挿話
私には二つの人格が宿っている。
皇零としてのペルソナと、
如月花蓮としてのペルソナ。
どちらも〝私〟で、
どちらかは別人だ。
私が眠っている時、
皇零の人格が表層に現れる。
彼が眠っていると、
如月花蓮の人格が表層に現れる。
一つの個体に、二つの人格。
相反する矛盾を抱えた、破綻人格者。
如月花蓮の身体は、皇零の人格に侵食され、如月花蓮の人格は、消えつつある。
人格の主導権は彼が握り、花蓮の人格は深奥に眠らされたまま。
数少ない活動時間を皇零に奪われ、花蓮はとある目的を成し遂げられなかった。
徐々に崩壊する肉体。
段々と汚染する精神。
ゆるやかに、だが確実に進行している魂の劣化。
如月花蓮の死は目前と迫り、間もなくタイムリミットを迎えようとしていた。
皇零は、如月結維を欲し。
如月花蓮も、結維を求めていた。
花蓮と同調できる精神を持った皇零。
自身の野望と、彼の焦がれた夢に賛同した花蓮。
皇零を受け入れる受容体。
入念な分析の結果、如月は皇の精神を定着させやすい事が判明。
自分の肉体を失った零は、朽ち果てていく花蓮の肉体と運命を共にしようとは、考えなかった。
それどころか、新たなる活動体を求め、結維を狙った。
最初はそれでも構わないと思っていた。
結維を疎ましく思い、彼女の羨望に耐えられなかった花蓮は、零に妹を差し出そうとさえ思っていた。
だが……。
「石杖……裁也……」
記憶がリフレインする。
零と花蓮の前に立ちはだかり、彼の夢を阻んだ少年。
零に煽動された花蓮の目を、覚ましてくれた男の子。
死ぬのは怖くない。
怖いのは、心残りをしたまま消えていく事。
だから私は決着をつけなければならない。
皇零と石杖裁也。
そして、如月結維の三人と……。
「じゃあ……行こうかしら」
花蓮は――ゼロは立ち上がり、夢が潰えた墓標へと向かう。
かつて夢の始まりを告げ、終焉を迎えた因縁の地。
セントパレスチナタワー。
この場所で、全ての決着がつく。
コーヒーを飲み過ぎて、夜眠れなくなっている。
だが、止める気はない。




