第一章『学校占拠事件』十四話
「せ、先生……ッ。ど、どうしてここに?」
「貴女が目覚めたみたいだから、来たのよ」
ロゼは指で天井を指し示す。
天井には球状の物体が張り付いていて、目を細めて見ると、カメラのようなレンズがついているのが分かった。
「窓を開けて、外に出ようとするから、自殺するのかと思ったのよ?」
慌てたんだから、とロゼは言う。
「い、いえ、そうじゃなくって! な、何で先生がここに来られるのかって意味で! だって先生、あの連中に連れてかれたじゃないですか!」
「ああ、その事か」
結維の疑問に得心がいったのか、ロゼはウンウン、と頷いた。そして驚愕する事実を結維に告げる。
「だって先生、彼らの仲間だもの」
「………………ハァ?」
たっぷりと間を開けて、結維は間の抜けた返事をした。
その様子が面白かったのか、ロゼはクスクスと笑う。
「だからね、先生は彼らの仲間。ううん、私が彼らに指示を出して、貴女を攫わせたのよ」
「そう、なんですか……?」
「そうよ」
ロゼは結維に手を差し伸べ、彼女を立たせた。
「でもね、連中は脅迫と金で雇った即席のメンバーばっかりだから、私の言うことに中々従わなくて大変だったのよ」
「はぁ……」
空返事をする結維を、ロゼは上から下まで眺め、何も異常が無い事を確認した。
「じゃあ如月さん。行こうか」
「へ? ど、どこにですか?」
結維の手を取り、引っ張るロゼに訊ねる。
「どこって……、屋上よ。急いでここから逃げないとね。もうすぐ〝奴〟がやってくる」
「奴?」
「石杖裁也」
……石杖君が?
「ど、どうしてですか?」
「そんなもの決まってるじゃない。貴女を助けに来るのよ」
「た、助けにって? だって私、いま先生と一緒じゃないですか?」
「――ああ、貴女はまだそんな事を言うのね」
「……え――ッ!?」
瞬間、結維の頬にビンタが入る。
一発では飽き足らず、ロゼは何度も結維を叩いた。
ツゥー、と唇が切れ、血が流れた。
「結維ちゃん? 貴女、まだ解ってないようだから教えてあげるけど――ふざけた事言ってんじゃねえ!!」
結維の髪を掴み、ヘッドバットをぶちかます。
痛みと衝撃で結維の視界は明滅した。
「貴女には状況を認識する力が欠けてるのよ!! 先生、前からそう思ってたわ!! 自分の立場分かってるっ!? 分かってんの!? ええっ!?」
「……ッ――ゥ」
うめく結維。
ロゼはパチンと指を鳴らすと、黒服に身を包んだ男が二人入ってきた。
「……あんま舐めた態度取ってると、彼らにアンタを襲わせるわよ? ボディが無事だったら、メンタルなんてこっちは構いやしないんだから」
「あ……う……」
「本当だったら、手足の一本でも折って貴女を回収する所なんだけど、〝あの方〟はそういう野蛮な行為を望んじゃいないようだからやらないだけなのよ――お分かり?」
ロゼの言葉に、結維は無言で何度も頷いた。
「そう。いい子ね」
満面の笑みで結維の頬を撫でると、ロゼは二人に結維を引き連れるよう命じた。
……さて、もう時間がないわね。
ロゼは黒のバイザーをかぶり、廊下に出る。
直後、
「待てッ!!」
と、背後から声を掛けられた。
振り向くと、鬼の様な形相を浮かべた石杖裁也がナイフを構え立っていた。
――来たか。
ロゼは仮面の下、ニヤリ、と嗤う。
「その子は、置いていってもらうぞ」
『嫌だと言ったら?』
仮面の変声機のスイッチを入れ、ロゼは裁也を挑発した。
「お前を、殺す――ッ!!」
裁也が駆け出した。
ロゼは急いで屋上に向かうように二人に指示を出し、懐から短刀を取り出す。
飢えた獣のように迫る石杖裁也を、ロゼは狂った笑みを浮かべ、迎え討った。




