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25話:怖がり少女の友人(前篇)

 

『……欲しい』

 何を?

『……わからない。けど、欲しい。欲しい、欲しい、欲しい、欲しい』

 そんなに欲しいなら、奪ってしまえ。

『……奪う?』

 そうだ、奪ってしまえ。彼女から全部。

 お前の欲しいものを全部持っている彼女から、全部奪ってしまえ。

『……うん』







 灯は緊張していた。

 灯の友人が家に来るのだ。いや、灯の“ただの”友人ならここまで灯は緊張しない。

 “特別な”友人が来るのだ。お嬢様学校に通っている、人形みたいに綺麗な少女である会田美頬(あいだみほお)ちゃんだ。整った顔立ちや、静かな口調、優雅な動作からわかる、灯からしたらとても高貴な感じの子だ。といっても、本人の話では一般家庭らしいが。

 なんで、灯と縁がなさそうな子と友人になったかというと、偶然公園で会ってナンパのごとく声をかけられたからだ。どうやら、友だちがいないらしい。勢いで友だちになったのだが、一度会ったときから目に焼き付いて離れない、あまりの美少女っぷりを思い出して、緊張しまくりだ。美頬ちゃんのように綺麗な少女はテレビの中でしかみたことない。灯の母も、綺麗だと言われるが、美頬ちゃんほどの完璧に整った顔はしていない。だから、ますます緊張している。

 ドキドキが収まらない。まるで、初めて彼女を家に呼んだ男子高校生のような気分だ。


「まずは部屋に案内したほうがいいかな?けど、いきなり部屋だと怖いって思っちゃうかも……。じゃあ、最初はやっぱり、居間に呼んで、少しゲームとかを楽しんだ後に部屋に行くとか?それだったら、違和感ないかも」


 一人でぶつぶつ呟く灯。その発言は完全に、初めての彼女を家に呼ぶことに浮かれている男子高校生だった。


 そうこうしているうちに、ピンポーンと家のインターフォンがなった。

 この家には、今灯しかいない。


 灯は「来た!」と叫び、バタバタと玄関まで駆け込み、勢いよく扉を開けた。

 そして、門の前に立っていた美少女を見て、だらしなく、へらへらと笑った。


 美頬は、犬をつれて来ていた。灯が家に犬をいれる許可は出せないので、とりあえず庭に犬を離して遊ばせることにした。


 美頬を居間に連れてきて、テレビの前のテーブルに座らせる。そして、灯はぎこちない動作でお茶を差し出して(ふだんお茶など自分で淹れないからだ)、美頬に声をかけた。


「うちんち、すぐわかった?」

「……うん。なのはな区はよく来るから」

「へぇ!そうなんだ?なんで?」

「……」

「……」


 無言。灯と美頬は意味もなく、見つめ合う。


「えっと……、ゲームする?」

 灯はなんとなくゲームをすることにした。


 灯がゲームしているのを、美頬が隣に並んで見ている。

 なんと美頬はゲームをしたことがないという。だから、とりあえず、灯のやってる姿をみたいというので、灯が手本を見せているのだ。


「……今のってなに?」

「えっとね、吸い込んでるの」

「……なんで?」

「えっとね、攻撃するために」

「……」


 解せぬ、といった美頬の表情に気づかない灯。


「……今のってなに?」

「えっとね、雷」

「……なんで、ねずみから雷?」

「えっとね、攻撃するために」

「……変」

「ええー、変じゃないよ。風車で電気を作れるんから、ねずみも電気作れるよー。……たぶん」

「……なるほど」


 このようなぼんやりとした会話をずっと続ける二人は、いつしか緊張などなり、穏やかな時を過ごすことができた。



 どんな時間を壊すかのように、ある音が鳴り響いた。

 電話の音だった。


「はいはーい」と居間にある電話に灯は近寄り、受話器を取った。

「はい、竜頭です」

『灯ちゃん?俺だよ。誰か分かるかな』

 笑う穏やかな男性の声に灯は血の気が引いた。

 これは、今もまだ、被害がたくさん出ているというアレではないか。

 オレオレ詐欺という、悪質な犯罪である。

 灯は心臓がバクバクし始めた。もし、ここで対応を間違ったら、大金を奪われてしまう可能性があるのだ。臆病な灯はビビった。

『あれ?灯ちゃん?もしもし?』

 しかし、お金は大事である。灯は、勇気をふりしぼった。

「私は騙されませんよ!」

 ガチャッと勢いよく、受話器を置いて灯は電話を切った。


 また、電話がかかってくる。

 灯は眉をしかめながら、もう一度受話器を取る。

『灯ちゃん…。梓だけど、覚えてるかな……?』

「…梓?……従兄弟の?」

『そう』

「本当に?」

 灯は自慢じゃないがO型である。素直そうに見えて、意外と疑い深いときがある。

『本当だよ。俺は灯ちゃんのことすごく可愛かったって、よく覚えるのに…。灯ちゃんは俺のこと忘れちゃった?』

「え…可愛い…?ううん。覚えてるよ!それでなに?」

 照れ照れと嬉しそうに答える灯は、疑い深いけど、単純だ。しかし、O型なので、これはしょうがないことなのである。


『豆腐小僧がお世話になったね。ありがとう』

「いいえー」

『それでさ、ちょっとお願いがあるんだけど…』

 そこまで、梓が言うと、灯の家の庭に放していた美頬の飼い犬が吠えた。

『……。今、灯ちゃんって誰かと一緒にいる?』

「え、うん。友だちが家に来てるよ。お母さんとお父さんとお兄ちゃんはいない」

『そう。それは、ちょっと危ないな…。これから、誰か帰ってきたりしそう?』

「ええと」

 誰か早く帰ってくるって言ってたかな?と灯が悩んでいる最中に、玄関を開く音と同時に「ただいまー」というのん気な声が聞こえた。

「あ」と灯が呟く。

『ああ、叔父上が帰って来たか。そうしたら…大丈夫かな。…たぶん。それじゃあ、またね、灯ちゃん』

 一人で話を終わらせた従兄弟に、灯は首を傾げつつも、「うん、またね」と言って電話を切った。



「灯―!お父さんが帰ってきたぞー」


 スーツ姿で居間に入ってくる父親に灯は「おかえりー」と声をかける。


「お!友だちか?」


 灯の父が居間に座る美頬を見て、ネクタイを緩めながら言う。美頬は、灯の父を見て、ペコッと静かにお辞儀した。


「そーだよ。だから、あっち行ってて」

「なんだ、照れてんのか?灯は恥ずかしがりやだな」


 そういいながら、にまにまと気持ち悪く笑う父の背中を押して灯は居間から追い出す。父親が居間から出て行き、灯は「離れちゃってごめんねー」と言いながら美頬の隣に座って、またゲームをやり始める。


「……今の人はお父さん?」

 美頬がそう尋ねると、灯はゲームをしながら「うん」と頷く。

 そんなやり取りをしている時に、出て行ったと思った灯の父がスーツからスエットに着替えて、灯たちのいる居間にまた入ってきた。

 そして、灯と美頬の間に割り込んで座った。


「お父さん、なんで来るのー?」

 灯が不機嫌そうに言うが、灯の父は、ゲームの画面にくぎ付けで、全く聞いていない。

「お!ゲームかぁ。戦おうぜ!」

「やだ」

「ええーじゃあ、灯とは戦わない!お父さんは灯の友だちと遊ぶもん!灯の友だちはなんて名前?」

「……美頬です」

「みほちゃんね!よし、戦おうぜ!」


 そう言って腕まくりする父親がゲームコントローラーを美頬に渡す。灯は仲間はずれにされて、不機嫌そうに口をすぼめた。


「うおっ!みほちゃん、やるな!」

「なにぃぃ!?そうくるか、そうくるのか!?」


 一人で騒ぎながら、ゲームをしている父。美頬ちゃんは淡々とコントローラをカチャカチャと操作し、ゲームの画面を見ている。

 ちなみに、父は全敗している。


「お父さん……ちなみに美頬ちゃんは、ゲームが初めてなんだよ」


 灯がそういうと、灯の父は目をいっぱいに見開き、口を大きく開き、全力で驚きの表情を作った。

 そして、美頬の頭に手を伸ばして、その頭をポンポンと叩いて、ニカッと笑って言った。


「みほちゃん、やるな!」


 美頬は、静かに表情を見せないように、うつむいた。


 灯の父が、「お母さんが帰ってくるまで、部屋で寝てくる」と言って、また居間から出ていった。


「ごめんねー、うちのお父さんが」

 灯が美頬にへらへら笑い言いながら、そういうと、美頬が顔を上げて、今まで以上の強い意志を宿した瞳で灯を見つめて口を開いた。


「……欲しい」

「うん?なにが?」

 灯は首を傾げて、聞く。


「……あなたと私、なにが違うの?」

「え?」

「……あいつらが見えることは一緒なのに。なにが違うの?」

「美頬ちゃん……?」


「……わたしも欲しい!暖かい家が!お父さんが!」

 美頬が立ち上がり、涙を流しながら、そう叫んだ。

 グルルルルル…

 外から、禍々しい動物の鳴き声が聞こえた。

 灯が外を見ようと窓にほうに目を向けると、美頬の飼い犬がいなくなり、かわりに熊ほどの大きさの狼のような動物が灯を見て、威嚇をしている。


 驚いて動けない灯。

「……わたしに、ちょうだい」

 美頬がそう言うと、その動物が窓をすり抜けて灯に襲い掛かってきた。

 牙を剝いて、灯に襲い掛かる動物をスローモーションのように眺めながら、灯は意識を失った。


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