最終章『Zero・dark・hour』第二話
「如月結維と帝人が逃げたぁ~~っ?」
学園に紛れ込ませている部下の一人から報告を受け、月夜はしかめっ面をした。
「ったく! 何考えてんのかしらね~、あの二人は! こっちは緊急事態だってのに!」
椅子に座りモニターをつけると、二人が校内を疾走している姿が映った。
乱暴に髪をかき乱し、苛正しげに部屋の片隅に佇んでいる少年に目を向ける。
「ご覧の通りよ。どうすんの?」
「……フーッ」
少年はため息をついて、両肩を竦める。
「やっぱり俺が直接行った方が良かったか」
「何言ってんの! アンタが直接動いたら『トライブ』の連中にバレるでしょうがっ! アンタ、いま自分が行方不明って設定分かってんの!?」
月夜は少年に詰め寄って説教する。
「いいっ? これはアドバンテージよ。アンタが生死不明であれば、ゼロもおいそれと不用意に動けはしない。アンタが生きてると知れば雲隠れするだろうし、死んでると確信すれば、大規模な犯罪を巻き起こす。今のゼロ事件の規模はどれも微妙なものばかりなのは、アンタを――石杖裁也を怖れてるせい」
「そうか? アイツはそんなタマじゃないだろうに」
「いいえ。これだけは確信を持って言えるわ。アイツはアンタを怖れてる。自分に対抗できる唯一の相手と同時に、自分を殺せる人間だと認識している。それが私じゃないのは、残念だけどね……」
「月夜……」
顔を俯ける月夜に、裁也は手を差し伸ばそうとし、振り払われた。
「だから、いいっ!? 私はアンタを利用して、アイツを負かしたい! アンタは私を利用してアイツを殺しなさい! それが、あの時結んだ協定よ! 解った!?」
「……解ったよ」
裁也が決意を新たにした瞬間、ブザーがけたたましく作動した。
音量の大きさに思わず両耳を塞ぎ、月夜を見ると、彼女は目を見開いてモニターを凝視していた。
「チッ……! やられたわっ! 先手を打たれた!」
爪を噛み悔しがる月夜。
裁也もモニターを見ると、校門に一人の少女が映っていた。
「如月……花蓮……!」
黒い外套を羽織り、素顔を晒した状態で花蓮は佇んでいた。
まるでこれから誰かがここへ訪ねて来るのかを確信しているように。
「――ッ! まさかっ!?」
帝人と結維の二人が映っているモニターを見る。
二人は校門に向かっている最中だった。
「月夜ッ! 警備は!?」
「校門はノーマークよっ! あんな人通りの多い場所、絶対大丈夫だと思ってたからっ!」
「チッ!」
舌打ちし、裁也は外へ向かおうとすると、月夜に制止された。
「アンタが外行ったら、今までの準備が水の泡になるでしょ!」
「じゃあどうしろってんだ! 帝人じゃ、負けるぞ!」
「ここは様子を見るのよ! 相手の出方を見てからでも遅くないでしょ!」
「普通だったらそれでもいいだろうが、相手はあの皇零だぞ! そんな事してたら、手遅れになる!」
「あっ! ちょっと待ちな――!!」
月夜を振り払い、裁也は外へと飛び出した。
駆けながら、懐に携えている柄を取り出す。
着いた瞬間、死闘になるのを予想しての事。
裁也は唇を噛み、校門へと向かった。




