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11話:怖がり少女が宥めるモノ(中編)

(あかり)ぃ!!なんだってこんなことにっ!灯、目を覚ませ!!お願いだから!死んだらだめだ!灯ぃ!」


 父の叫び声が聞こえる。すごく泣いているようだ。

 その声を聞いて灯は全てを思い出した。

 車にひかれたのだ。


「親父泣くなよ。泣いていても灯は喜ばない」


 兄の声だ。いつもより暗い声色だ。

 私、もしかして死んだ・・・?

 灯は急に不安になった。


「そうよ。いつもみたいに笑っていましょうよ。灯はその方が良いに決まってるわ」


 母の声だ。泣いていたのだろうか、穏やかな声色だが、鼻声だった。

 どうしよう。本当に死んでしまったみたいだ。


「お前らは何でそんなに冷静なんだ!ああ、灯!可哀想にっ!フルーツの保護ネットみたいなのを頭から被せられて!まるでメロンじゃないか!!」


 んん?フルーツの保護ネット?メロン?

 灯が疑問に思っていると、ププッと笑う音が聞こえた。


「ははは!メロン!」


「ふふふ、メロンみたいに中身がつまってないわよー」


 笑う兄と母。

 ひ、ひどい!


「死者へのボウトクだ!」


 灯はカッと目を見開いて、叫んだ。


「おお、灯が冒涜(ボウトク)の言葉を知ってるとは思わなかった」兄は驚いたように言う。


「頭打って賢くなったのかもね」母が笑いながら言う。


(あかり)ぃ!可哀想に!メロンになってしまって!クゥッ」


 父が泣いて言った。

 灯は生きていたのだ。



















 母から聞いた話によると、灯とナースが一緒に車にひかれたらしい。

 さらに詳しくいうと、灯が助けようとしたナースが、逆に灯を助けようとして車にはねられた。しかし、はねられたナースが、すぐそばにいた灯の方に飛んできた。灯はナースを身体で受け止めて、そのまま、後ろにひっくり返り、頭を強打した。

 意識を失ったナースと灯はそのまま救急搬送されて、今病院にいる。

 灯には全く記憶にないが、目撃者がいるのでどうやら本当らしい。


 ナースは車にはねられた際の打ち身ぐらいで、灯も頭の打撲と擦り傷だけですんだ。それ以外は異常はないとのことだった。

 灯は頭を打撲したせいで、頭にネットを被せられていた。それをみて父が大袈裟に騒ぎ出して、しまいには“果物の保護ネットだ”やら“メロンだ”と騒いでいたのだ。


「それで、灯には残念なお知らせがあります」

 母がいきなりそう言った。


「えー?なに?」


「今日はここで1人でお泊りしないといけません。できるかなー?」


 まるで、幼い子どもに言いきかせるような口調だ。


「やだ!」灯はすぐさま即答した。


「拒否権はありませーん。お医者さんからの指示なんで頑張って泊まりましょう」


「じゃあ、お兄ちゃんが一緒ならいい!」


「は?なんで俺まで病院に泊まらないといけないんだよ」兄は呆れた表情で言う。


「病院は怖いから!」


「そんな理由でお医者さんが付き添い許可をくれるわけないだろ。面会時間ギリギリまではいてやるから頑張れ」


 そう兄に説得されて、灯は口唇を尖らせた。

 21時の面会時間まで家族はそばにいてくれた。

 起きていても怖いだけなので22時の消灯時間までに、灯は眠りについた。




















 い、息苦しい!

 灯は息苦しさを覚えて、目を覚ました。

 何かに首を締められている。


 ゆっくり目を開けると、灯の身体の上に正座しているどす黒い顔色の老婆がいた。

 灯は驚き、目を見開く。

 その老婆が灯の首を絞めているのだ。


 身体は石のようにカチンコチンで動かすことが出来ない。

 灯の首を、老人とは思えない力で締めつける。


 今度こそ死ぬ!

 その時、灯はあることを思い出した。

 カメだ。カメと喋れるように、コタローに通訳させる約束だ。それをスッカリ忘れてて今思い出したのだ。


 まだ、カメと喋ってないのに!

 死ねるか!

 そう思うと、自然と力が湧いてきた。

 動かなかった指先が動く。

 灯は、右手を動かした。

 人差し指と中指を迷うことなく、突き刺す。

 老婆の目に向かって。


『ア ア ア ア ア・・・』


 老婆は灯の上から降りて、目を手でおさえて呻く。

 灯は慌てて起き上がる。


「おおお、おばあちゃん!なんでこんなことするの?」


 老婆に距離をとり、吃りながら灯は聞いた。


『ア ア ア・・・痛い痛い痛い。あの子もこの子も私を嫌いで恨んでいるんだよ。だから私も恨んでいるんだ。殺さなきゃ殺さなきゃ』


 老婆はブツブツと呟いている。

 灯には意味が全くわからなかった。


 このおばあちゃん、呆けているのではないか?

 灯はそう思ったが、現状を良くするには説得しかない。


「よくわからないけど、私は恨んでないよ。だから、殺さないで欲しいなぁ」


『嘘だよ!あの子を殺そうとした時にお前は阻止したじゃないか!お前はあの子の味方で、私のことを恨んでいるんだ!』


 おさえていた手を外し、カッと目を見開いて老婆が叫ぶ。

 まさに鬼の形相だ。

 灯は怖くなり、身体を震わせたが、負けるわけにはいかない。


「あああ、あの子って誰?私、その人のこと知り合いじゃないと思うよ!だっておばあちゃんのこと恨んでないもん!」


『看護婦のあの子だよ!知り合いだろう!?』


 老婆のその言葉で、灯は合点した。

 老婆が言っているあの子とは、あのコンビニに来るナースのことだろう。

 老婆はあのナースの背中を押して、それを助けようとした灯を仲間だと思い、灯の背中も押したのだ。


「違うよ!あの人はたまたま隣に来た知り合いでもなんでもない人だよ!」


 灯は慌てて弁明をする。


『・・・本当だな?』


「うん!本当、本当!」


 灯は大きく頷いた。


『・・・そうか』


 そう呟き、老婆は灯の病室から出て行こうとした。

 それを見て、嫌な予感がする灯。


「おばあちゃん!どこ行くの?」


 老婆は振り向かずに、こう言った。


『あの子を殺しに行くんだ』


 灯は息を飲む。

 老婆は灯の病室から出て行った。


















 出て行った老婆。

 灯は固まっていたが、慌てて老婆を追いかける。


 老婆は、病院の廊下を裸足でよろめきながら歩いている。

 もちろん、廊下は電気などは点いていない。

 唯一の光は、足元をかすかに照らす緑の光ーーー非常口誘導のランプだけだ。


 灯はゾクッと寒気がしたが、老婆を引き留めなければならない。

 何故なら、殺人予告をされたのだ。

 勇気を振り絞り、老婆に近寄り、老婆の手を掴んだ。


 枯れ木のようなその手を掴んだ途端、灯は急に気持ち悪くなり、吐きそうになったがこらえる。そのせいで涙目になった。

 老婆はゆっくりと灯の方に振り向いて、どす黒い顔を灯に見せた。


『邪魔をするのか?やはり、あの子の仲間なんだな』


「ち、違うよ!ねぇ、おばあちゃんはさっき、ナースさんがおばあちゃんの事を嫌いで恨んでるから殺すって言ってたけど、嫌いとか恨んでるとかそう思う理由はなんで?」


『・・・私があの子に酷い事を言ったからだよ』


「私にはわからないけど、それって思い込みの可能性もあるってことだよね。だって、言葉の捉え方は人それぞれに違うらしいからさ!ねぇ、だったらナースさんに直接聞いてみようよ。おばあちゃんの事を嫌ってますか?恨んでいますか?って」


『・・・あの子とは喋ることが出来ないよ』


「じゃあ、私が聞いてみるよ。おばあちゃんは私の背中に隠れて聞いてて!」


 灯はそう言うと、老婆の手を引っ張って歩き出した。

 しかし、急に足をとめる。


「あれ、ナースさんの部屋って何処だ?」


 灯がそう言うと、老婆がある部屋を指差した。

 灯は夜中だとか知り合いじゃないとか、そんな躊躇いもなく、その部屋に向かった。



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