表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペルソナ  作者: ウミネコ
23/77

第二章『皇製薬会社の闇』第四話

「ここ……なに?」

 結維は見上げた廃ビルを前に呟く。

「見て分かんないのか? 廃墟同然のビルだよ」

 そう言って人の気配がしないビルの入り口へ入っていく。

 放課後、裁也に捕まる前に即座に教室を出たのだが、どうやって先回りしたのか、裁也が校門で待ち構えていた。

『会わせたい人がいる』

 と言われ半ば強制的に、駅から少し外れたビルに連れられてきた。

 詩音に助けを請おうとも考えたが、何となく直感で断られそうな気がして、止めた。

 ――逃げられない。

 ふと、そう悟り、渋々と裁也に付いてきたのであった。

 しかし――

 汚いビルだ。まるで幽霊屋敷同然の廃墟で、住んでいるのは人ではなく、幽霊か悪魔の類なのではないかと疑ってしまう。

 会わせたい人というのが、変態趣味の親父とかだったら、どうしよう……。

 そんな事を考えていると、裁也が入り口から、早く来い、と結維を急き立てる。

(ええい……ままよ!)

 意を決して結維は、廃ビルへと向かっていった。



「へえ……中は意外と綺麗なのね」

 結維は外見でおっかなびっくりしてた分、室内を見て、意外な感想を持った。

 特別に片付いているわけではないのだが、外とのギャップで、そう錯覚しているだけ。

「そこの椅子にかけてくれ」

 裁也は結維に座るように促し、テーブルの上に広がる資料を片付ける。

 カーテンと窓を開け、薄暗い部屋に光と心地よい風が入ってきた。

「飲み物はコーヒーでいいか?」

「え? ええ、それで大丈夫」

「苦手だったら、ハーブティーもあるぞ」

「そうなの? じゃあそれでお願いします」

 裁也は頷き、少し奥の部屋へと消えていく。

 しばらくすると、薄荷のような香りが漂ってきた。

 カップをテーブルに置き、チョコレートを絡めたラスクが添えられていた。

「良い匂いね」

「ペパーミントティーだ。鎮静効果がある。少し、緊張をほぐしておけ」

「なっ……!」

「『何で分かったの』なんて聞かないでくれ。見てれば挙動不審だ。いつもより呼吸も速いし、顔も少し赤い。落ち着きなく、そわそわしてる」

「……何でもお見通しなのね」

「ずっと見てたんだ。これぐらい解るさ」

 裁也も、結維の正面の椅子に座り紅茶を飲んだ。

「……石杖君って、私の事、好きなのね……」

 言った瞬間、ブバッと盛大に彼が紅茶をこぼした。

 そして奇異な動物を見るような目で、結維を見た。

「……何でそうなる?」

「? だってそうでしょう? ずっと見てたって事は、好きな相手とかにしかしないもの」

「……憎まれたりとか、恨まれたりとか、そういう可能性は考えないのか?」

「石杖君、そうなの?」

「……いや、違うが……」

 彼は黙って再びカップに口をつけた。

 奇妙な雰囲気になり、少し重っ苦しい空気になったのを、結維が切り開いた。

「ねえ、私に会わせたいっていう人って、どんな人?」

「……別に会わせたいわけじゃない。本当だったら会わせたくないんだ、俺は」

「なら、どうして?」

「向こうの要望だ。俺の雇い主で、この事務所の社長なんだよ」

「雇い主って……、石杖君って働いてるの?」

「まあ、ね……。といっても、実質ここは俺一人みたいなもんだ。時折、仕事の依頼者や関係者が社長に会いに来るが、俺が相手をするわけじゃない。俺は社長から任された仕事をこなすだけの、雑用係だよ」

 おかげで、何でもこなせるようになった、と裁也は苦笑する。

「ふ~ん。でも何で石杖君の社長さんが、私に会いたがるの?」

「それは――」

「――僕の口から直接言わせてもらえるかな?」

 裁也が言おうとした瞬間、奥の扉がバンッと開く。

 結維は目を皿の様にし、キョトンとした。

 そこには十歳前後の、どう見ても小学生くらいの男の子が立っていた。

 裁也は、しまった、という顔をし、彼の為に席を引く。

 男の子は、当然のようにそこに座った。

「初めまして、如月さん。僕が、この事務所の代表、西尾一にしおはじめです」

 にこやかに挨拶する男の子。

 結維は、自分の知っている世界が、足元から揺るがされた様な気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ