に、結維は詩音の服の裾をギュッと握りしめると、『トライブ』の連中が何人か集まり、小言で話し始めた。

 何言か交わすと、急に男が声を張り上げた。

「諸君ッ、我々には時間がない! 君たちも何時間も拘束されているのは、不本意のはずだ! なので、我々から提案がある!」

 どよどよと、周囲がざわめき始める。

 ――不意に、嫌な予感がよぎった。

「我々が顔を確認するのは効率が悪い! よって、本人からの自己申告を求む事にした!」

 ハァッ!?

 何を馬鹿な事を言っているのだと考えていると、黒服が手近な女生徒を一人捕まえて立たせた。

 そして頭に拳銃を突きつける。

「ヒゥッ!? な、何で……?」

「むぅ、どうやら君も違うか……。

 如月結維ッ!! 君がこの場にいる事は我々は既に知っている!!

 もし君が名乗りでてこなければ、このか弱い女生徒を殺す羽目になるぞ!!」

 ――ッ!? 何だって!?

 男はクツクツと嗤い声を漏らす。

「我々が殺すのではない! 君が殺すのだ!! この無関係な少女をな!!」

「ひゃぅ、ヤ、ヤメテ……くだ、しゃい……!」

 ゴリッと銃口を名も知らない女生徒に男は押しつける。

 結維は咄嗟に立ち上がろうとするも、詩音に押さえつけられた。

「止めないでよ、しぃちゃん! 私が出てかないと、あの子、殺されちゃうよ!」

「バカ、結維! 今、アンタが出て行ったって、あの子が殺されないなんて保証ないんだよ!?」

「で、でも――――ッ!?」

 パァン、と銃声が鳴る。

 どうやら男は我慢の限界を感じたのか、生徒を殺したようだ。

 館内に小さな悲鳴と、絶叫がこだまする。

「如月結維……。もう一度言うぞ! さっさと出てこいッ!! 出てこなければ、次は二人殺す!! その次は三人だ!! 貴様が出てくるまで、我々は血の雨を降らし続けるぞォッ!!」

「――ッ……ゥ!!」

 結維は詩音を引き離そうとするも、彼女も負けじと結維を離そうとしない。

 キッと詩音を強く睨むが、詩音は首を振るだけだ。

 どうする!? どうすればいい!?

 このままじゃ、人がどんどん死んでいく。自分とは関係のない人達が、次々と――〝あの時〟のように――



「待ってくれ!!」



「ッ!?」

 不意に上がった叫び声に、全員が声の主を見た。

 彼の名は石杖裁也。

 昨日入ってきた不思議な転校生。

 彼が一人立ち上がり、結維の方を指さしていた。

 黒服の男は裁也に近寄り、ジロジロと彼を睨めつけているようだった。

「何だ貴様は?」

「あそこに如月さんがいる。アンタらの目的は彼女だろう? さっさと連れてって、僕たちを解放してくれ」

「フム。自らの保身の為に君は仲間を売るというのかね?」

「仲間じゃない。人間は皆一人だ。自分の為だったら、友情も愛情も価値なんてないさ」

「ほぅ……。その歳でそこまで達観してるのか、君は」

「年齢は関係ない。生きてきた内容で人生は決まるんだ。薄めてきた生に、何の意味がある」

「なるほど。じゃあ、この場で死んでも君は構わないと?」

 チャキッと銃を裁也に向ける黒服。

 裁也はその銃口から目を逸らさず、コクン、と頷く。

「面白い」

 黒服が引き金に指をかける。

 殺される、と思った瞬間、裁也は殴られ地面に投げ出された。

「少年、君には興味が湧いたぞ。この件にかたがついたら、私直々に尋問してやる。光栄に思え」

 裁也は無言で唾を吐き捨て、黒服を睨んだ。

 その尋常ではない殺気のこもった目つきに、黒服の男はたじろいだ。

「よ、よし。如月結維を連れてけ!」

 黒服が仲間に指示を出し、結維を拘束する。

「ッ、こ、この、結維を連れてくな!」

 詩音が抵抗しようとするが、連中に顔を叩かれて転んだ。

「乱暴しないでッ!! ……私、行きますから……」

 結維は詩音を、大事な親友を抱きしめる。

「ありがと、しぃちゃん。――行って来るね」

「結維……! 結維――ッ!!」

 笑顔で詩音から離されていく結維。

 トライブに連れてかれる時、石杖裁也のすぐ側を通ったので、彼に聞こえるように呟く。



 ――私を見つけてくれてありがとう――



 裁也はバッと結維の方を振り向いた。

 彼女が扉の向こうに消えていくまで、彼は呆然と結維を見送った。

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