幕間
そこはうす暗い室内だった。
部屋は広く、たくさんの寝台が所狭しと並んでいる。
寝台の上には人のようなモノ――否、植物状態の人間が眠っていた。
「ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデーディア、ローゼー♪ ハッピバースデートゥーユー♪」
くるりくるり、とダンスを踊るように一人の少女が舞っている。
両手には純白のドレス。
顔の半分を被う白い仮面。
陽気に笑う少女は、寝台に寝ているロゼにドレスを着せる。
「今日が、貴女の新しい誕生日。生まれ変わった新しい貴女を私に見せて」
微睡みの意識の中、ロゼは少女の言葉を聞いている。
ゆりかごで眠るひな鳥のように、少女の託宣を脳裏に刻んでいる。
「貴女を回収するの、大変だったんだからね。骨はボッキボキで、手足はひん曲がってて、血は溜池のようになってるし、もうこれ以上にないってくらい悲惨な状態だったのよ」
ロゼにその記憶はない。
在るのは、一人の少年への憎悪。
「でもぉ、もう大丈夫ッ! この天才美少女である私が、貴女を直してあげたんだから!」
「……あ……う……?」
キャア、と少女は悲鳴をあげた。
「え? ええっ? なになに、ロゼ、もう喋れるの? ええ? わ、私って、本ッッ当に超天才なんだからぁ!!」
自画自賛し、少女は自分で自分で褒め称える。
「う~ん、脳が新鮮だったからかしら? 他の人間達にはない兆候よね、この回復速度は」
少女はチラッと、カプセルに入った人間を一瞥した。
そしてそれっきり、興味を失ったように顔をそらし、たった今偉大なる復活を遂げたロゼに、好奇心全開の眼差しを向ける。
「クヒヒッ……! これでまた私の研究は一歩進んだ! ノーベル賞も夢じゃないわ! いやむしろ、自分の名前をつけた賞を設立しちゃおうかしら!」
妄想に浸る少女は端正な顔を歪めて笑う。
ロゼは彼女に無意識の内に手を伸ばした。
「いし……づ、え……」
「? え? 何々? どうしたの?」
「いし……づえ……たつ、や……」
「いし……? ――あっ! 石杖裁也って言いたいのね、貴女!」
その単語を聞いた瞬間、ロゼの意志に火がついた。
ロゼは少女の肩を強く掴み、グッと起き上がる。
「ッ! 痛ったいわねー! アザになったら、貴女、切り刻んでやるわよ!」
少女が怒る。物騒な事を言ってるが、彼女なら本当にやるだろう。
「まあいいわ。……にしても、石杖裁也かぁ~。私、前から彼の事気になってたのよねぇ」
少女は、う~んと唸った後、何か閃いたように明るい笑みを浮かべる。
「――ロゼ。私がまた貴女を全面的に支援してあげる」
それはどういう意味なのだろう。
「あの子、最近ちょっと目ざといからね。ここらで一回、痛い目に合わせとかないとね! だから、この天才美少女である私が、貴女の復讐をプロデュースしてあげます!」
少女はロゼを立ち上がらせ、踊り始める。
「っああ! 楽しみだわぁ! 彼がどんな表情を浮かべるのか! どんな風に顔を歪めるのか! どんな絶望の色を味わせてくれるのか! 想像するだけで濡れてくるわぁ!! そう、愛ッ! これが愛って事なのね!! たッッッぷりと、愛してあげるわッ!! アーハッハッハッ――!!」
興奮冷め切らぬ状態で少女はくるくるとロゼと共に回転する。
クルクル、クルクル。
狂る狂る、狂る狂る。
暗闇の世界の中、壊れた嗤い声がいつまでも残響した…………
これから第二章、幕開けします。




