最終章『Zero・dark・hour』第十四話
「……ここか」
黒塗りのハイヤーから一人の少年が降り、炎上するセントパレスチナタワーを見上げ、呟いた。
「前と違ってるのは、昼か夜かの違いだけだな……」
周囲は既に大混乱を迎えていた。
度重なる怒号と阿鼻叫喚。
パチパチと爆ぜる音は、今も尚建物が燃え続けている事を示している。
かつての光景がリフレインし、現在の光景と重なる。
――ロスト・クリスマス事件の再来。
巷で、今回の事件はそう呼ばれていた。
空を見上げると沢山のヘリコプターが。
地上ではいくつものバンが止まり、TV局のリポーター達が、現場の様子を如実に伝えているのだろう。
ネット世界では、完全にお祭り状態で、高みの見物、事件の被害に遭っていない輩が今回の一件を煽っている。
ゼロの犯行声明も流れていたので、『ゼロ事件』は、既に世界中に流れていた。
「相変わらずふざけた野郎ねっ! 自分の墓標をわざわざ、自分で壊すなんてね!」
ハイヤーの奥からゴスロリファッションに身を包んだ少女が降りてくる。
「俺らの兄貴はブッ飛んでるンスよ、月夜姉さん」
そんな事今更でしょう、と言い腹に蹴りを一発見舞われ、少年は――皇帝人はうずくまる。
「んなこたあ、知ってんのよ! 私が言いたいのはね、自己破滅願望の女がどうしてここをまた選んだのかって事よ! ここはね、私が壊して再建した場所なんだから!」
ムキーッ、と地団駄を踏む少女――皇月夜は激しく憤る。
どうやら、自分が壊すのは良いらしいが、他人に壊されるのは我慢できないらしい。
相変わらずふざけた性格だ、と少年は――石杖裁也は心の中で思う。
「……ここが、自分の死に場所だって、花蓮も知っているんだろう」
ボソッと呟いた言葉に、月夜と帝人がピタッと喧嘩を止める。
「何それ? あの破滅願望が、死にたいとでも言ってたの?」
「………………」
裁也は月夜の質問に答えず、沈黙を貫いた。
一の事務所で起きた件は、月夜には何も伝えていない。
当然、あのパソコンから聞こえてきた音声に関しても、だ。
裁也が何も答えないのを知ってか、月夜はため息をついた。
「まあいいわ。でも裁也、アンタ一つ勘違いしてるみたいだから教えてあげる!
アイツはね、あのクソ兄貴はね、自分は死ぬつもりなんてこれっぽっちもないわ! むしろ、あの子を利用して自分は生き延びるつもりよ!」
兄貴と花蓮は全くの別物なんだから、と月夜は言った。
「解ってるよ。俺だって、お前達程じゃないにしろ、皇零の事は解っているつもりだ」
「だと言いけどね」
ハン、と鼻で笑い月夜は炎上しているセントパレスチナタワーを見上げる。
燃え盛る獄炎を見つめ、彼女は「熱いわね」と言った。
「以前は、高みの見物で遠くから観賞するだけだったけど、実際、自分の眼で見て通すととんでもない迫力があるわね」
「……そうだな」
「そこに、その地獄にアンタはこれから飛び込もうとしている。その意味、解ってる?」
「……ああ。解ってる――」
パン、と平手打ちが裁也の頬に炸裂した。
何するんだ、と抗議の眼差しを向けると、ギョッとした。
月夜が泣いている。
「アンタ……全ッ然解ってないッ! こんな所入れば、アンタ、死ぬに決まってんでしょ!? それなのに、何でアンタはそんな平然としてられんのよッ!? おかしいでしょ、普通!? 間違いなく死ぬわよ、アンタ!? その意味、解る!?」
「……解ってるよ」
「――ッ!!」
尚も平手打ちをしてくる彼女の攻撃を裁也は受け入れる。
これから自分がどんなに馬鹿げた行為をするのか、その行為を咎めているのだ。
裁也は自分を止めようとしている月夜に感謝する。
今まで、裁也を非難する者はいても、行為を咎める人間など皆無だった。
ましてや、死地に赴く人間を引き止める人間は、周囲に誰もいなかった。
誰も彼もが、石杖裁也なら生還出来る。
石杖裁也なら、地獄からでも復活する。
そんな事を思っていたに違いない。
だが、そんな事はないのだ。
裁也も人間だ。
怒りに身を委ねる事もあるし、悲しくなれば涙も流す。
眼前の脅威を目の当たりにすれば、恐怖に支配される。
それをこれまで裁也は必死に取り繕ってきたのだ。
自分に、〝仮面〟を作ってきたのだ。
自分ではない、もう一人の〝自分〟を――
でなければ、石杖裁也は、とっくに壊れてしまっていただろう。
――だがそれも最後だ。
この事件を乗り切れれば、壊れてしまっても構わない。
「……月夜、ありがとう」
月夜を抱き寄せ、裁也は感謝を告げる。
「――ッ! な、なにを……!?」
「こんな俺のために、お前は必死になってくれている。それが、俺にとっては嬉しいんだよ」
月夜を引き離し、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。
潤んだ瞳で、今にも泣きそうな月夜。
透明な涙は、彼女の心そのものだ。
本来彼女は優しいのだろう。だがそれが皇の家系においては好ましくない、必要ない性質なのだろう。
月夜も帝人と同様に、皇から離れるべきなのだろう。
だが、月夜はそれを由としない。
それは彼女の〝敗北〟であり、〝逃走〟だ。
皇月夜の矜持が、それを決して許そうとはしない。
彼女はこれからも、皇と正面切って戦う。
もしくは、内側から皇を変えていくだろう。
その時、隣に立つ人間は、俺じゃあない。
俺はこれから死にに行く人間だ。
既に死に体を迎えている人間だ。
だから、皇月夜の隣に立つ人間は、別の人間の役目だ。
裁也は月夜から離れ、タワーの正面を見据える。
コートを脱ぎ捨て、分子刀を構えた。
「――じゃあな、月夜、帝人。生きてたら、また会おうぜ」
「――ッ!! 待って、裁也ッ!! 待ちなさい!! 裁也アァッッ――!!」
月夜の叫び声を背に、裁也は駆け出した。
群衆をくぐり抜け、一人、炎上するセントパレスチナタワーへと突入する。
ロスト・クリスマス事件の再来。
この日、全てに決着が着く――
ガンダムGのレコンギスタが面白い。
∀ガンダムっぽくて、富野監督らしさが出てる。
今季、アニメ良作が多くて嬉しい。




