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27話:怖がり少女の友人(後編)

 灯が次にいたのは、少女の可愛らしい部屋だった。


「あなた……見たことある気がする」

 そう声をかけられて、灯が声の方へ向くと、綺麗な洋服をきた人形のような少女がいた。

 恰好は違うが、その綺麗な顔立ちで灯が今まで見守っていた(というか見守ることしかできなかった、が正しい)あの少女であることがわかる。


「そうだよ。あなたのこと見てた」

 灯がそういうと、少女は無表情に首をかしげた。

「……いつから?」

「えっとね……」

 あなたが父親らしき人物から暴行をされているところから、なんて言えない灯は口をつぐんだ。

 少女はビー玉のような瞳で、そんな灯の様子を見て、瞼を伏せた。


「お父さんはね、いなくなった……。代わりに新しいパパとママが出来た」

 少女がお父さんというのは、あの暴行をする男性のことで、新しいパパとママというのは、あの優しげな男女のことを指しているのがバカな灯でもさすがにわかった。

「そうなんだ……。新しいパパとママは今どこにいるの?」

「……病院。赤ちゃんが生まれたみたい」

「へぇ!弟が出来たの?」

 少女は、無表情に頷いた。

「会いにいかないの?」

 少女は、何も答えなかった。そして、気が付いたら少女の足元にいた犬の頭を撫でた。


 しばらくすると、少女は顔を上げて、口を開いた。

「……私はお父さんに会いたい。お父さんは痛いこといっぱいしてきた。だけど、お父さんはいいことをしたら頭をなでて褒めてくれた。わたしのこと、たぶん必要としてくれてた。わたしがいないと探してくれたから。けど……新しいパパとママは、きっともうわたしのことはもういらない。わたしがいなくても、きっと気づかない」

 そこで、いったん言葉を切って少女はまた口を開く。

「お父さんがいい。お父さんに会いたい。お父さんが欲しい!いらない子はいやだ……」

 その瞳はかすかに潤んでいた。


「そんな…いらない子なんて……」

 そんなことないよ、なんて簡単なセリフを灯は言えずに、また黙り込んでしまった。



 灯は、少女の瞳が見てられなくて、瞼を閉じた。そのとき、ある光景を思い出した。


 幼い灯が泣いている。大好きな母のそばにいたら、父が「お母さんはお父さんのもの」といって、追い出されたのだ。

 そんな灯に優しく声をかける者がいた。

『あかり、どうしたの?』灯の大好きな、兄だった。


 灯は目を開いて、目の前の少女の瞳を見た。

「私は、お父さんとお母さんがいる。けど、お父さんがいっつもお母さんのそばから離れなくて、さみしい思いをしてたんだ。それで、よく泣いてた。

 けどね、私にはお兄ちゃんがいたんだ。お兄ちゃんがそばにいてくれた。だからね、私は、さみしくてもお兄ちゃんがいるから大丈夫になった」

 お嬢ちゃんの弟はまだ赤ちゃんだから、今はまだわかんないと思うけど……。その子にとっては、あなたは世界で一人のおねえちゃんだよ。いらないはずなんてない」


 少女は灯を上目づかいで見上げた。表情は変えていないが、その瞳に怒りが宿ったのに灯は気づく。


「あなたとあなたのお兄ちゃんは血がつながってるんでしょ。わたしと弟は血がつながってない。本物の家族じゃない」


 その言葉に灯は、軽く微笑んだ。そして、首を横に振った。


「私とお兄ちゃんはね。


 ……血は繋がってないよ」



 灯は小さい頃、よく兄のそばに男性がいるのを見た。その存在に気づいていない鈍感な兄に伝えようとすると、その兄によく似た男性は口唇に人差し指を当てる。

 ある日、兄が寝ているときに、その男性に声をかけてみた。そうすると、兄の父親だというので灯は本当に驚いた。

 彼はこう言った。

『ねぇ、灯ちゃん。血は繋がってなくても、家族ってなれるんだよ。例えば……家族が10組いると、その10組がみんな同じ形の家族であるはずがないよね。家族に定義はないんだ。だから、今まで通りにこの子と家族でいてあげて。そして、いつか、本物の家族に……』

 そこまで言うと、兄が起きかけたので、兄の父親は微笑んで静かに去って行った。それ以降、あまり兄の父親は現れなくなったが、時々ふらっと出現する。この前も、兄の背後に現れたが、また人差し指を口唇に当てて、微笑んでいたので、灯は兄に内緒にしていた。


「だから、あなたも生まれた弟の本当のお姉さんになれるんだよ。それに、新しいパパとママの本当の娘にもなれる。家族に定義はないんだから」


 灯がそこまで言うと、少女のビー玉のような瞳が揺れた。





「おーい、二人とも起きろー。風邪ひくぞぉー」


 気が抜けた声で、灯は「んあ?」と口元から涎をたらしつつ、覚醒した。その灯の隣には、美頬が天使のような美しい寝顔を見せていた。


 長い夢を見てたような気がする。

 いつから寝ていたのか、寝る前の記憶がない灯は首を傾げつつも、外がすでに真っ暗になっているのに驚き、寝ている美頬に声をかけて起こす。

 美頬はゆっくりと瞼を開き、静かに起きた。


「娘が二人いたら、こんな感じだったのかなぁ」

 灯の父親がにまにまと笑みを浮かべている。


「お父さん、気持ち悪い」

 灯がそういうと、灯の父は目に見えて落ち込んだが、すぐに立ち直り、美頬に声をかける。


「みほちゃんの携帯がさっきからずっと鳴ってるぞー」

 美頬は静かな動作で、携帯を取り出して、携帯を見る。そして、目を見開く。

 なにがあったんだ、と灯は遠慮なく、美頬の携帯をそっと覗くと、

『弟 不在着信50件』

 灯もギョッと目を見開いた。

 そして、今も着信がある。

 美頬が携帯を操作して、電話に出る。

「……ごめん。うん、うん。……なのはな区の6丁目の……。いや…だいじょ……ごめんなさい。うん、うん。はい……」

 美頬が静かに電話を切った。

「大丈夫?」と灯が心配そうに聞く。美頬は頷いた。


 美頬の弟と母がどうやら今から迎えにくるらしい。それまで、夕方にやっているアニメを美頬と見ることにした。

 無駄にテンションの高く絡んでくる父親を灯が軽くあしらいながら。


 しばらくすると、インターフォンがなり、美頬の弟と母が迎えに来た。

 弟は『ザ・思春期』と言った感じの青臭い少年だった。中学生のようだ。

 釣り目で気が強そうな少年は、「姉がお世話になりました」と軽く頭を下げて、美頬の腕を掴み、灯の家の前に停まる車の方へ歩き始めた。

 車の運転席の窓が開き、美頬の母が「娘がお邪魔しました。今後も仲良くしてね」と優しげな笑顔であいさつをしてくる。灯は「いえいえ、こちらこそ」とヘラヘラと笑う。


 美頬は腕を弟に引っ張られながら、灯のほうに振り向いた。

「……灯ちゃん、ありがと」

「いいえ!また来てね。今度は弟さんも一緒に遊びにおいで」

 灯が笑顔でそう言うと、美頬は、静かに微笑み、頷いた。

 その笑みに、灯が見惚れていると、美頬の腕を弟が引っ張る。


「……またね」

「うん、またね!」

 そういって、車に乗り込んだ美頬は去って行った。



 その去っていく車を見つめながら、灯は首を傾げる。

「ん―――、なにか忘れているような……」

 一人でそうつぶやいて、何気なく庭を見ると、黒猫のコタローに、美頬が連れてきた子犬がじゃれついていた。


「ああ!美頬ちゃん、ワンちゃん――――!!!」


 灯は走り去る車に叫んだ。



 そんな灯が


 オレオレ詐欺(※従兄弟だった)と


 熊みたいに大きい狼みたいな動物(※本人は覚えてない)


 にビビった一日の話。


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