表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/42

22話:怖がり少女が踏むモノ(後編)

 この日は平日だった為か、本当に人は少なく、灯の貸切状態だった。

 黒川以外の他の店員も客の呼び込みをしに行っているらしい。だから、受付の女性と黒川と灯の3人しか、この美容室にいなかった。



「はあ?今まで床屋だった?美容室は初めて?まじかよ!あははははは!」


 美容室の店員の黒川が、鏡の前で座っている灯の話を聞いて、可笑しそうに笑う。


「まぁ、髪切って、髪洗って、また最後に髪を切って整えて、セットするだけだからな。床屋とやることはほとんど変わらないと思うぜ」


 黒川の言葉に、身構えていた灯はホッと安心した。 


「本当?よかったー」


「そうそう、別に怖いところじゃないから安心しな。それで、ええとアカリちゃん?どんな髪型にしたいんだ?」


 灯は照れながら、手に持っていた雑誌( “モテ髪 愛され髪 徹底攻略!これであなたも皆に愛されてモテモテ人生に!”という表紙の雑誌)の先ほど見ていた、ふわふわとした髪型の可愛い女の子が写るページを指差した。


 黒川は「ふうん」と言って、雑誌の女の子と灯の髪型を見比べて、口の端を上げた。目つきが悪いせいでニヒルな笑みになっている。


「いいぜ。俺の手にかかれば、朝飯前だ。今よりも、もっと可愛くしてやるよ」


 黒川はそう言って、灯にケープ(肩や背を覆うもの)を付けて、灯の髪に触れた。

 そして、ズボンに付けているシザーケースから(はさみ)を取り、シャキシャキと灯の髪を切り始めた。


 数分後、灯は鏡に映る自分を見て驚いた。

 M字になっていた前髪が、綺麗に直っていたのだ。黒川は横に流すように、前髪を切った。そうすることで、ざんばらが目立つ前髪がまとまり、異様に短かった髪の部分もなんとか誤魔化すことが出来ている。

 まさに匠の技だった。


「よし、一旦髪洗うぞ」


 黒川が灯のケープを取り、立ち上がるように促す。

 黒川の誘導によって、洗髪台の前に来た灯は固まった。


 洗髪台の前に椅子があるのは床屋と一緒だ。

 しかし、椅子の向きが床屋と違う。


 床屋は洗髪台と向かい合わせになるように座り、前のめりになって洗髪をする。

 それとは逆に、美容室の椅子は洗髪台と背中合わせに設置されている。


 どうやって髪を洗うのか。

 灯なりに考えてみた。


 灯はいきなり靴を脱ぎ出した。そして、椅子の背の部分と向かい合わせになるように、椅子の上で正座をして座った。


 その灯の行動を何も言わず見守っていた黒川は、ついに噴き出した。









 黒川の言う通りに、靴をはいて普通に椅子に座ってみた灯は、感動した。

 椅子がリクライニングチェアのようになっており、背もたれが後ろに下がった。そして、顔を濡らさずに洗髪ができる。

 そして、床屋のおじさんの豪快な洗髪の仕方とは全然違う、黒川の洗髪。

 黒川の洗髪は、丁寧で繊細かつ、ときおりマッサージをしてくれるのだ。


 あまりの気持ち良さに、灯は目隠しの布の下でよだれを垂らしてうたた寝をしてしまった。


 洗髪が終わり。黒川に起こされた。

 灯は寝ぼけまなこでまた鏡の前に移動をして、椅子に座る。


 黒川はドライヤーで灯の髪を丁寧に乾かし始めた。

 灯はその間に美容室の中を見渡していたら、床の一箇所に切られた髪がまとめられていることに気付く。


 それをなんとなく見ていた。


 シュルッ

 その中の、長い茶色の髪の毛が蛇みたいに動いた。


 灯は目をギョッと見開く。


 シュル シュル シュル

 床を這って、灯達のほうに髪の毛は移動してくる。


 シュル シュル シュル

 黒川の足元まで来た。

 黒川は気付いていないようだ。灯の髪を乾かしている。


 黒川の右足に、髪の毛が絡みつこうとする。

 その時、ふと黒川が足元を見た。

 黒川は、舌打ちをしてドライヤーを止めて、右足を上げた。

 そして、ダンッと髪の毛目掛けて勢い良く、右足を落とした。

 すんでのところで、髪の毛は、黒川の右足を避けた。


 シュル シュル シュル

 髪の毛が黒川から逃げるように、灯の方にやって来る。

「ひいっ」と灯は、小さい悲鳴を上げて、慌てて、両足を上げる。


 その灯を見て、黒川は「もしかして、視えるのか?」と呟いたが、それどころじゃない灯は気付いていない。


「くくく、黒川さん!この蛇みたいな髪の毛なんですか!?」


 ビクビクと怯えながら言う灯に、黒川はニヒルな笑みを浮かべた。


「そんな対したもんじゃねぇよ。力が弱いから踏めば死ぬ」


 髪の毛はシュルシュルと、黒川の足元に移動してきた。

 それを黒川が踏もうとするが、やはり避ける。


「チッ、こいつ、素早いな」と言う黒川。


 また灯のところに逃げてきた髪の毛。

 一旦、ピタリと止まった。

 黒川の様子を窺っているようだった。


「今だ!踏め!」黒川が灯に叫んだ。


 灯は、「えええー!?」と戸惑いながらも、黒川に言われた通りに、その髪の毛目掛けて上げていた足を振り下ろした。


 グニュッと髪の毛を踏んだ。

 髪の毛はビクビクと少しの間、動いていたが、次第に動かなくなった。


 灯は顔を引きつらせながら、足を恐る恐る上げる。


 やはり動かない。

「ナイス!」と黒川が手を上げたので、灯はへへへと笑って、黒川とハイタッチをした。





 黒川は、何事もなかったように、再度灯の髪の毛を乾かし始めた。


「今のなに?」灯が黒川に尋ねた。


「ああ、今のはなー。生霊(いきりょう)みたいな奴。髪の毛ってそういうのが宿りやすいからな。美容室で働いてると、こういうことが何度もあるんだ。

 あと、俺って格好良いだろ?仕事柄フランクに話さないと駄目だし、客を呼び込むためにナンパ紛いのをしないといけないんだ。

 そうすると、やっぱり美容室ってのは女性客が多いから、好かれちゃったりすんだわ。

 そういう想いとかが髪に宿って、生霊になってこうなる。

 面倒くせーが、仕事だからしょうがねえよ」


 灯はイキリョーというのが何なのか分からなかった。

 しかし、黒川の話はなんとなく分かった。

 黒川はモテるから、想いの寄せる女性の切った髪の毛が、あんな風になってしまったらしい。


「しかし、灯ちゃんは視えるんだな。久々に新しい仲間に会ったぜ。なぁ、視えることで困ってねえか?」


 見える?見える・・・目が良いと言うことか?

 確かに灯は目や耳が良いとよく褒められる。

 しかし、それで困ったことは特にない。


「困ってないよ」灯はそう答えた。


「そうか。困ったら、いつでも言ってくれ。俺たちが灯ちゃんをムカつく人間達から守ってやるよ」


 黒川はニヒルな笑みを浮かべて灯に言った。


 俺たち?ムカつく人間?

 灯は意味がわからなかったが、突っ込んで聞く気にはならず、曖昧に笑った。







「よし、終わった。やっぱり俺はすげえな。前よりもっと可愛くなったぜ、灯ちゃん」


 そう言って、灯の肩を優しく叩く黒川。

 灯は、鏡に映る自分を見て、驚いた。


 ふわふわとした髪型になった、いつもより可愛い灯がいた。

 感動して、口をポカンと開けることしかできない。


「灯ちゃんは天然パーマだから、コテで巻いたりパーマをかけなくても、ドライヤーでブローするだけでこうなる。

 簡単なブローの仕方を教えてやろうか?」


 黒川の言葉に、灯は目を輝かせてコクコクと頷いた。







「黒川さん、ありがとうございます!ありがとうございます!」


 ブローの仕方を聞いた灯は、黒川を尊敬するような輝いた目で、黒川を見上げてお礼を言った。

 黒川は照れ臭そうに「なんだ、可愛いじゃねぇか。無愛想な青とは全然違うな。こんな後輩がアク会にいてくれたら・・・よし、絶対アク会に入れる」と呟いた。


 灯は聞き取ることはできずに、首を傾げる。

 黒川はメモ帳に何かを書いて、それを破り、灯に渡した。


「俺の携帯番号とアドレスだ。何か困ることがあったら、連絡しろよ」


 灯は愛想笑いをして、とりあえず受け取り、制服のポケットに入れた。

 そして、新たに灯以外の客が来たので、黒川は灯から離れた。



「3990円になります」


 受付の女性にそう言われた灯は、冷や汗をたらたらと流した。

 灯の所持金は1500円だった。

 床屋では1000円で済むので大丈夫かと思っていた。

 灯は、受付の女性に説明して、携帯を取り出した。










「バカか?バカなのか?」


 帰り道、灯は兄に罵られていた。

 兄を美容室に来てもらい、3990円を払ってもらったのだ。


 罵られても、いつもは気にしない灯だが、今回はさすがに自分でもバカだったと思い、特に言い返すこともなく、しょんぼりと下を見て歩いていた。


「おい、灯、危ない」と兄に手を掴まれた。前を見ると、車が来ていた。


「ったく」兄はそう言って、灯の手を掴んで歩き始めた。


 ふわふわの髪型の灯と手を繋いで歩く、兄。


 あれ?似たような景色を最近見たような・・・。

 灯はそう思いながらも、思い出せずに、首を傾げながら、兄と一緒に歩いた。








 そんな灯が


 黒ずくめの男と


 蛇みたいに動く髪の毛に


 びびった1日の話。






お察しの通り、黒川さんもバカです。

次回は2月19日頃に更新します。


この話の裏話を活動報告にUPしました。

興味がある方は見ていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ