幕間三
「空の飛び方忘れた天使は~~♪ こ~よいも~…………おやっ?」
西尾一が歌を唄っていると、何やら外から物音が聞こえてきた。
どうやら誰か来たようだ。
聞き覚えのある足音ではなく、初めて聞く者の足音。
招かれざる客の予感が、一はした。
「ふむぅん? まあ今の僕を歓迎したい人間はそうはいないよねぇ」
裁也もそろそろ真実に辿りついている頃だろう。
連絡が取れなくなって、生死不明だが彼とのリンクに乱れがない以上、一応生きている様子だ。
「さてさて。じゃあ、この僕に逢いに来るのはどちら様かな?」
ノックもせずドアが、ガチャっと開く。
入ってきたのは黒いマスクと外套をつけた一人の人間。
「おや? これはまた不思議なお客が到来したもんだね」
『いきなりの入室、ご無礼をお詫びする』
「いいよ、別に。これ位慣れっこだからねぇ」
テーブルに座るよう示唆するが、ゼロがそれを辞退する。
二人は立ったまま会談を始めた。
「それで? 何しに来たんだい、君は?」
『率直に頼もう。西尾一、貴方には私達の争いに介入しないでいただきたい』
「ふむぅ? 何の話をしてるんだい? いやいや、質問の仕方が悪かったね。――どれの話をしてるんだい?」
『私と彼の争いを邪魔しないで貰いたい。そう言えば、貴方には伝わるのではなかろうか?』
「うん。まあ君達二人の戦いを邪魔するつもりはこちらもないよ。ただね――」
『――ッ!?』
一のヒトとしての形が崩れる。
黒い泥へと変貌し、ゼロの身体を這い上る。
仮面の内部へと侵入し、その空間を泥で満たした。
『う――うごぉぉ……っ!』
ゼロの口内にも泥が入り、呼吸がままならない。
「……人間風情が、この俺に意見しようとはいい度胸じゃねえか……!!」
このまま殺してやろうか、と耳元で一の声が反響する。
ゼロは反論したかったが、苦しくて声を出せない。
このままでは窒息死してしまうと焦り、心の中で念じる。
(条件がある……!)
と、胸中で叫んだ瞬間、ゼロは解放された。
「ほう……、面白いな。言ってみろ、人間」
マスクを取り、ゲホゲホッ、とゼロはあえいだ。
「…………これから犯罪が起こる。貴方に、その人達の魂を提供する……」
「――フ……アハハハハハッ!」
大笑する一。
ゼロは訳も分からず、ただ黙る。
「――いやいや、堕ちたものだね如月花蓮。虫も殺さないような人間だった君が、大量の同胞を僕に提供すると? ――だが、まだ足りねえなぁッ!!」
「――ッ!! うぐっ……!!」
一の右手が霧状になり、ゼロの首に纏わりついて宙へと上げる。
首が締まって、息が出来ない……。
「ここからは、俺の一方的な条件付きで取引を終わらせよう。皇零、石杖裁也、このどちらかの魂を俺に提供しろ。
なぁに、やり方は簡単だ。お前が死ぬか、裁也が死ぬかの二択だ。どちらかが死ねば、後は俺が自動的に回収する。お前にとっては破格の条件だろ」
「邪魔は……しないで……」
「ああっ? 大丈夫だ。君達二人の決着は邪魔しないさ。むしろこれは君にとっては望ましいんじゃないかな? 二人の殺し合いは君の目的の達成に繋がる」
「………………」
無言でゼロは立ち上がり、その場を去ろうとする。
「なあに、裁也はそう簡単に死なないさ。そんなやわな奴じゃない。炎上するビルからも平気で脱出出来る人間さ」
「……約束は、守って……」
「はいは~い」
からかうように返事をすると、ゼロは事務所から出て行った。
一は、ゼロが置き忘れていった仮面を拾う。
「ふ~ん、こんなメットで人はいとも簡単に〝ペルソナ〟を変えられるのかねぇ? いやぁ、本当に飽きない種だよ、君達は……」
カラカラと嗤う一。
最も美味なる魂を持つ二人のどちらかを食せるかと思うと、涎が止まらない。
「さあ、殺し合いの始まりだ! 君達の魂の輝きを僕に見せてくれ! アハハッ! アーハッハッハ!!」
悪魔の嗤いが反響する。
果てなき輪舞曲の始まりに、西尾一は胸の高まりが抑えられなかった。
毎日書かないと、物語への糸口を見つけられないし、キャラクターの張りがなくなると、どこかの大御所作家が言っていた。
正にその通りで、最近、没入するのに時間がかかっている。前はもっと時間かからなかったのに……。
だが、現実世界の仕事で毎日執筆するのに難しい状態。
今はまだ、リアルに魂を差し出している日々であります。




