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メメント・モリ  作者: 渡り烏
第二章 「イリュージョン」
18/30

18 幕開け

 シュンの運転するワゴン車の助手席に座って送られてきた紙を眺めながら、リョウがあきれとも感嘆ともつかない感想を口にした。

 そこには最小限の情報しか記されていない。だが、ゴブリンをけしかけてきたのでは言い逃れは出来まい。その小鬼も発生直後にはシュンによって消滅させられたわけだが。


「リョウ、一応聞いとくがミリガンの相手は出来そうか?」

「おう、この前動き見たからな。もう曲も出来てるぜ」


 リョウを振り向くことなく問いかけてきたシュンに対し、わけのわからない言葉と共に自信を示す。だが、シュンは気にした様子もなく運転を続ける。

 そこからは二人とも無言で数分を過ごし、待ち合わせのコンビニ前に到着した。

 まだ待ち合わせの時間までに三十分ほどあるせいか、待ち人は来ていない。それを確認するとシュンはワゴン車の後方へ移り装備を身につけ、準備を整えていく。


「なあ、なんでそんなに無駄なもん持ってんだ? お前ナイフだけとか銃だけでも戦えんだろ?」


 シュンは身につけた装備を確認しながら立ち上がり、リョウを振り向いた。その動きは大量の装備を身につけているとは思えないほどに軽い。


「前にも言ったろ。俺は能力の一部で状況に応じた身体強化がある。その発動は俺にも制御できないんだ。その時にある程度重量があれば力の空回りが防げる。それに必要な分だけ筋力が増えるから、装備を増やそうが減らそうが大した変化はない」


 実際はそこまで単純な能力ではないのだが、現状でそのことを話す必要もない。

 リョウは特にする準備もなく、ポータブルプレーヤーにつないだイヤホンで音楽を聴いている。目を閉じ、リズムに合わせて体を揺らしながら脳内でイメージを固めていく。満足のいく出来に笑みを漏らし、リョウはリピートのボタンを押した。

 到着から十分後、一台のワゴン車が滑るような動きで前の空間に停車する。

 車内から顔を出し手を振る相手に、こちらは手を上げて挨拶を返す。


「リョウ、行くぞ。ひとまず向こうと顔合わせだ」


 シュンはリョウの耳から乱暴にイヤホンを引き抜き、声をかけてから車を下りた。すると、傍らには既に眼帯を着けた少女が立っていた。


「早かったな。もう少し遅くても良かったんじゃないか?」

「シュン君だって早いよ。装備するにしても十分もかからないでしょ?」


 簡単に挨拶を交わしているうちに、リョウが姿を現した。やる気がなさそうに頭を掻きながら欠伸を一つ。シュンの斜め後ろに立つ。

 集合している様子が見えたのか、前方のワゴン車からも二人の少女が下り、小走りで近づいてきた。彼女達がハクの後ろで立ち止まるのを待ち、シュンが口を開いく。


「自己紹介はひとまず後でいい。まずは、攻め方を検討しようか」


 シュンは各々を見回し、無言で問いかける。異論がないことを確認し、全員をワゴン車の後部に乗るように促した。

 シュン、リョウ、ハクと続き最後にアヤとリンが残った。

 ハクがどうしたのかと振り向くと、アヤは首を横に振る。

 彼女達はシュンとリョウのことを知らない。つまり、彼女達が信用できる対象として二人は認識されていない。それに気づいたハクは微かに苦笑を浮かべ口を開いた。


「大丈夫だよ。シュン君のことは昔から知ってるから」


 警戒を解かない二人に向かって、ハクが柔らかく微笑んで見せる。アヤとリンは顔を見合わせ頷き合うと、ステップに足をかけた。

 是認が車内に入ったことを確認すると、シュンは壁際に立てかけてあった紙を広げた。


「これから行く廃工場の見取り図だ。見て分かる通り、大きく分けて四部屋ある。だが、入口は二つ。そこで、今回は二組に分けて行動しようと思う」


 四部屋あるうちの二部屋に入口が設置されている。恐らく、絵師は入口のない部屋のどちらかにいる。もとより遠距離に向けて能力を発動できる絵師が入口付近に陣取る必要はない。それならば他の宿主の支援を主に行動すれば、最悪でも疲労で敵戦力を削ることが出来る。


「先陣はリョウとそちらからもう一人、二陣は俺と出来ればハクがいい。戦力的に一番高いし、体力は温存したい。もう一人は――」

「リンは現場には行かないから実行は四人だけ。だから、先陣はリョウ君とアヤでいいと思うよ。私もシュン君と組めば保険があるしね」

「俺が銃を撃つ。それが合図だ」


 双方の代表が頷いたことで合意がなされる。

 作戦と言うにはやや簡易なものだが、相手の出方が分からない以上、出来る限り簡易な形で決めるほうが好ましい。不測の事態が起こった際に各個人で対応するほうがより柔軟に効率よく対応できる。

 大まかな行動方針を決め工場へ移動後、各自が配置に着く。リョウとアヤはそれぞれ入口につき、シュンとハクはその後方に控える。

 シュンの発した銃声と共に、幕は上げられた。



 ドアノブを捻ると、ドアは何の抵抗もなく開いた。本来かけられているはずの鍵もかけられておらず、まるで誘われているように錯覚する。いや、恐らく誘っているのだろう。挑発という形であれ、招待状を送ってよこしたのだから。

 リョウは足元が見える程度にともされた明りを頼りに、慎重に歩みを進めていく。姿勢を低くして攻撃に備えながら、何事もなく辿りついた扉を押しあける。

 リョウは咄嗟に腕で目をかばった。開いた扉の奥から溢れた光は照明としてはやや強く、薄暗い廊下で散大した瞳孔は必要以上の光を受け、瞬く間に収縮する。

 目が部屋の明るさになれたところで、扉を完全に押しあける。

 広い空間。元は大型の機械が置かれていたであろう空間は現在は完全な空所となっていた。二階に当たる高さに設けられた渡り廊下だけが、唯一それが工場だったころの名残だった。

 その空間の中心部分に一人、スキンヘッドの男が凝然と立ちはだかっていた。

 広大な空間の中でさえ、その巨躯は十二分な威圧感を放っている。


「……ビンゴだな」


 レンと共に脱走した捕虜、ミリガン。シュンがこちら側に戻ると決意した際に引きうけた最初の仕事で相まみえた『宿主』。彼は、最初に出会ったときと寸分たがわぬ余裕の笑みを浮かべ、リョウに語りかける。


「(久しぶりだな。さびしかったぜ)」

「悪い、俺英語分からないんだ」


 リョウの返答を聞いていないのか、意味が分からないのか。ミリガンは彼の言葉をおもんばかることなく言葉を続ける。


「(上の連中から、こちら側につく意思があるなら攻撃する必要はないと言われてる。どうすんだ?)」

「だから~、ええい面倒な。(だから俺は英語分からないの。分かったとしてもお前らの側にはつかねえよ)」


 突如流暢な英語で答え、リョウは肩をすくめた。


「(俺がいねえとシュンはな~んも出来ねえんだよ。面倒見るやつがいなきゃな)」


 リョウは止めていた足を、再びゆっくりと動かし始めた。ミリガンとの距離が徐々に短くなる。


「(大体、味方になったところで実験に使われるか、頭の中の蟲を引きずりだされるかのどっちかだろうしな。違うか?)」


 何も答えないミリガンに対し、大げさな身振りで言葉を投げつけながら、リョウはさらに距離を縮める。


「(要するに……)」


 ニヤリ、とからかうような笑みをミリガンに向け、人差し指を突き付ける。


「俺は英語は分からないんだよ」


 相手の制空権に入り動きを止めたリョウに、ミリガンはニヤついた笑みをぶつけた。


「(なら実験材料になりな!)」


 ミリガンはそう吼えるように叫ぶと、大木のような足を振り抜いた。



 同じころ、もう一つの入口でも同様のやり取りがなされていた。


「で? 仲間になるのか、ならねえのか?」


 リョウに問われた内容を問われる。だが、その答えは微塵の躊躇なく選ばれた。


「いやだね。あんたたちの言うことなんて信用できない」

「はっ、なら実験材料にしてやるよ!」


 そう言ってカズは顔のニキビに手を伸ばす。彼女を行動不能に陥れれば、後は人質にするなりいくらでもやり様はある。

 勝利を確信した彼の手が、唐突に動きを止めた。

 ――どこに行った?

 先ほどまで目の前にいた少女の姿が消えている。このただ広いだけの空間で隠れる場所などない。まして、動く気配すら全く感じないとはどういうことか。

 周囲を見回しても目に入ってくるのはただ広い空間と、離れた位置に見える灰色がかった壁だけ。


「こっちだよ」


 背後からの声に振り向く間もなく、脇腹に蹴りが突き刺さる。バランスを崩したところをさらに頭部に一撃。

 崩れたバランスをそのままに、横転して回避。一度距離を取る。


「何が……」


 再度周囲を見回すが、そこに広がるのは先ほどと同じ虚無。

 だが――


「はあっ!」


 眼前の空間に少女が埋められ、再度彼女の脚がカズを襲う。

 顎を狙ったそれを体を反らして避け、体を起こしながら反動を利用して足を蹴りあげる。

 しかし足はむなしく空を切り、少女は再び何もない空間へと溶け込んだ。

 カズは再度消えた少女を探しながら思考を巡らせる。何かの能力であることは間違いない。また、姿を消している間は目に見えず音もたてず、気配もない。だが、同時に攻撃も出来ない。となればこちらの位置を正確に把握できていないか、実体を失っているかだ。

 ――確かめるか。

 カズは自身の推測を確認するため、前方へ駆けだした。再度出現した少女の足が背中をかすめる。


「なるほどな。下らねぇ」


 カズが振り向いたときには既に少女の姿はない。だが、カズに先の困惑はなかった。

 再度前方に駆け、振り向く。

 そこに現れた少女は消えたカズの姿を追って視線を彷徨わせた。


「こっちだよ」


 少女は振り向き目を見開くさまを視界に収め、カズは勝利の愉悦と共にニキビを押しつぶした。

 アヤは全身を焼く激痛に身を強張らせ、硬く冷たい床に崩れ落ちた


「うぎ……あ……あ……」

「……痛みを抑えてるとは言え、女のくせに我慢強いな。もっと泣き叫んでくれた方が楽しいのによ」


 地を這い悶えるアヤに近づき、見下ろす。敗北を認めようとはしない鋭い眼光を正面から受け止めたカズの表情は、酷薄な表情を刻んだ。


「お前の能力は、自身の存在を消すこと。そうだろ? 消えてる間はどんな攻撃も出来ない代わりに、受け付けない。加えて自身の視覚なども喪失する。だから――」

「武器も持てないし、能力発動中は相手が大きく移動するとその居場所を特定できない。でも、無駄口が過ぎると後ろから刺されるよ?」


 背後からの声に振り返ったカズの両腕に矢が突き立った。


明けましておめでとうございます。


ここら辺から少しの間は戦闘メインになります。今までサボってたキャラにも働いてもらう予定です。


では、今年もよろしくお願いします



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