最終章『Zero・dark・hour』第九話
「うああああぁぁっっ!!」
分子刀を振りかぶり、皇花蓮に振り下ろす。
花蓮は薄ら笑みを浮かべ回避し、裁也が持っている分子刀と類似した剣を取り出し、斬り掛かってきた。
擬似分子刀。
裁也はソレを以前皇研究所で目撃している。
チッと舌打ちし、裁也は花蓮と切り結んだ。
「中々遅い復活だったな、裁也。もう少しでお姫様をもらうところだったぞ」
「ッ! お前、零の方か!!」
一瞬の動揺を突かれ、鋭い蹴りを腹にもらう。
咄嗟に後方へ跳び、勢いを殺すも裁也は地面に膝をついた。
酷い目眩と頭痛。
先程のクスリの効能が未だ抜けきらず、じわり、と裁也を蝕む。
「苦しいだろう? あのクスリは試作品だが、効果は実証済みだ。花蓮とのキスは君も望んでいた事なのにな」
クツクツと裁也を馬鹿にしたように零は嗤う。
「うるせえ! 相変わらず人の心を弄びやがって! そんな事して、楽しいか!?」
「ああ、楽しいな。愚かな人間が、私の掌の上で転がされる様は極上の楽しみだ」
「そんな事だから、肝心な所で他人に裏切られるんだよ、お前は!!」
「フン。自分の事を言っているのならお門違いだ。私は、お前が裏切る事を想定していたよ」
「ああ、そうかよ!!」
獣じみた咆哮を上げ零に飛びかかった。
アクセラレーターをフル稼働し、五感が澄み、視界に映る景色がスローモーションで流れていく。
〝ゾーン〟と呼ばれる精神状態に入り、裁也は自分の勝利を確信した。
振り下ろした剣。
防がれ、裁也は地面に着地する。
即座に足払いを掛け、零はたたらを踏んだ。
だらんと垂れ下がった血まみれの腕。
腹部ががら空きになり、刀剣を突き出す。
「――ッ!?」
スローモーションの世界の中、零が嗤った。
赤く染まった手から刀身が見えた瞬間――
刃は裁也の頬を抉る。
裁也は地面に転倒し、痛みで呻いた。
アクセラレーターの接続は切れ、平常に戻る。
何が起きた?
裁也は眼前で起きた出来事に、脳の認識が追いつかない。
裁也は零を捉える。
まさかと思うが……
「お前、見えているのか……?」
裁也の疑問に、零は笑うだけだ。
(そうか……そういう事か……)
ふと得心がいった。
裁也の異常な反応速度に追いつける理由。
それは即ち、皇零もまたアクセラレーターを得ているか、それと同等の何かが備わっているという事実。
でなければ、普通の人間が裁也と互角なはずがない。
「一つ言っておくが、私のこの力にあの悪魔は関与していない。これは、あくまでも一時的な力だ。時間が過ぎれば、失われる産物」
最も、種を明かすつもりはないがね、と零は言う。
「上等だ。ならその種を知る前にお前を倒してやる」
精神と肉体のリンクを断つために、金色の眼を発動させる。
「やめておけ。それを使えば、お前が苦しむ羽目になるぞ」
「? どういう意味だ?」
「いまこの私の精神を切れば、自動的に花蓮の精神がリンクする。そうなった時、お前に花蓮を殺せるのか?」
「……そうなったら花蓮の精神のリンクも断ち切る。そしてその後、殺すさ」
「ククッ、貴様にそれが出来たら始めからやってるさ。君は冷酷な仮面を被っているが、元来は優しく甘い男だ。その〝ペルソナ〟を剥ぎ取れば、君は臆病者に成り果てる」
「………………」
自身の内側を見透かした様に言う零。
裁也は肯定も拒絶もしなかった。
確かに零の言うことにも一理ある。
その時が来たらどうなるのか、それは裁也自身にも解らない事だった。
ふと結維の方を一瞥する。
彼女は行く末をハラハラと見届けている。
可能ならば、結維の為にも花蓮を救ってあげたい。
だが、裁也にはその方法が解らない。
そもそも、そんな方法があるとも思えなかった。
「裁也! 危ないっ!!」
「――ッ!?」
結維が叫んだ刹那、裁也は顎を掌底で打ち抜かれた。
脳が揺さぶられ、視界が暗転する。
零は腕を掴み、裁也を投げ飛ばした。
「……が、はっ……!」
肺の空気は全て排出し、一瞬意識が遠のいた。
地面に寝ている裁也に、零はマウントを取る。
そして剣の切っ先を裁也の喉元に突きつけた。
「チェックメイトだな、裁也」
「クソッ……!!」
以前とは真逆の立場。
血とは別の香りが漂う。
甘ったるく、芳しい匂い。
昔嗅いだ、花蓮がつけていた香水。
あの頃、憧れていた人がいまは敵。
どうしようもない現実に裁也は打ちのめされる。
「……殺せよ」
「フハッ! ハハッ! 是非もない! それが望みなら、殺してやろう!」
さらばだ、我が友よ。
零は一度引いた剣を勢い良く突いた。
「ダメエエエエェェッッ!!」
結維が突如割って入ってきた。
零にタックルし、二人はもつれ合う。
「ダメ! 裁也を殺さないで!」
「……うぐっ! 放せ、依り代よ!」
「嫌っ! 絶対放さない!!」
絡み合い、衣服が乱れていく結維と花蓮。
解放された裁也は金の眼を発動させ、結維の精神リンクを断った。
結維が裁也の攻撃の巻き添えにならないように。
ガクン、と糸が切れた人形のように気絶する結維。
裁也は結維を抱きかかえ、銀の眼を発動させる。
一閃するも、擬似分子刀に阻まれ致命傷には至らず。
だがその余波で、零の血まみれの衣服が弾け飛ぶ。
そして露わになる、驚愕の素肌……
「お前……それは……?」
「チッ!」
腕の皮膚を隠すように、後退する零。
裁也が目撃したのは、赤黒く、腐り、今にも崩壊しそうな皮膚だった。
「な~るほどね」
「ッ! 月夜!!」
気づくと月夜が裁也の隣に立っていた。
「何か焦ってるから怪しいとは思っていたけど……なるほどなるほど」
一人、得心が言ったように頷く月夜。
「月夜? あれは、一体……」
「ああ……、あれね。アイツの身体、もう限界なのよ。肉体の維持がもう無理。ジ・エンドってこと」
「……?」
「つまりね、私がロスト・クリスマス時に花蓮を回収した時点で、あの子の身体は既に限界を迎えつつあったのよ。それを私が治療してあげたわけだけど……やっぱり無理だったか」
「……何の話だ?」
理解の追いつかない裁也に月夜はため息をついた。
「要はね、もう皇花蓮はお終いって事。私達が手出しをしなくても、結維を奪われない限り、アイツは遅かれ早かれ肉体が腐り、死に至る。意外とあっけない幕切れね」
……そういう事か。
裁也は憐憫の視線を零に向ける。
だが零は、それを一笑に付した。
「フッ、変わらずの愚妹だ。それまで私が何もしないでいると思うか? ただ黙りこの世から消え去ると思うか?」
「ハン。負け惜しみの遠吠えね。アンタは近い内に死ぬ。結維は裁也が護るんだから、チェックメイトよ。アンタは負け、私の勝ち。これはもう決定的な事項よ」
「だといいがな」
捨て台詞を残し零は背を向ける。
「どこへ行くつもりだ!」
「祭りの準備だ。この場の勝利はお前たちに譲ろう。いずれまみえる日も近いだろう。それまで我が依代を預けておくぞ。ハーハッハッハッハ!」
高笑いをしながら去っていく皇零。
追撃しようとするも、月夜に止められる。
「やめておきなさい。アレでも何かしら用意はしているだろうから。それに、薬の副作用が邪魔して、本来の力、出せてないでしょ?」
「チッ!」
悔しいがその通りだ。
裁也は結維を抱えながら、皇零の背中を見送る。
悔しさを滲ませながら、歯ぎしりした。
「……ううん……」
気絶する結維の顔を裁也は見た。
とりあえず今は、結維が無事な事に安堵しよう。
純粋な勝利とは言えないが、日常を、彼女を護れた事を裁也は誇りに思う。
結維を寝かせるために、裁也たちは学園へと戻っていった。
志倉千代丸先生が書く『オカルティック・ナイン』
シュタインズ・ゲートのロゴがクリソツなので、思わず手にとって見たが、
これが中々面白い。
まだ途中だけど、今後の展開が楽しみ。




