第二章『皇製薬会社の闇』第二十八話
映ったのは白い天井。
隣にはいくつもの計器が並び、輸血用の点滴があった。
腹部に圧を感じ、見ると如月結維の寝顔がそこにはあった。
……ここはどこだ?
裁也はまだ朦朧とした意識で、周囲を見渡す。
白いカーテンが風でたなびくが、窓はなかった。
ただの飾りで、空調による風が悪戯をしたのだと知る。
裁也は結維を起こさないように、自分に刺されている管を引き抜き、ベッドからソッと抜けだした。
扉を抜け出ると、清潔な廊下に出た。
白を基調とし、薄い肌色を混ぜたような廊下。
まるで皇製薬の研究所にそっくりで、ここがそうなのではないかと錯覚してしまう。
「……まあ、もちろんそんな事はないんだけどな……」
クックッ、と裁也は笑う。
裁也は入院用の服を着ていて、腕を組みながら歩く。
そして自分の境遇を予測する。
まず結維が無事な事に安堵した。
自分の怪我も深刻な状態ではなく、貫かれた傷は概ね修復していた。
問題は時間の経過なのだが……
「あーっ! アンタ! 何でこんな所にいんの!」
背後から大声で呼びかけられる。
振り向くと皇月夜が、白衣を着て怒っていた。
「皇……月夜……? どうして、お前が?」
「『どうして、お前が?』じゃないわよ! アンタ、まだ絶対安静にしてないといけないのよ! 歩き回っていいはずないでしょ! あの子は一体、何やってたの!?」
「あの子って……結維の事か? アイツなら寝てたが……」
裁也が言うと、月夜は額に手を当て頭を抱える。
「あのバカ! あれだけ目を離すなって言っといたのに! コイツが目ぇ覚ましたら消えるから用心しろって忠告したのに、これか!」
「……まあ、そう怒るなよ。どっちみちお前にこうやって見つかったんだから、別にいいだろ?」
「良くない! アンタはあの子に甘すぎなのよ! それじゃあまたアイツに足元すくわれるわよ!」
「……アイツって、皇零の事か?」
月夜は、しまった、と気まずげに顔を歪める。
そして数秒の沈黙の後、「そうよ……」と言った。
「コレ、見なさい」
「? 何だコレ?」
裁也は渡された情報端末を覗く。
ブーン、と電子音を立てて、ある映像が流れ始めた。
「ッ!? コイツは!!」
「そう。ゼロよ。アイツが活動を再開した」
映ったのは黒い仮面と外套をつけた人間。
映像内でゼロは、犯罪の声明予告と同志の呼びかけを叫んでいた。
「アンタが寝てる間、犯罪件数は増加。上昇の一途を辿ってる。多分、これからも増え続けるわ」
「……だろうな。アイツに惹かれた連中が集まり、更なる悲劇を引き起こすはずだ」
「フーン。それで、アンタはどうするつもり?」
「決まってる。アイツを止める。そして、全ての因縁に決着を着けてやる」
ギュッと拳を握り締める。
もはやゼロを止める事はフィクサーとしての仕事ではない。
石杖裁也として、皇零の野望を阻止しなければならない。
これは、使命だ。
そんな裁也の様子に、月夜は破顔した。
「……いいわね。その調子よ、石杖裁也。こうなったら、私もアンタに協力してやるわ! この天才美少女の力を借りれば、アイツに一泡吹かせてやれる!」
「……いや、別に要らないが」
「遠慮しないで! 私とアンタが組めば百人力よ! ついて来なさい! 私の力、アンタに貸してあげるわ!」
意気揚々と歩き出す月夜とは対照的に、裁也はひどくゲンナリとした。
いつ裏切るか判らない相手だけに、警戒も必要で、それだけでも余分な力を割かれそうだ。
だが――
(心強い味方である事には変わりないか)
散々苦しめられた記憶を思い出す。
皇月夜が何を企んでいるか知らないが、いまの自分には必要な人かもしれない……。
裁也は新たなるパートナーに成りうる人物の後ろを追う。
――そういえば。
パートナーと言えば、一のヤツは何をしているのだろう?
正真正銘の〝悪魔〟が、今回の一件に絡んでなければいいのだが……。
そう思い、ここを出たら真っ先に一の所へ向かおうと、裁也は決意した。
これにて、本当に第二章完結です。
前話の後書きは無視して下さい。




