閑話:バカなクラスの男子達のくだらない会話
この閑話は、短いうえに、本編と全く関係ないものです。興味のない方はスルーしてください。
いつもののどかなお昼の時間。
だれもがまったりと過ごすその時間に、ある者が一石を投じた。
「なあ、このクラスの女子で一番可愛いのって誰だと思う?」
その言葉を、神妙な面持ちで言ったのは、高村孝太郎である。あだ名はドーテーである。そんな彼は、以前、心霊スポットに行って酷い目に遭いかけたのだが、今はこんなくだらないことを言えるくらいに元気である。
その高村の言葉に、彼の周囲にいた男子たちが、目をギラギラに輝かせた。
こういうくだらない事を本気で考えることが大好きな、ガキの集団なのだ。
「なんで、いきなり?」
クラスの唯一の常識人、そしてイケメンの編入生の平井龍興が、高村に聞いた。ちなみに、彼はあだ名がまだない。
「いや、うちのクラスって実はレベル高いんじゃねえかって。最近思ったんだよな」
高村がそう言うと誰も、否定するものはいなかった。
「確かに、そう言われてみたらそうだな」
硬派で武骨な印象を持たせる男子がそう答えた。彼の名前は、相良勇気である。あだ名はアイラブユー。誰かが名前を呼び間違えたのをきっかけで、このあだ名になっただけで、決して恋多き男で、愛を囁くような男ではない。
「だろ?一人ひとりが意外にレベルが高いんだよ。残念なところに目がついて、その魅力があまり分かんないけど、例えば……」
1人目、鎌田心香。あだ名は『メガシンカ』である。その由来は、眼鏡をかけているからだ。その眼鏡が、伊達眼鏡だということが発覚してEクラスに激震が走ったのは最近のことである。黒髪ロングをおさげにしている眼鏡女子の彼女は、よく見れば色白で整った顔立ちとスレンダーな体型をしている。一見、知的な美人だ。そう、一見。
彼女は、完全に腐っている女子だった。それも、かなり末期の。読んでいる本は男同士が絡み合っている挿絵の小説であるし、自ら漫画を描いているのも何度も教室で目撃されている。それも、キラキラな王子様な男が登場するものではなく、ガチムチなおっさんが登場するものであったそうだ。普通に絵をかいたら、とてつもなく上手であるのに、そんな絵しか描かない。
ときおり、クラスの男子達がふざけ合っているのを舐めるようにみている時もある。
何に、とは口に出しては言えないが、それに、全力を注いでいる残念女子だった。
しかし、一見、知的な美人なのだ。
2人目、多田真白。あだ名は『マシュマロPON!』である。略して『ポン』と呼ばれている。由来は、真白という名前と、彼女が敬愛するモデルがやっているCMの言葉を一時期、彼女が真似をして連呼していたため、このあだ名となった。彼女は、金髪にふわゆるなパーマをかけている、きつい顔立ちの美人だ。その金髪と、ばっちりメイク、そしてつけ爪が印象的な彼女は、美容にしか興味がない。ミニスカから美脚を惜しみなく男子達に見せつけているが、その男子達には目もくれない。もし、くだらないことを言おうものなら、毒舌で言葉を返される。
そう、美容に全力を注いでいる残念女子だ。
しかし、一見、モデルみたいな美人なのだ。
3人目、羽金美衣。あだ名は、『バカ猫ミイちゃん』である。なんのひねりもないあだ名である。Eクラスでも上位に名を連ね挙げられるほどのバカであり、猫のような名前と見た目と性格をしているからだ。小柄で華奢で色白。猫のように大きなつり目がちの瞳に、セミロングの柔らかい毛。性格は、気分屋で。食い意地をはっている野良猫のような女子である。小学生の男子のような性格をしており、人の食べているものを欲しがり、気に入らないことがあるとすぐに不機嫌になる。機嫌がいいときは、バカなことを言ったり、人をからかって遊んだりする。天邪鬼という厄介な性格なため、人に指示されるのが大嫌いである。バカである理由も、こんな勉強意味あるのか、という誰もが思いながらも勉強しているところを、彼女は全く意味がないと切り捨てているためであった。ただ、体育だけは、彼女の得意分野であった。猫のように軽やかにジャンプをしたり、とてもすばしっこく動く。運動神経だけは抜群であり、彼女は小さいころから新体操を習っていて、新体操部のエースである。
そう、運動神経しか良くない残念な女子なのだ。
しかし、一見、子猫のようで可愛らしい美少女なのである。
4人目、宇佐若菜。あだ名は、うさぎかな?さかなかな?だ。長すぎて、ほとんどの人がそのあだ名を全部言わないで、略して『うさぴょん』とか『さかなちゃん』と呼ばれている。彼女は、おっとりとして色っぽい女子である。背中まで伸びている茶髪に、白い肌に、左の目元にある泣きぼくろ。いつも控えめに優しく笑う彼女は、自然をこよなく愛する者だった。いや、むしろ自然オタクといっても過言ではない。園芸部に所属している彼女は、心優しい子だ。多くは語らない主義なのか、よく聞く手に回っていることが多い彼女は、ミステリアスで、さらに色っぽさを助長していた。
ただ、怒るととてつもなく、恐ろしい。遊んでいた男子が、体勢をくずして彼女が管理している花壇の花を踏んでしまったことがある。そのとき、いつも優しく笑っている彼女は、一瞬無表情になり、護身用に持っているというスタンガンを取り出した。そして、そのスタンガンを男子に向けながら、「謝って。早く。私にじゃない。花に」と、微笑んで言ったそうだ。その目は笑ってなくて、背筋が凍り、その男子は花に土下座をしたという逸話がある。
そういう逸話があっても、ふだんは優しい彼女は、それはもうモテる。だが、他校にいる彼氏がいる。
そう、自然と彼氏にしか興味のない(男子が)残念でたまらない女子なのだ。
しかし、何も考えなければ、とても色っぽい優しい美女なのだ。
5人目、竜頭灯。あだ名はバカリである。羽金と並ぶ、トップクラスのバカだ。天然パーマのふわふわの色素の薄い髪と、どこを見ているのかよくわからない透き通った茶色の瞳。たれ目で、いつも目がうるんでいる。ビビりで、泣き虫であるからだ。そして、いじられキャラでもある。本人なりに勉強もしているようだが、O型だからという変な理由をつけて、途中で寝てしまったり、違う事に脱線してしまうらしい。黙っていれば普通に可愛らしい女の子なのだが、ときおり、小心者とは思えない奇抜な行動に出ることがある。いきなり、授業中に消えたり、何かが乗り移ったかのように男子の投げたボールを見て犬のように追いかけていったり、同じく何かが乗り移ったかのように教室のベランダで日向ぼっこをし始めたり、急に変な髪形にしてきたり。しかし、この行動にも、Eクラスの生徒は一応はつっこむが、「まあバカリだからな」と普通に受け入れている。
バカであるが、女の子らしい彼女は、亀にしか興味がない様子である。亀オタクと言っても過言ではない。普通の亀と海にいる亀の違いをいつか男子が尋ねた時、それはもう、深すぎる知識を、延々と語っていた。語りつくしたら、満足そうに笑っていた。
そう、亀にしか興味のないバカな残念女子だった。
しかし、一見、儚げな不思議な雰囲気の可愛らしい女子なのだ。
「まだまだいるけどさ。とりあえず、うちの女子ってレベル高いよな。なあ、誰が一番だと思う?俺は、宇佐若菜推しだな。こんな俺にも優しくしてくれるし、色っぽいし」
高村がそういうと、周囲の男子達が、口々に言い始めた。
「いや、宇佐は彼氏がいるからダメだろ。怒らせたら、怖いし」
「俺は多田真白だな。モデルみてえじゃん」
「多田は、ギャルだし毒舌だし、万人受けしないぜ」
「万人受けしそうなのは、鎌田心香じゃないか?秋葉の地下アイドルとかで売れっ子になりそうなタイプ」
「それも、一部の奴等には受けるだろうけど、万人受けじゃねえよ。それにあいつ、俺たちの事をいやらしい目で見てるんだぜ」
「正統派美少女だったら羽金美衣は?」
「あいつは駄目だ。喧しいし、性格が悪い」
「じゃあ、灯か?」
「あいつはバカだからなあ」
「ああ、バカだからなぁ……」
「へえ。そうか」
男子の会話の中に、一人の高い声が入り込んだ。
話しをしていた男子達は、顔をひきつらせた。そして、カクカクと震えながら、声の聞こえたほうへ、顔を一斉に向けた。
男子達の話していた輪の中に、そいつはいた。
彼女の名前は目白彰。あだ名はアキラメロンである。由来は、名前から取ったのと、彼女は小さい頃から黒髪で前髪ぱっつんのボブカットであり、後ろから見たらまるでメロンのようだと誰かが言ったからだ。彼女も小柄で素朴な可愛い女子であるが、性格がとてつもなく陰気であった。
その目白彰に全てを聞かれてしまったのだ。
男子達は、断末魔の叫びをあげた。
目白彰が羽金美衣にチクって、羽金美衣が教卓の前に立って男子達が女子を見比べていたことをクラスの女子たちに大声で言い、そこからクラスの男子の処遇に関する審議が始まった。
その結果、女子の全部の意見を汲んで、とんでもないことをさせられるなんてクラスの男子達はまだ知らない。
化粧をさせられ、なおかつ女装をし、謝りながら、男だけでマイムマイムを踊らされるなんて彼らはまだ知らない。
だんだん、楽しくなって、本気で全力で踊ってしまうなんて、彼らは知らないのだ。
ただ、これだけは言える。
女子はみんな可愛い。こう言っとけば、何ごとも穏便に済むことを。
この出来事で彼らは学んだ。




