第二章『皇製薬会社の闇』第十三話
「……本当に、ここ何だよな……?」
「……うん。多分、そう……」
裁也と結維は眼前の建物を見上げる。
四階建てのビルで、看板には『漫画喫茶スメラギ』と書かれており、隣には可愛くデフォルメされたキャラが描かれている。
裁也は今一度、一に渡された住所を確認した。
だが何度見ても、この場所に間違いはなさそうだった。
「ミカド君って、漫画喫茶に住んでるの?」
「知らない。プライベートは俺も関与してないからな」
いくら住所がコロコロ変わると言っても、まさかこんなセキュリティーもプライバシーもない場所に定住する筈がないと思っていたが、ミカドは自由奔放な奴なのでそれもあるのかもしれないと思った。それにしても……
「スメラギ、か……」
ミカドの姓が、皇だという事実には驚かされた。まさかアイツも『ロスト・クリスマス事件』に何らかの形で関わっていたのではないかと疑ってしまう。
(何か、因縁めいたモノを感じてしまうな……)
二年前の事件で初めて〝皇〟という一族を知った裁也は、その邪悪さに戦慄した。
これまでフィクサーになってから数々の事件を担当してきた裁也にとって、大小の事件の規模はあれど、どれも皇が関わっていた。
竜ヶ峰の占拠事件も、皇の権力で事件を圧殺した。そもそも創設者である皇ならば、学校の設計を知り尽くしていて当然だったのだ。
だから簡単にテロリストどもに占領される結果となった。
(問題は、何故皇が如月結維を狙うかだが……)
これに関しては、裁也は見当がつかない。
結維は皇と接点がないし、彼女が所属する事務所も、皇の影響力が特別強いというわけではなかった。
唯一あるとすれば、彼女の身内に関係するのだが……。
(だけど彼女はもういない。ヤツも死んだ。どう繋がるんだ……?)
裁也はジッと結維を凝視する。
「? 何よ?」
「何でもない。行くぞ」
ザッと裁也は歩き出す。
あ、ちょっと待ってよ、と結維は裁也の背を追いかけた。
二人は、皇という蛇の巣に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー」
拍子抜けする程、普通の出迎えに裁也は憑き物が落ちる思いをした。
店内は所狭しに本が並び、狭いスペースの個室が林立している。
天井は低く、薄暗い電灯が店内を照らしていた。
「本日はどうなさいますか?」
女性店員に話しかけられ、裁也はスッと名刺を差し出した。
「あ! それ、私がミカド君にもらった名刺!」
「あの時拝借させてもらった。悪いな」
「むぅぅ……」
いつの間に、と結維は唸る。
対して皇帝人の名前が記載された名刺を渡された店員は、目を見開いている。
「これを……どちらで?」
「本人から直接もらった。ミカドはいるか?」
「しょ、少々お待ち下さいませ!」
慌ててカウンターの奥へと引っ込む店員。
しばらく待っていると、「お、おまたせしました……」と出てきた。
「オーナーが話があるそうなので、ご案内いたしますね」
こちらです、と奥へと案内する店員。
裁也と結維は、彼女についていく。
「ね、ねえ、石杖君。オーナーって言ってたけど、だ、大丈夫かな……?」
ひそひそと、小声で結維が話かけてくる。
「? どういう意味だ?」
「だだ、だって、オーナーって言うから、私、てっきりミカド君の事だと思ってたけど、彼っていま行方不明なんでしょ? 何だか……うまくいき過ぎてるっていうか……何ていうか……」
「ああ……十中八九罠かもしれないな」
「ッ!? な、ならどうして!?」
「それでも先に進まないと道は開けないんだよ。それに、もしかしたらミカド本人が出てくるかもしれないだろ?」
「そ、それはそうかもしんないけど……」
「まあ、任せとけ。何かあっても、君は俺が護るから」
あう……、と結維は顔を真っ赤にして俯いた。
裁也は何で彼女が照れているのか解らず、懐に締まってある柄に、手を伸ばす。
「こちらです」
関係者以外立ち入り禁止の文字が扉に書かれている。
(さて……鬼が出るか蛇が出るか……)
この奥に、何かしらの手がかりがあると信じて、裁也と結維は扉を開けた。
『マンガ家さんとアシスタントさんと』のアニメは最高に面白いと思う。




