最終章『Zero・dark・hour』第三話
「ハァッ……、ハァッ……、ちょ、ちょっとミカド君、休憩しようか……?」
「え……? 姐さん、どうしたんすか?」
「走り、っぱなしで……、息、上がってるのよ……。ミカド君、平気なの……?」
「大丈夫ッス! オレ、実力派っすから!」
ゼイゼイ言う結維に対して、帝人はガッツポーズをする。
校門付近の噴水の近くに結維は座り、帝人を見上げた。
「スゴイね……。やっぱり男の子だ」
言うと、帝人は照れた様に頭を掻く。
「や、そんな事ないんすけど……。ただ、あの時以来、体力鍛えてるんスよ」
「あの時?」
「皇製薬所の火事の時ッス」
「あ……」
結維は口を手で慌てておさえる。
あの時帝人は気絶してたが、かなり酷い経験をした。
「……ゴメンね。何か、辛い事思い出させたようで……」
「? 何がっすか?」
「え? だって、アレって嫌な想い出でしょう? 思い出したくない記憶なんじゃない?」
「ああ……、まあアレぐらい序の口ッスよ! 生きてるだけ目っけもんッス!」
「ええっ!? そうなの!?」
かなり手痛い目にあってるのに、彼は平然と笑っている。
「ッスよ。それに、俺がガキの頃の方が、もっと大変だったんスから。あんなんじゃあ、皇の家は務まんないッス」
「うへぇ……。何か、想像するだけ嫌だな……」
ゲンナリする結維の肩に、帝人が手を置く。
「姐さんも、大丈夫ッスか?」
「私? 何で?」
「だって、実の姉貴と戦うの、しんどくないっスか?」
「アハッ。それ言ったら、ミカド君もじゃない」
「オレは姉貴嫌いだから別にいーんス」
帝人はキッパリと言う。
月夜が若干可哀想だと思う反面、一体これまでにどんな悪事を帝人に強いてきたのだろうか。
「でも……、姐さんは違うでしょ? ホントの姉貴を、大好きだったお姉さんと、戦えるんスか?」
「それは……――」
戦える、と言えばウソになる。
あの後、裁也から事情を聞いて、あの時起きた現実を目の当たりにして……。
如月花蓮の身体には、皇零の人格が宿っている。
確かにそう理解した。
だが、頭が解っていても、感情が納得しているわけでもなく……。
グルグルと同じ疑問が脳内で反復していた。
すなわち、如月花蓮は敵である。彼女と戦えるのか、と。
すなわち、如月花蓮はゼロである。彼女を殺せるのか、と。
その答えは、未だに出せていない。
だが……
「うん……。戦う。戦えるよ、ミカド君」
結維は立ち上がり、帝人に向き合う。
「私は覚悟が無くても、裁也には絶対ある。裁也が戦うんなら、私も一緒に戦う。これは、私だけの問題じゃない。裁也と、私の問題なんだ」
だから戦う、と結維は握り拳を作り帝人の胸に押し当てた。
帝人は、
「そっスか……」
と不安げに頷いた。
「大丈夫だよ、ミカド君! そんなに心配しなくて!」
努めて明るく振る舞い、彼の背中をバシバシと叩く。
彼の不安を吹き飛ばすように。
自分の恐怖を振り払うように。
結維はウソの笑みを貼り付け、笑った。
「~~っぅ、イタイっスよ、姐さん!」
「いやぁ、ゴメンゴメン」
ペロッと舌を出して謝る結維。
「今度やるコンサートの、最前席のチケット上げるから、許してっ」
「おおっ! マジいいんスか!?」
「いいよいいよ~。その代わり、絶対来て盛り上げてよねっ!」
「うはぁ、モチロンッスよ! オレ、マジ盛り上げますから!」
アハハ、と二人は学園の外へ向かおうとする。
そこに――
「そのライブ、私も参加していいかしら」
と、背後から声をかけられた。
バッと二人が振り向くと、一人の人間がそこに佇んでいた。
「――ッ! お姉、ちゃん! ……いや、ゼロッ!!」
そう。
そこには如月花蓮――ゼロが不敵に笑っていた。




