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28話:怖がり少女の従兄弟

 男は、人混みの中にいた。あまりの人の多さに具合が悪くなりそうだった。久々の都会に来た彼は、彼の住む田舎とは全く違う環境に辟易しそうであった。彼は人混みから抜けて、人が少ない路地裏に入り込む。「ふぅ」とため息をついて、目をつぶる。彼には都会の空気は合わない。人の多さだけではなく、色んなモノが混沌としている。実際に、彼のいる路地裏の隅っこにも、黒い塊がもぞもぞと動いていた。害はなさそうなので、彼はその黒い塊からは目を離す。何故、彼があまり好きではない都会に来たかというと、ある用事を済ませることと、ある人物に会うためであった。彼は一息つくと、また、様々なモノが混じっている人混みの中に向かって行った。



 灯は、眼鏡をかけていた。といっても、眼鏡屋の店先に並んでいる、度の入っていない眼鏡だ。目が悪くなったわけでもない灯が眼鏡屋に来たのは、あるクラスメイトがきっかけであった。灯のクラスには、メガシンカというあだ名のクラスメイトがいる。彼女は、心香(しんか)という名前と眼鏡であるという理由から、そのあだ名となった。小学校から高校まで一貫校である灯の通う学校は、中学校・高校からの外部生以外はほとんど顔見知りである。といっても、灯は人の顔と名前を覚えられないので、あんまり覚えていないが。しかし、学力別にクラス分けをしているので、バカな灯は小学校から一番成績の悪いものが集まるEクラスにいた。BからDクラスの生徒たちはクラスが変わったりすることが良くあるらしいが、頭の良い者が集まるAクラスと頭の悪い者が集まるEクラスはほとんどメンバーが変わらない。なので、小学校からの幼馴染のような者であり、さすがにEクラスのクラスメイトは灯は忘れないだろう。その小学校からの付き合いである同じくEクラスのメガシンカに、ある事実が発覚したのだ。

 なんと、眼鏡が伊達眼鏡であったのだ。あだ名で呼び合うほど仲の良いEクラスに激震が走った。メガシンカという名前から、彼女は本物の眼鏡であると誰もが疑ってなかったのだ。灯も、本物の眼鏡を信じて疑ってなかったので、衝撃的であった。それも、彼女が伊達眼鏡であることに気付いたのは、小学校からの付き合いである持ち上がり組の生徒ではなく、高校から来た外部生だった。外部生が指摘した後に、メガシンカは以下のような理由で伊達眼鏡をつけているということを打ち明けた。

「だって、頭良く見えるでしょ」

 またもや、灯は衝撃を受けた。確かに見た目だけ見るとメガシンカはとても頭がよさそうであった。眼鏡をつけたら、頭が良く見えるのか!と灯は、武者震いをした。

 よって、灯はとてつもなく目が良いのであるが、眼鏡屋に来たわけである。見た目だけ頭良さそうにしても意味がない、と思う者もいるだろう。しかし、自慢ではないが灯はO型なのである。何ごとも、形から入りたい主義だ。形から入って、実際に行動するかというと、それはまた別の話であるが。


 灯は眼鏡を付けたり、外したりを繰り返していた。どれの眼鏡が頭が良く見えるのか充分に吟味しているのだ。そして、一つの眼鏡が気になった。よく国語の教科書でみる作家がかけている丸眼鏡である。ビビっときた灯は、それを手に取り付けてみた。そして、その姿を確認しようと鏡を探すが、近くに見当たらない。きょろきょろと鏡を探したときにある姿が目に映った。店員である。スタイリッシュなスーツを着こなしている、細身の眼鏡男子である。その、小ぶりなお尻に、ふさふさのしっぽがある。

 ん?と思った灯は、目を凝らしてお尻を見るが、やはりしっぽが見える。灯は首を傾げつつ、眼鏡をとってみた。そして、改めて、店員の眼鏡男子を見る。しっぽが無くなっていた。また、眼鏡をつけて、目を凝らして小ぶりなお尻を見つめると、やはり大きくてふさふさとしたしっぽが見える。眼鏡を付けて、外して、を繰り返してしっぽを見る灯は、そのしっぽの持ち主が近づいてくるのに全く気付いていない。

「お客様、お似合いですね」

 そう、声をかけられて、灯は下げていた目線をパッと上にあげた。店員の爽やかな眼鏡男子が灯をにこにこと見つめている。

「どのような眼鏡をお求めですか?」

 そう言ってくる灯は、身を強張らせて、「あ、いや、その、すみません!」と言って、眼鏡を置いて、逃げるように店を去った。


 あのしっぽはなんだったのか。灯はうーんと悩みながら、街中を歩いていた。コスプレ的な何かか?いや、しかし、瞬時に付けたり外したりすることは出来ないはずだ。それか、あの丸眼鏡が不思議な眼鏡で、前世の姿を映りだしてしまうものだったり?だから、さっきの人の前世は犬かなんかだったのではないだろうか。もし、そうでなければ、あの眼鏡を付けたら、人間のお尻にしっぽがついて見えるという面白い眼鏡か。そんな結論が出ないファンタジーなことをふわふわと考えながら歩く灯は、全く周りの人を見ていなかった。

 前を歩く人と、体をぶつけてしまい、「あ、すみません」と灯はペコッと頭を下げた。

 灯がぶつかってしまった人は、「あ、いえいえ」といって穏やかに応えてくれた。身長の高く、灯と少し似ている色素の薄い髪の色をした優しげな男である。そんな彼は、「あ」と灯を見て目を見開いた。シンプルな服装で、ストイックな印象を持たせる彼に、なんとなく見覚えがあるなぁと灯は思ったが、思い出せないので、もう一度ペコッと頭をさげてその場を去ろうとした。

「ちょっ!待って」といって灯の腕を掴む男性に、灯はさぁっと血の気が引いた。慰謝料を請求されるんだろうか。この前、テレビの特集でわざとぶつかって無理やり慰謝料を請求しようとする「あたりや」という者たちの紹介がされていた。もしや、これではだろうか。

 灯は顔をひきつらせて、その男性の方に振り返り、また頭を下げた。

「すみません。私はしがいない女子高生で、お金なんてないです!」

 と言って、その腕を振り払い、逃げようとした。

「え!?ちょっと、待って!灯ちゃん!俺だよ、梓!君の従兄弟だよ!」

 その言葉に灯は体をピタッと止めた。ああ、和服じゃないからわからなかったけど、どうりで見覚えがあると思った。灯は、そう思いながら、愛想笑いを浮かべて、梓の方へ振り返った。



「びっくりしたよ。俺も、灯ちゃんが髪切ってるの知らなかったから、一瞬気づくのが遅れたけど」

 そう穏やかな声でいう梓とともに、灯は家までの道のりを歩いていた。

「ごめんごめん。梓くんもいつもの和服じゃないから、私も全くわかんなかったんだよー」

 と、言い訳をしつつ、へらへらと笑う灯。

 話しを聞いていくと、梓は灯の住む地域に用事があったらしい。そして、灯達にも用事があったので、今から灯達の家族の家に向かっていたという。

 なので、灯も眼鏡以外にこれといった用事はなかったので、一緒に帰ることにした。

 灯の自宅にはだれにもいない。しかし灯は、まぁ従兄弟だからいいだろうと勝手に家に上げることにした。庭には、寒い中じゃれている動物2匹がいる。黒猫のコタローと、灯の友人の美頬(みほお)のペットの子犬である。この子犬は、美頬が忘れて灯の家に置いて行ってしまったのだ。後から灯が連絡すると、「私のそばにいるとその子にまた悪影響を与えてしまうかもしれないから、そのまま灯の家にいさせて欲しい。そのうち、たぶん未練がなくなって消えるから」という意味不明なことを言われて、灯は適当に了承した。決定権のある母にも相談すると「いいんじゃない?」という軽い返事を頂いたので、そのまま飼うことになったのだ。

 そのじゃれている2匹(といっても、寒いせいなのか微動だにしないコタローのしっぽに子犬が勝手にじゃれているだけだ)が、玄関にいる灯に気付いて寄ってきた。

「早く開けろ、小娘」と急かすコタローに、灯は「はいはい」と返事をしながら、バックの中の鍵を探し始める。

「へえ、面白いね。猫又と、なんの獣かは視えないけど小さい動物霊がいるんだ」

 そう梓がつぶやいたが、灯は整理出来ていないバックの中から鍵を探すのに一生懸命で一切話を聞いていなかった。

 ようやく見つけた鍵で玄関を開けると、コタローと子犬は我先にと灯の家に入っていく。


 灯は梓を居間に案内した。そして、お茶とお菓子を梓に出し、炬燵に入って2人はまったりと話し始めた。

「灯ちゃんは最近、危ないこととかに巻き込まれてない?」

「ん?危ないことって?」

「霊に憑かれて、危なかったりとか」

「レイって誰?」

「えっと、幽霊のことだよ」

 そういう梓に、灯はサアッと血の気が引いた。

 兄に慰められたりしてもらったおかげで完全に忘れていたことがある。灯が初体験とも言える幽霊との遭遇である。あるお婆ちゃんと出会ったのだが、そのお婆ちゃんが後からお化けであるということが発覚した事件である。

「え?なんかあったの?」

 顔を青くさせた灯を梓は、心配そうに見る。

「なんもなかったけど、幽霊なら1回会ったことならあるよ」

 灯は、そう答えて涙目になった。小さい頃からビビりで泣き虫の灯である。その時のお婆ちゃんとのことを思い出して、恐怖がよみがえってきて涙目になっているのだ。

「へ?一回だけ?」

 梓は首を傾げて、悩むように顎に手を当てた。しばらく沈黙が続き、梓が灯に何か声をかけようと口を開いた。

 しかし、梓は言葉を続けずに、居間のドアに目線を配り、「帰ってきちゃったか」と呟いた。


 その直後に、玄関から「ただいま」という声が聞こえてきた。灯の兄が帰ってきたのだ。

 居間に入ってきた兄は、炬燵にいる梓と灯を見て、一瞬固まった。そして、拳を強く握り込むと、殺意を込めた瞳で梓をにらみ、低い声で言った。

「灯になにしやがった?」

「へ?」

 きょとんとする梓は、頭の上ではてなマークを飛ばしながら、灯のほうを見た。灯も、梓のほうを見ながら、涙目で首を傾げた。それと共に、灯の涙がぽろりとこぼれる。

 それを見て、合点がいった梓は「誤解!ちがっ」と弁解をしようとするが、灯の兄―――蓮の拳は梓の方へ容赦なく振りかかった。



「だから違うって!暴力反対!」

「何が違うんだ、この優男!」

 といって、プロセスごっこを始めた男を2人を尻目に灯は、「仲良いなー」とつぶやきながら、お茶を啜ってテレビを見ていた。

 この男2人のやり取りを止めたのは、帰ってきた灯の母であった。灯の母は、梓を見て「あら」と言って、いまだに梓にプロレスの技をかけようとする蓮の頭にスーパーの袋を勢いよくぶつけた。

 それに撃沈する蓮を無視して、梓は灯の母に声をかける。

「伯母上、お久しぶりです」

「久しぶり、梓くん。伯母上なんて仰々しく言わなくていいのよ。ここはあそこじゃないんだし」

「はい、鈴さん」

 そういって、嬉しそうに笑う梓に、灯の母――鈴は苦笑して梓の頭をポンポンと軽く叩いた。

「それで、うちに用事があるの?」

「あ、いえ。こっちの用事があって、宿も決めてないから、しばらく泊めされてもらえないかと聞きにきたんです」

「だめだ!」

 そういう梓に、撃沈していた蓮が起き上がって反対をする。

「うーん。主人が良いって言うならいいけど…」

 蓮を無視して、そう言葉をにごす鈴に、梓はにっこりと笑った。

「それなら、絶対、大丈夫です」


「だめだ!」

 帰ってきて梓を見て、蓮と同じ反応をする灯の父は、梓の頼み事に対しても蓮を同じ反応をした。

 その言葉に、梓はますます笑顔を深める。

「うーん、それは困りますね」

 全然困ってないように笑う梓。

「けど叔父上、俺ってあんま都会に来ないから都会のことよく分かんないんですよ。そこで、もし今日ここに泊まれないで、彷徨う事になって宿も決めれずに、ぶらぶらと治安の悪いところに行って、悪い人たちに捕まって、身ぐるみはがされてボロボロになって、あの屋敷に帰ってきたらどうなると思います?俺、これでもあそこの屋敷の坊ちゃんなんですよ。あの屋敷の奴らはかんかんに怒るでしょうね。あの屋敷を守る、性格の悪いけど強い奴等が複数でこの家に殴り込みに来るかもしれないですよ。ああ、殴り込むなんて、かわいいことはしないか。もっとひどいこと思いつくでしょうね、奴等は。小さい頃、叔父上が怖がっていたことを今でも武勇伝みたいに話して、また叔父上に同じことをしたいって言ってたんで。けど、しょうがないですよね。叔父上が泊めてくれないみたいだから。では、お暇しますね」

 そう言い、背中を向けた梓の肩を、真っ青になった灯の父は掴んだ。

 振り返った梓に、灯の父は涙目で「ぜひ泊まってください」と言った。


 こうして、どのくらいの期間かは分からないが、灯の従兄弟は灯の家に居座ることになった。

 異様にピリピリしている灯の兄と父、何が楽しいのか分からないがニコニコと微笑んでいる灯の従兄弟、我関せずの灯の母に囲まれて、灯はいつもと違う夕食の雰囲気に首を傾げた。

 しかし、動物の生態を調査しているというテレビ番組で亀がピックアップされていたため、いつもと違う家族の様子を全く気にせずに、灯はそちらに釘付けになり、亀を見て平和そうに笑った。


 そんな灯が


 眼鏡屋の店員のしっぽと


 穏やかに笑う従兄弟に


 そこまでビビらなかった一日の話。


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