閑話:浮遊霊を悪霊にする会と新たな仲間
暗い部屋には4人の男女が集まっていた。
何も書かれていないホワイトボード。そのホワイトボードの前にあるテーブルをその4人が囲んで座っていた。
お尻と胸が強調されるタイトなスーツを着ている女性は、うるうると涙目になりながら、物憂げに携帯の画面を眺めている。
中肉中背で、眼鏡以外とくに特徴のないブレザーの制服姿の少年は、ブックカバーをつけた本を真剣に読んでいる。
黒髪のロングヘアーで、非常に整っている顔をしているセーラー服の美少女は、スマホをいじっていた。ピコンと鳴る無料のメッセージアプリの通知音に嬉しそうに顔をゆるませて、ゆっくりと返信している。
茶髪のピアスをたくさんつけている目つきの悪い青年は、その3人の姿を見て、困惑していた。
「おい。どうしたんだよ、お前ら……」
その茶髪の青年―――黒が、3人に声をかける。しかし、誰も反応せずに、各々の手元に集中している。
カチンときた黒は、テーブルの上をドンッと力強く叩いた。
その音に眉をしかめた眼鏡の少年―――赤がちらりと黒を見て口を開いた。
「やかましい」
赤の言葉に青筋を浮かばせた黒は、赤を睨んだ後、赤の手元にある本を奪った。
「おい、やめろ!」そういう赤に、にやにやとした笑みを見せながら、黒はブックカバーを外す。
その本はピンクの装丁をしていた。
題名は、『大人な女性と付き合うには~恋愛下手な貴方のために』。
赤というあだ名だけに顔を赤くする眼鏡少年と本を見比べて、吹き出す黒青年。
「あはははは!なんだ、この本!」
「うるさい!このバカ!」
いつもの理論づめた反論ではなく、小学生じみた罵声をあげる赤を黒は面白そうにみた。
そして、黒は、この赤と黒の一連の流れに動じない桃にも触手を伸ばした。
「よっと。桃ちゃんは何を見てるんだ?」
桃の手元にある携帯を奪った黒は、桃が夢中になっていた画面を見た。
そこには、明らかに盗撮のようなアングルで撮られた学生風の男性の画像が映っていた。さすがの笑い上戸の黒でもこれにはドン引きであった。
「や、やめてくださいよぅ!黒さん!返してください!」
顔を赤らめて涙目で言う桃に、寒気がするのを感じながら黒は何も言わず、そっと返した。
この流れで、同じくスマホをいじりつづけている美少女―――青のスマホを黒は奪った。
「…あ」というワンテンポ遅れた反応を見せる青を横目に、黒は青のスマホをのぞく。
黒の目には、『竜頭 灯』という名前の少女との無料メッセージアプリのやり取りが映った。やり取りといっても、そのアプリで取得することができる下らないスタンプをお互いに送り合うという、なんとも下らないやり取りである。
こんなザ・現代っ子的なやり取りを、あの青がしている。黒の今までの青のイメージが完全に崩れた。
「……返して」そう言ってくる青に、黒は静かに返した。
一体アク会のメンバーに何が起きているんだ。
と黒は恰好つけて思ってみたが、大方想像できる。明らかに2人は恋をしているのだろうし(1人は犯罪臭がするが)、1人は初めての友だちに浮かれているのであろう。
バカらしい。黒は鼻で笑った。
「おい、お前ら」
今まで、メンバーが聞いたことのない低い静かな声で、黒がメンバーに話しかけた。
その黒に、3人の視線が向けられる。
「恋だか、友情だか知らねぇけどよ。お前らは普通の人間なのかよ。好きな相手は、お前らのことを理解しているのか?異常で、異常であることを隠しているお前たちのことを」
この言葉に、桃の顔が引きったのを、黒は鼻で笑う。
「異常で、普通の奴等に虐げられてきて?それを妬んで、ここに入ってきたんだろ?ここに入ってきて何をしてきたのか、覚えているか?」
その言葉に、青が目線を下し、手を強く握りしめた。
「ただの浮遊霊に心無い言葉を投げつけて、わざと悪霊にして、生きている人間を死まで追いやっただろ?俺らは殺人鬼の仲間なんだよ。わかっていて、アク会に入ったんだよなぁ?」
赤が無表情で、手元で開いていた本をパタンを閉じた。
「そんな奴らが、恋?友だち?そんなことしてもいいのか?あ?」
黒が、黙り込む3人を見渡して、楽しそうに笑った。
熱が冷めたように青白い顔をした桃が、立ち上がり、ホワイトボードの前に立った。
その時、ピンポーンというインターフォンの音が部屋に響く。
ここは、アク会の本部が金を出し、借りている狭いアパートの一室である。アク会の者以外は来ないはずである部屋だ。
「誰だ?」赤が桃を見て尋ねる。
「わかりません」桃が首を傾げて言う。
「……開けてみたら?」青がそう言った。
黒が立ち上がって、玄関の方に行く。テーブルのあるリビングと玄関が直結している作りであるため、3人にも玄関の様子が見ることができる。
黒が玄関を開けたら、そこには「こんにちは」と言って、にこやかに笑う男が立っていた。
どうやら、この男は、この地区の担当のアク会が明らかに実績が下がっているため、その原因を調査し、その上指導をしにきたアク会本部の人間だったらしい。
「私は、本部ではセブンと呼ばれていますので、セブンと呼んでください。今日来ることは、リーダーの方にメールをしたはずですが…」
セブンがそこまで言うと、桃が「あ!」と声を挙げた。
どうやら思い当たるらしい。
皆から非難の目線に晒された桃は、ぽろりと涙をこぼした。
ここ最近の実績の悪さを、セブンに赤がわかりやすく伝える。
セブンは話しを全て聞くと、大きく頷いた。
「なるほど。その少女が悪霊化を防いでいるわけですね。その女子高生のことについて新たに分かったことなどはありますか?」
セブンの問いかけにアク会のメンバーは無言で答えた。
だれも、少女について新たにわかった者はいなかった。ただ一人除いて。
そのメンバーの様子をみて、満面の笑顔でセブンはこう続けた。
「わかりました。なのはな地区に住む、亀好きなバカな女子高校生、私が見つけて差し上げましょう」
赤は、セブンは上から物を言われて不機嫌そうな顔つきをした。
黒は、面白そうに笑った。
桃は、あら、あの方とはまた違ったイケメンでいいわ、とセブンに見惚れていた。
青は、一人青ざめて、ギュッとスマホを強く握りしめた。
その頃、灯は兄の部屋にいて、大きく身震いをした。
「なんだ、風邪か?」
パソコンでレポート作成をしていた灯の兄が、灯に毛布を差し出す。
「ん――、なんかわかんないけど寒気がした」
灯は首を傾げながら「ありがとう」と言って、兄の毛布を受け取り、体に巻き付ける。
「あ、えへへ。お兄ちゃんの匂いがする」
と笑う灯に、兄はゴンッと、パソコンの画面に頭を打ち付けた。




