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メメント・モリ  作者: 渡り烏
最終章 「贖罪」
25/30

25 裏切りの代償

「どうしてここが分かったの?」


 突然家を訪ねてきたリョウに向かって、ハクは特に驚いた様子もなく尋ねた。それは問いというよりは、単なる確認に近い。

 零番街のほど近くに建てられた一軒家のリビングで、ハクに向き合って座ったまま、リョウは肩をすくめた。


「昨日会ったとき、シュンがそっちの車に発信機を付けてたらしくてさ。ほれ」


 そう言って、リョウは手にしていた発信機をさし出した。先ほど家に入ってくる前に車庫に停めてあったワゴン車のホイールから回収したものだ。

 突き出されたリョウの手に目を落とし、ハクは口に手を当てて笑みを漏らした。


「ごめんね。やっぱり考えることは同じだな、と思って。私も発信機つけてたから」


 問いかけるような視線を向けたリョウに対し、ハクは笑みを崩さぬまま弁解した。

 双方の位置をお互いに確認できる状態に置くことは、共に『仕事』をこなす以上必要なことだ。しかし、二人揃って相手に黙ったままそれを行うとはどういうことか。リョウは呆れた表情を浮かべて額を掻いた。


「入っていいよ」


 ハクが唐突に背後を振り向き、戸に向かって声をかけた。向かい合う二人は隣の部屋とを仕切る引き戸に目を向け、反応を待つ。数秒が経過した頃、デジャブを感じながら、ハクが席を立った。戸を引き開け、相変わらず盆を持って戸惑っていたリンを招き入れる。


「ありがとう。リン、ちょっといい?」


 ハクはリンに微笑みかけながら盆を受け取り、そのまま退室しようとするリンを引き留めた。

 ハクの言葉に首をかしげながら部屋に入り、リョウと目を合わせた途端、リンの顔が湯気を上げそうなほどに赤く染まった。

 そんなリンに苦笑しながら、ハクは再度口を開いた。


「リン、今能力使える?」

「で、でも……」


 ちらり、とリョウに盗み見るような一瞥を投げ、リンは顔を伏せた。


「大丈夫。リョウにはあっち向いててもらうから」

「う、うん……」


 リンは耳まで赤く染まった顔に手御当てて冷やしながら、なんとか頷いて見せた。そのまま台所に足を向ける。


「リョウも飲めば? おいしいよ」


 ハクは先に紅茶に口をつけながら、台所に向かったリンを目で追っていたリョウに、もう一つのカップを勧めた。

 リョウは視線を前に戻すと、トレイに乗せられたままのカップを手に取り、一口すすった。程良い渋みと、心地よい香りが口の中に広がり、緊急事態だということを忘れそうな平和な空気が部屋の中に漂う。

 その時、のどかな空気が漂う部屋の中に、場違いな音が響いた。連続して響くその音は、居酒屋で一気飲みを要求された若者がたてるような、遠慮のない豪快な音。

 リョウは訝しげに辺りを見回し、台所で視線を止めた。

 周囲から隠れるような台所の薄闇に、一つのシルエットが浮かんでいる。そのシルエットの中、天井に届きそうな突起が急激にその色を失い、透明に近い色合いへと変化していく。リョウが呆気にとられ、あんぐりと口を開けている間に、酒瓶は中身をすべて吐き出し、瓶本来の色を取り戻した。


「おい、あれって……」

「うん、あれがあの子の代償だから」


 何のことはないと言うように答えるハクの声に、重いものを置く音が重なった。続いて、台所からリンが姿を現す。僅かに頬を赤く染めているが、それ以外に大きな変化はなく、足取りもしっかりとしている。むしろ、顔の赤みは先ほどよりも確実に引いていた。

 先ほどと別人のような足取りで堂々と歩いて来るリンに、ハクは先ほどと変わらず声をかけた。


「シールの位置、特定できた?」

「うん、大丈夫。行くの?」

「そうしようか。じゃあ、アヤに連絡しておくね。先に準備しておいて」


 リョウがやけにスムーズなやり取りを端から眺めていると、饒舌になったリンがリョウを振りかえり、首を傾げた。


「リョウさん、どうしたんですか?」


 不思議そうに尋ねるリンから視線をそらし、リョウは肩をすくめて見せた。


「いや、意外に男っぽいとこあるんだなー、と思ってさ」

「……」


 リョウの口からこぼれた軽口に、リンの顔は再びゆでられた蟹のような色を取り戻した。


                    ▼


 誰かに呼ばれた気がした。

 周囲に広がるただ暗いだけの空間。

 そんな中で、反響するようにして、聞き覚えのある声が耳に届く。


「悪いが、殺人は止めてもらいたい」


 殺らなければ、殺られる。そんな世界で生きてきた俺たちに、何を言っているのか。


「殺し自体を止めろとは言っていない。命を奪うな、と言っている」


 訳が分からなかった。殺しは容認する、しかし殺すな。こいつの言うことは矛盾している。

 黙ったままのこちらを見てどう思ったのか、銀髪の男は相変わらず流暢な日本語で脅しじみた言葉を口にした。


「承諾できないと言うなら、ここでお前たちの四肢を奪うことにするが、どうする? 一口に殺しと言っても、その形は様々だ。運動を生きがいとする男から四肢を奪えば、その男は一度死を迎える。分かるかね、私の求めているものが」


 綺麗ごと。そう、それはき綺麗ごと以外の何物でもない。だが、従うしかなかった。でなければ、彼は言葉通りにこちらの四肢をもぎ取るだろう。それも、こちらが抵抗する間すら与えずに。

 それ自体に問題ない。そう、手足を千切られようがそのまま失血死しようが、それ自体に問題はない。もとより、自分が生きている資格があるのかすら、判断できない。だが……まだ駄目だ。せめて――償いを終えるまでは。


「物分かりがいいと長生きできる。精々、長く生きろ」


 そう言って、目の前の男はこちらに背を向けた。完全な闇に覆われていた周囲が元の色を取り戻した。一般的な作りの内装が目に入る。その中で、銀髪の――年も知れぬ伯爵はこちらに背を向けた。


「それと、これは夢だ。気づいているとは思うがね。さて、そろそろ起きる時間だ。私との約束、忘れるなよ」


 何を今更。俺は、約束を違えたことなどありませんよ。


「そうか。精々、死なないように抵抗するがいい」


 肩越しに振り向いた顔に笑みを刻み、くつくつと笑いながら、伯爵は景色を引きつれて夢から去った。


                        ▼


 過去を交えた夢から覚めて目を開けると、一枚の扉が見えた。


「全く、夢に出てまで念を押してくるとは……物好きな人だ。いや、人じゃあないな」


 誰に向けたとも分からない言葉をため息で流し、自分の状態を確認する。

 いわゆる磔の状態だった。手首を縛る針金がきつ過ぎるのか、手は薄い紫色に変色していた。足も同様だろう。

 どうしたものかと思案していると、目の前の扉が開いた。部屋に入ってきた人物は、見慣れた顔にフードを被せた裏切り者。


「もう起きてんのか。流石に早いな」


 呆れたような感心するような、曖昧な口調でレンは軽口をたたいた。


「そんなバカでかい剣持って、処刑人か? と言うより、少年漫画の主人公に近いが」


 シュンは隻眼を細めて、レンの肩に担がれている武器に目を向けた。

 クレイモアと呼ばれるその大剣は、それこそ漫画の世界でしかお目にかかれないようなサイズだった。幅約50cm、長さは2mといったところか。通常、その重量故に満足に振ることも出来ないような代物だ。                                                                                                                                                                                                                                                                                                              


「いや、どちらかと言えばまた裏切り者に近いな。命令違反だ」

「お前、裏切りが趣味か?」


 悪びれた風もなく首を傾げながら言うレンに対し、シュンは呆れたようにため息をついた。

 敵同士とは思えない会話を続けながら、レンはゆっくりとシュンに歩み寄った。近づきながら担いでいた剣を前に突きだし、シュンを拘束している針金に軽く当てる。


「俺と決着をつけてくれ」


 言いながら大型の刃を動かすと、針金は木綿の糸を切るようにあっさりと数本に切り分けられた。


「決着はあの時ついたろ」


 手足を解放され、、肩を回してほぐしながら、シュンはレンの頬に刻まれた傷跡に目をやった。

 あの傷は、シュンがつけたものだ。当時零番街の実質的支配権――裏の権力は銀が握っていたわけだが――を握っていたレンとリョウ。シュンは零番街の正常化を果たすため、二人から力づくで零番街を勝ち取った。その戦闘の最中についた傷。今では、その傷はレンにとって一種のシンボルともなっている。


「いや、俺はあの時言ったはずだぞ。どちらかが死んだ時が決着だ、ってな」

「だから裏切ったのか?」


 静かに対峙ながら、年不相応の経験を積んできた二人の少年は、互いの殺気の揺らぎを感じ取っていた。


「そんなつまらないことで裏切るわけないだろ。ガキどものためだよ」

「なるほど、そういやお前の後輩は、まだ孤児院暮らしだったか。運の良いことに」


 『運が良い』。まさしく、零番街においてはその一言に尽きる。零番街の彼らは居場所が消え、それを自身で見つける必要に迫られた者たちなのだ。それから見れば、彼の後輩は幸運と言える。ここまで長期間生き残るには、恐らくどこかから資金提供があったのだろう。だが――それが枷として使われる場合もある。


「それで脅しつけられてるのか? それとも――」

「あいつらにまで早くから面倒な世界を見せたくはないからな」


 シュンの言葉を受け、レンの表情が僅かに緩んだ。しかし一瞬後には、その顔は殺人者のそれと化していた。


「ほら、シュンいい加減お前の得物を手にしたらどうなんだ? お前の後ろで、寂しそうに待ってるぜ」


 レンが顎で示した先、シュンが磔にされていた十字架の後ろに据えられた机にはシュンの分身たる彼の武器が、物言わぬまま彼に訴えかけていた。

 肩越しにそれを振り向き、シュンはレンに背を向けてゆっくりと自らの一部を身体に戻していく。


「一つだけ聞いておくが……お前、リョウのことをどう思っている?」


 シュンな小さく呟くような問いに、レンは息をのんだ。

 たった一言の、友人だった相手からの問い。だが、その言葉は万の言葉で責め立てられるよりもはるかに強く、レンの心を打ちすえた。

 詰まった息をのみ込むように唾を飲み込み、レンは深く息を吸い込んだ。


「あいつは……あいつは、俺の――」


 苦しげに喘ぎながら言葉を紡ぐレンを、シュンの隻眼が貫いた。レンの答えを知っていながら、彼を何よりも苦しめる問いであると知りながら、それでも、ただ、待つ。


「あいつは、永遠に――俺の親友だ。俺が、あいつを代償で裏切っても」

「そうか。なら――」


 シュンは静かに、背負った刀を鞘から抜き放った。光が刃を伝い、己が敵へと光を反射てた。


「来い、レン!」


 澄んだ殺気が交錯し、二人の友としての語らいを終わらせた。


結局一日遅れましたね。申し訳ありません。

次も少し前置きがあってから戦闘に入り、少ししてまた戦闘の予定です。


最初に比べてt賞なりとも進歩していると良いのですが……どうでしょうね。

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