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33話:怖がり少女と寂しがり屋なモノ

 1人じゃ寂しいの。

 寂しい、寂しい、寂しい、寂しい。

 そう思いながら、彼女はそこに立っていた。

 男は、あるアパートを見上げた。

 そして、それを見つけると、「へぇ」と言って、面白そうに笑った。




「・・・灯ちゃん、最近、何かあった?」

 そう灯に尋ねてきたのは、会田美頰あいだみほお。ストレートで美しい黒髪をお尻まで伸ばしている、人形のように綺麗な少女だ。

 彼女は、灯の家に遊びに来ていた。春も麗らかな、とてもいい天気であるため、庭に置いてあるイスに2人腰をかけている。

 季節感を無視してアイスを食べながら、庭で日向ぼっこをしている黒猫とその黒猫にじゃれている子犬を眺めながら、穏やかな時間を過ごしていた。

「ん〜?特に変わったことはないかなあ〜」

 特に考えることなく、灯は答えた。

「・・・そう。変な人に会ったりしなかった?」

「ん〜。最近、巨人に会ったくらいかなぁ」

「・・・巨人?」

「うん。食べられるかと思った‼︎」

「・・・大丈夫だったの?」

「うん。なんか意外と大丈夫だった。捕まっちゃったんだけど、なんか意外と逃げれた。巨人なんて全然怖くなかった」

 ただ一瞬捕まっただけで、特に逃げたわけでもなく、さらにビビりまくっていた灯は、得意げな表情でうそぶいた。

 灯はO型だ。少しばかり自分の体験談を誇張する傾向がある。周りには、バレバレなのだが、O型なのでしょうがないことなのである。

 しかし、この会田美頰は信じていた。無表情ながらも瞳をキラキラさせて灯を見た。

「灯ちゃん、すごい」

 その美頰の褒めに、灯はさらに得意げに「へへへ」と笑った。


 そんな突っ込みどころ満載な会話を繰り返す2人だったが、美頰のスマホが着信音を鳴らしたところでその時間は終わった。

「・・・弟からだ」

 美頰がスマホを覗いて、そう言った。灯も、美頰のスマホを覗いてみたら、ギョッと目を見開き、背筋を凍らせた。

 無料メッセージアプリの通知、50件。全て、美頰の弟からである。

 尚且つ、美頰が電話にすぐに出なかったら、すぐにまた電話をかけなおしてくる。

「心配性な弟君だね」

 灯が美頰に言うと、美頰は頷いた。

「・・・最近、いつもこうなの。どうしたのかな」

 美頰と灯は、同時に首を傾げた。




 日が暮れて美頰が帰り、夕飯を食べた後、灯はうつ伏せに寝転がりながら漫画を読んでいた。

 そんな灯の背中には香箱座りをしている黒猫のコタローがいた。そして、灯の周囲をじゃれるようにポテポテと走り回る子犬がいる。

 灯が寝転ぶと、いつもこうなるので、灯は見事なスルースキルを習得し、普通に漫画に集中出来ていた。

 ちなみに、子犬の名前を美頰は付けていないらしいので、灯が勝手に「おまる」と呼んでいる。丸っこいからだ。

 そうやってくつろいでいると、家のインターフォンがなった。


 今、家には灯と灯の母しかいない。灯の父と兄は、喧嘩しながら仲良く釣りをしに出かけた。ついでに呑んでくるので、夜は遅くなると言っていた。

 従兄弟の梓は、用事が夜までかかるようで、毎日夜遅く帰ってくる。


 インターフォンの音に反応した灯の母が玄関に向かい、誰かと楽しそうに話しているのが聞こえてくる。

「灯〜!ミーちゃんよ〜」

 という母の声に、灯はコタローをどかして、のっそりと移動し始めた。

 その灯の足元にじゃれるお丸と、なぜかついてくるコタローを引き連れて、灯は玄関へ向かった。

「あれ、猫飼ってたっけ?」

 そう言うのは、同じクラスメイトかつ友人かつ幼馴染みの羽金美衣はがねみいである。猫のような瞳が印象的な少女だ。

「まあ、いいや。じゃあ、おばさん‼︎バカリお借りします‼︎」

 そう言って、灯の腕を引っ張る羽金美衣ミーちゃんに、灯は何がなんだかわからないまま、サンダルを履かされ、玄関から出た。

「あまり遅くならないようにね。いってらっしゃい〜」

 そういって見送る灯の母にミーちゃんは、「ハイ‼︎」と元気良く返事をした。


 灯とミーは、夜道を2人で歩いていた。いや、正しくは2人と2匹だ。暇なのかよく分からないが、コタローとお丸が付いて来ていた。

「ミーちゃん、今日も部活だったの?」

「うん、そう‼︎」

「お疲れ様〜。で、今どこに行ってるの?」

「ん?ちょっと一緒に行きたいとこあって」

 そう言って、ニヤニヤと笑うミー。

 彼女とは長い付き合いだから、その表情を見て、灯は瞬時に理解した。

 灯をいじめる時の表情である。


 灯は今までかつてないほどの素早さで、ミーが向かおうとしている逆方向へ逃げ出した。

 しかし、相手はインターハイ上位レベルのスーパー女子高生だ。サンダルで、かつ灯の足で逃げ切れるはずがない。数秒で確保され、首根っこを掴まれて連行された。




「あそこの角を曲がったら、アパートが見える。そこに長い黒髪の女がいたんだ。じゃあ、行くぞ‼︎」

 そう言って、住宅地の曲がり角に近づいていくミーに灯は引っ張られながら、ガタガタと産まれたての子鹿のように足を震えていた。


 曲がり角を曲がったところに、すぐ見えたアパートの2階の通路。

 そこに、髪の長い女が立っていた。

 2階の通路にある手すりより、腰が高い位置にある。

「うわ‼︎まだいる‼︎ほら、バカリ、嘘じゃなかっただろ!髪の長い、背の高い女‼︎」

 灯は、恐怖で目が離せなかった。

 ミーがなにか喚いている。


 しかし、灯の瞳にはこう映っていた。

 髪の長い女は、首に吊っている。

 そして、首が折れているのか、首が少し伸びている。

 手すりの向こうに見える裸足の足が宙に浮いて、かすかに揺れていた。

 その女が顔をゆっくりと上げた。

 長い髪の隙間から見える、血走った瞳と目が合った。


「うわ‼︎目が合った‼︎バカリ‼︎逃げるよ‼︎」

 そう言って、走り出すミーに、灯も慌てて逃げようと、駆けようとした。

 しかし、サンダルだったのと、恐怖とで、灯の足はもつれて、おおげさに転倒した。

 ミーはそんな灯に気付かないで、去ってしまった。


 恐怖で、震える体に鞭打って起き上がろうとする灯だったが、女の声が灯の耳元で呟いた。

「寂しい。来て」と。



 灯は、気がついたら女が立っていたアパートの2階の通路にいた。

 ある部屋の前である。

 その部屋の扉が開いた。灯は、そこに吸い込まれるように入っていった。


 部屋の中は空っぽであったが、居間のど真ん中に、椅子がある。そして天井から吊られている網の輪っかがあった。


 灯がその椅子に足をかけた瞬間、ハッハッハッという獣の息遣いが聞こえ、灯は目が覚めたように、目をパチパチさせた。

 そして、足を下ろして、足元を見た。

 足元には、お丸がいた。お丸は、灯の足元に相変わらずじゃれついていた。


 灯が足をかけた椅子にお丸は気づき、その椅子に一生懸命よじ登り、椅子の上でぴょんぴょん尻尾を振りながら飛んで遊んでいる。

 そして、天井から吊るされている縄を見て、さらに瞳を爛々と輝かせて、「アン‼︎」と吠えると、その縄めがけて、ジャンプした。


 子犬らしかぬジャンプ力で飛躍したお丸は、その縄の輪っかを上手く通り抜けた。

 まるで、犬のサーカスを見ているようであった。

 お丸が通り抜けた先には、手を伸ばしたお姉さんが立っており、お丸を受け止めた。


「あなたが一緒に来てくれるの?」

 お姉さんがそう言うと、尻尾をぶんぶんと振ったお丸が答えるように「アン‼︎」と吠えた。

「ふふふ。寂しくないように私のパートナーになってくれるの?ありがとう」

 お姉さんがお丸を抱きしめると、お丸は、お姉さんの顔をベロベロに舐めた。

「じゃあ、行きましょう」

 そういうお姉さんに、お丸は「アン‼︎」と答えて、お姉さんの胸元から飛び降りて、灯の元に駆けてきた。そして、何かを言うように「アン‼︎」と灯に吠えて、またお姉さんの足元に戻っていった。


 そして、ベランダから出て行って、瞬きしてる間に消えた1人と1匹。


 灯は、ぽかんと口を開けていた。

 プス、という音が聞こえて、灯が辺りを見渡すと、部屋の角に闇にまぎれたコタローが座っていた。

「犬に助けられたな、小娘」

「・・・助けられた?」

「気づいてないのか。あの女にお前が連れて行かれそうになっていたのを、あいつが一緒に行くことで免れただろう」


 コタローのその言葉の意味を灯はじっくり考えてみた。

 首吊りみたいな体勢で、こちらを驚かせるビックリ人間なお姉さん。

 お前も同じことが出来るかと、試されるように置かれていた椅子と縄。

 しかし、それを使って芸を見せた子犬のお丸。

 ビックリ人間なお姉さんはお丸をパートナーとして連れて行ってしまった。


 ビックリ人間に、輪っかに、芸に、パートナー。

 もしや。

「サーカスの勧誘?」

 サーカスの団員であるビックリ人間なお姉さんは、サーカスの勧誘に灯を誘ったが、思わぬ才能を開花させて芸をしたお丸をパートナーとして連れて行くことにしたのだ。

「さーかすとはなんだ?」

 尋ねてくるコタローに、灯は自分なりに答える。

「普通じゃない人たちがビックリするようなことをいろいろしてくれるやつ」

「普通じゃない人というのは死霊か?死霊が人間を驚かせるということか?」

「しりょうってなに?」

「・・・」

「・・・」

 1人と1匹は理解し合うことを諦めた。





 灯はコタローと共に、アパートから出たら、「バカリー‼︎‼︎」と叫びながら突進してくる灯のクラスメイトかつ友人かつ幼馴染みの羽金美衣ミーちゃん


 灯の体を抱きしめながら、「どこ行ってたんだよ‼︎お前がついて来ないから、私が置いて逃げたみたいな絵面になっちゃったじゃんかー‼︎このバカ‼︎」というミーの勢いに押されて、灯はとりあえず「ごめん」と謝ってみた。


 夜道を歩く、2人と1匹。

「それでね、あのお姉さんは実はサーカス団員だったみたい!勧誘されかけたんだよ、あはははは」

「ええ!なんだ、お化けじゃなかったのか〜!けど、サーカス団員かぁ・・・いいなぁ、私も勧誘されたかったなぁ!」

「まぁ、またいつか会えるかもしれないし!その時に入団を頼んでみたら?お丸も入団できたみたいだから、ミーちゃんもきっと入団できるよ〜」

「おまるって何?うんこするやつ?」

「あははは、違うよ〜。子犬のお丸!うちらと一緒にあのアパートまで付いてきてた子犬だよ」

「ん?そんなのいたっけ?」

「いたよ〜!」

「んん〜?まあ、いっか!それよりもさ、バカリ!ペンギンって大昔は空を飛んでたんだってよ!知ってた?」

「ええ!ペンギンって鳥でしょ?今も飛べるんじゃないの?」

「え、今も飛べるの?」

「飛べないの?」

「いや・・・。よく考えてみたら、飛びそう!ミサイルみたいにビューンって!」

「だよね!」

 バカクラスのツートップバカは、全く身にならない会話を延々と繰り返していた。

 その後ろ姿を見ている男には気付かずに。





 そんな灯が


 美頰の弟のひっきりなしにくる連絡と


 サーカス団員のビックリ人間なお姉さんに


 ビビッた1日の話。

裏話、活動報告に書いておきます。興味ある方は是非見てください。

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