うらばなし:真夏の夜の悪夢(完全メタ回)
たまには作品を横断して、同窓会的なものを書いてみたいなと思っていました。
今回、全作品の女神様たちを集めて、恋愛論的な話をしてもらったら?というIFがきっかけです。
できるだけ連載時期的に近い作品を選んだつもりですが、楽しんでいただければ幸いです。
某月某日、わたしは夢の中で一通の手紙を受け取りました。
差出人が書いてないので、ちょっと不気味に思いましたが、仕事の傍らネット小説を書き散らしているわたしは、その手紙が何かしらのネタになりはしないかと考え直しました。
宛名を確認すると『安堂登呂和さま』……うん、わたし宛で間違いありません。わたしが開けても、信書の秘密を侵したことにはならないのです。
わたしは安心して部屋に帰り、手紙を開封します。2枚の便箋と1枚の地図、そしてインビテーションカードが入っていました。
わたしはドキドキしながら1枚目の便箋を開きます。丸っこい文字で1行だけ書いてありました。
『今日の放課後、校舎裏に来てください♡』
…………
「……は?」
おもわずそんな声が漏れます。何ですか、この高校生の青春みたいなノリの手紙は?
わたしはもう社会に出て結構な年数が経っています。今さらこんな『失われた青春の残像』を見せられても、はっきり言ってリアクションに困ります。
一瞬、“捨ててやろうか”との思いが浮かびますが、まだ2枚目が残っています。こちらにくだらないことが書いてあったら、この手紙は無視無視、インセクトです。
気を取り直して2枚目を読むと、
『親愛なる安堂登呂和先生へ
わたくしたちは安堂先生の著作を欠かさず拝読しております。登場人物が魅力的でつい惹き込まれしまうのです。
わたくしたちも安堂先生のような物語を書きたいと思っておりますので、ぜひわたくしたちとオフ会をしていただけないでしょうか?
日時は某月某日、午前11時から、昼食会を兼ねた形式で行いたいと思っております。
御参加いただける場合は、同封の招待状をお持ちのうえ、地図の会場にお越しいただければ幸いです。
では、お会いできることを楽しみにしております。末筆ながら、安堂先生の今後のご活躍をお祈り申し上げます。
某月某日、安堂先生を囲む会 会員一同』
……訳が分かりませんでした。
そりゃ、わたしは数年にわたってウェブ小説を書き散らしていますが、読者数もページビュー数もそんなに伸びている方じゃありません。
ありていに言えば、無名のアマチュア物書き真似っ子です。
そんなわたしと、作品について語り合いたい?
しかも、何度読み返しても“わたくしたち”と書いてあります。
つまり、この手紙をくれた本人だけでなく、少なくとももう一人、同じ思いの人がいるってことですか……。
(うん、これは行ってみよう。何かしらのネタになるかもしれないし、少なくとも貴重な読者さんだ、大事にしなきゃ……)
嬉しさのあまりすっかり舞い上がったわたしは、手紙には相手への連絡先や出欠の確認先が書いてない不自然さに、まったく気づかなかったのです。
約束の日は、朝から快晴でした。
気分がいつもより浮ついているのは、今日が休みだからでも、目覚めが気持ちよかったからだけでもありません。
(いったいどんな子たちなんだろう? 失礼がないようにしなきゃ……)
わたしはいつもよりちょっとだけ長く鏡の前に立ち、身だしなみを入念にチェックします。
(うん、まぁ、わたしにしちゃ結構いい線行ってるかな?)
強引に自分を納得させて、わたしは家を出ます。約束の場所は少し遠い町だったので、早めに家を出ることにしたのです。
国道を1時間ほどひた走ったところで、わたしは違和感を覚えました。
(あれ? こんな所に分かれ道ってあったっけ?)
だが、わたしの思いとは裏腹に、腕が勝手に動いて『見たこともない道』の方へ車が進むんです!
(えっ? あれっ? あるうぇ~っ?)
濃い霧が出てきた中、まるで誰かに操られているかのように、勝手に道を選ぶわたしの車……こ、怖い……。
そして、大きな門を持つお屋敷の前に停車しました。
霧が晴れて、屋敷の全貌が見えるようになった時、わたしはあんぐりと口を開けました。
壮麗な門扉、その向こうに見える噴水と庭園。きちんと整備された道もあるので、恐らく車のまま玄関に乗り付けられるのでしょう。
わたしは仕事柄、いくつもの旧家を拝見してきましたが、どれもこの邸宅に敵うものはありそうにないです。文句なしの“大豪邸”でした。
度肝を抜かれたわたしが、ただあんぐりとして停車していると、門扉が音もなく、しかし重々しく開き、詰所みたいなところから執事服を着た若い男性が出て来ました。
「……安堂登呂和先生ですね?」
丁寧にコンコンと窓を指で叩き、静かな声で聞いて来ます。わたしは慌てて、インビテーションカードを提示しました。
「お、お誘いいただきありがとうございます。あ、安堂登呂和です」
わたしがそうあいさつした時、執事の後ろから小柄な女性が顔を出します。
手入れの行き届いたサラサラの黒髪、おっとりしていて知性を感じさせる黒い瞳。まるで物語に出てくるヒロインのようでした。
彼女はにこりと笑うと、涼やかな声でわたしに言います。
「安堂登呂和先生ですね? お会いするのを楽しみにしていました。
ここから先はわたくしがご案内いたします。高井、安堂先生のお車を駐車場に」
「はい、お嬢様。では安堂様、お車をお預かりいたします」
執事からそう言われ、わたしは車を降りてその女性に従いました。
やがて壮麗な玄関につくと、お嬢様は玄関先に立っているスーツ姿の女性に聞きます。
「愛実、皆さんはお揃いかしら?」
すると愛実さんは、薄く笑って答えます。
「はい、お待ちかねでございます」
「そう、じゃ、急がなきゃね。安堂先生、ようこそ。『先生を囲む会』の会場にご案内いたします」
お嬢様はそう言うと、すたすたと奥に入って行くのです。ちょっと腰が引けているわたしに、愛実さんは優しく声をかけてくれました。
「安堂先生、今日はあなたが主賓です。ご遠慮なさらず奥にお進みください」
この言葉に背中を押されるように、わたしは奥へと歩を進めたのです。
歩きながらわたしは、何か落ち着きませんでした。お嬢様が言った『高井』とか『愛実』という名前を、どこかで聞いたことがあったのです。
「皆さん、安堂先生の御到着ですよ」
お嬢様がそう言ってドアを開けます。そこに居た人たちが一斉にわたしを見ます。
その瞬間、わたしは今までの違和感の根源を理解しました。
中央のローテーブルには、栗色の髪を肩まで伸ばした姉妹と、黒い髪と黒曜石のような瞳の、紫色の留袖に臙脂色の帯を締めた女性、そして向かいには、白髪を長く伸ばし、アンバーとアクアマリンのような眼をした女性が座っています。
その向こう、大きな天蓋付きベッドの前には、何人ものギャラリーが椅子に座っているのです。
(……なにこれ、みんな……)
わたしはひきつった笑いを浮かべて、思考がフリーズします。だってこの部屋にいるみんなは……。
「ようこそ、安堂登呂和先生。わたくしが今日の司会進行を務めさせていただきます、岩城ことりです。よろしくお願いいたしますね?」
ことりさんの目が怪しく輝く。わたしはぎこちなくうなずきました。
自分が生んだキャラクターです。こういう場合に下手な返事をしたらどうなるか、作者ほど分かっている人物はいないでしょう。
こうして、わたしは『自身のキャラによる座談会』というつるし上げを食うことになったのでした。
ことりさんはニコニコしながら言います。
「本日は、先生の作品に登場する女神の皆様により、先生の作品における恋愛観を語り合っていただこうと考えています。
パネラーは、『HAMMURABI~死神はどこへ往く』から、豊穣神バステトであるネフェル様。
『無常堂夜話』からヒロインの瀬織川津媛である瀬緒里さん。
そしてわが『デレ神様と修羅場と僕』から、志鳥武葉さん、椎葉さんです。
なお、『青き炎のヴァリアント』の女神アルベド様は封印中で御欠席、女神ホルン様は著者がエタっているせいでウラル帝国を離れられないので御欠席です」
「うぐっ!?」
いきなり心理攻撃が来ました。さすがはことりさん、今日もエグ鋭いです。キレッキレです。
ジャブを受けてよろめくわたしに、容赦のない攻撃が降り注ぎます。
ことりさんは愛実さんから受け取った電報用紙を開くと、愛くるしい笑みをわたしに向け、それを読み上げました。
「『星読師ハシリウス』の女神アンナ・プルナ様からです。
『キャラクターオフ会の御盛会をお祈り申し上げるとともに、筆者様には一日も早くハシリウス辺境編を書いていただけるよう要望いたします』
……だそうです」
「あうっ!?」
胸を押さえてよろめくわたしに、ことりさんは圧のある笑顔で言います。
「いかがなされましたか? お加減がお悪いなら、早くお座りください。
愛実、安堂先生がお好きなリンゴ牛乳を差し上げて?」
「はい、お嬢様」
すぐさま愛実さんがリンゴ牛乳を持ってきてくれます。甘酸っぱいリンゴ味がのどを駆け下りると、何とか気持ちが落ち着いて来ました。
すると、わたしの真向かいに座っているネフェル様が、頬杖をついてじろりとことりさんを睨みます。
「のう、早う座談会を始めんか? わらわはオルクスを待たせておるんじゃ。オルクスが寂しがっておろうから、さっさと終わらせてもらえんかのう?」
ことりさんは、恐れる色もなく愛実さんに、
「では、始めましょうか。料理をお持ちして」
そう指示すると、ふわりとわたしの斜め前の席に腰かけました。
★ ★ ★ ★ ★ ★
前菜は、コンソメスープとサラダでした。
ただ、さすがにわたしが“超お金持ち”として設定したことりさんです。どちらもすごく手が込んでいて、
(……このスープ、これだけでおかずになりそう……)
お持ち帰り用の水筒やタッパーを持ってこなかったことを、激しく後悔しました。
ネフェル様は、先ほどのご機嫌の悪さはどこへやら、結構な早さでスプーンを口に運んでいます。
ネフェル様がスープを食べ終わるのを待っていたように、ことりさんが話を向けます。
「恋愛要素は、物語の主題、あるいは物語に膨らみを持たせる重要な要素です。
もちろん、わたくしたちの物語にも多かれ少なかれ恋愛要素はございます。
それで、ネフェル様としては、筆者の恋愛観はどのように感じられますか?」
するとネフェル様は、じろっとわたしを見て言いました。
「ふん、わらわの作品は完結しておるから、好きなことを言わせてもらうぞ?
最後にオルクスと会わせてくれたのは妥当じゃが、どれだけ待たせるのじゃ?
神代の時代から数えて4度も別れを経験し、そのためにオルクスを死神にまでしおって。
よいか、雷神オルクスはのう、優しくて一途で、最高の旦那様なのじゃ。それを何度も何度もお預けを食わせおって。わらわはドMではないんじゃぞ?」
それを聞いて、椎葉さんがむすっとした顔で言います。
「恋愛要素をコメディやギャグにするために、私たちにエッな行動を容赦なく取らせるよね。
私、台本もらった時に目を疑ったもん。ト書きが『雄瑠に迫る』だけだよ?
ことりんの方はどう? 最初に缶詰ホテルで迫るシーン、何かリクエストあった?」
椎葉さんがことりさんに聞く。ことりさんは頬を赤くして照れながら答えました。
「い、いえ別に。ただ、『あふれる思いを素直にぶつける』と書いてあったので、つい見境なく……」
「え、じゃああれって、ことりさんの素なんですか? 私、モニターで見ていて、『これ、本番まで行っちゃうんじゃないの?』ってハラハラしていました。
危うく荒魂を発動させるところでしたよ?」
武葉さんがびっくりして言う。ことりさんは慌てて顔の前で手を振り、
「そ、そんな。ちゃんと『脱ぐ、触る、○ぎ声はNG』とありましたので、レギュレーションには違反しないように気を付けましたよ?
雄瑠さんが思ったよりその気になっていたので、逆に焦りましたが」
そう言った途端、ギャラリー席で、
「お・兄・ちゃん? ことりさんから缶詰ホテルで迫られたってDo You KOTO?
柚乃、そんな話ちーっとも、まったく、ずぇんずぇん聞いてなかったんですけど!?」
『デレ神』の斉藤柚乃ちゃんが、目のハイライトを消して甘羽雄瑠くんを詰問している。
こうなると思ったから、あの回の台本は柚乃ちゃんには渡していなかったけれど、それが裏目に出たようです。
「待て柚乃。落ち着け、落ち着いてくれ」
雄瑠くんが一生懸命になだめていると、音無菜都緒ちゃんと陳内華憐さんが、
「柚乃ちゃん、これもお仕事だから。作者さんみたいに優柔不断な人が、雄瑠さんを誰かのものにするなんてできるはずないから」
「そうよぉ柚乃ちゃん。あの程度で怒ってちゃ、第3クールじゃやっていけないわよぉ」
などとなだめている……あれ? 華憐さんは第3クール登場のヒロインで、まだ投稿していないはずだけど……。
わたしは恐る恐る、ことりさんに聞きました。
「あのー、ことりさん?」
「はい。何でしょう?」
「なぜまだ投稿していない華憐さんまで? いったいどんな基準でこのギャラリーを選んでいるんですか?」
わたしの問いに、ことりさんはにまぁっと笑って答えました。
「それはもちろん、先生が書き上げているところまでの中で、個人的にお呼びしたら面白くなりそうだなぁって思ったお方にお声をかけています。
他には、『無常堂』の茜さんや……」
「わー! わー! ストップストップぅ! ネタバレは禁止です。わたし個人の創作姿勢に関するメタネタならともかく、キャラやストーリーはダメです!」
そうこう話しているうちに、雄瑠くんは怒れる柚乃ちゃんに連れられていったん退場したようです。
その様子を見ていた『無常堂』の瀬緒里さんが、ギャラリー席に座っている化野空さんを見つめて、ポッと頬を染めてつぶやきます。
「ああやって女子たちに囲まれている雄瑠さまを見ていると、我が背がいかに誠実で、私のことを思ってくださっているかが分かります。その点では、私は作者さんに感謝しておりますが、もっと甘い場面を増やしてはいただけないでしょうか?」
すると、空さんは静かに瀬緒里さんの側に寄り、何事かを耳打ちします。瀬緒里さんは、
「ま……そんな……え?……」
と耳まで真っ赤になりました。
きっと空さんは、わたしが事前に渡しておいたかなり先の台本のことを瀬緒里さんに耳打ちしたのでしょう。瀬緒里さんは真っ赤になってうつむき、小さな声で、
「……そ、それではその回を楽しみにしていますね?ありがとうございます」
そう言ってくれました。
そこで『デレ神』側を見ると、武葉さんが“むぅ……”という顔でわたしを見ています。
え、何? 武葉さんにも第3クールで甘い回を準備していて、その台本は渡しているはずなのに? と思っていると、武葉さんが言います。
「あの、私の雄瑠さんだって、ちょっと先天性思わせぶり好意が横滑りする女ったらし鈍感系主人公じゃありますが、ちゃんと誠実さはあります。そこはもっと書いていただけないと、化野様と比べられたら雄瑠さんがかわいそうです」
「それにさぁ、『神婚』の設定だけど、どうして『デレ神』と『無常堂』でちょっと違うのさ? どっちも『有無を言わさずお婿にして搾り取る』って設定にしとけばよかったのに」
これは椎葉さんの意見です。ってか椎葉さん、もう少し言い方を考えていただけないでしょうか? わたしは民俗学を本気で勉強されている方々を敵に回したくはないのですが。
武葉さんと椎葉さんはじっと私を見ている。いや、二人だけでなく、『デレ神』『無常堂』両サイドのキャラたちが、全員こちらを見てかたずを飲んでいる。
まあ、どちらも(あえて言えば『HAMMURABI』も)、この『神婚』って結構物語の骨格をなす部分だから、いわば
『私たち・僕たちはどんな意図で、どんな世界を生かされているのか?』
にわりと直結するんですよね。
だからこそ、答えは慎重にしなければ……。
わたしは軽く深呼吸して、
「神婚って、単に神同士が結婚する、とか、神と人が結婚するってことじゃなくて、そこに何らかの意味があるって考えていたんですよね。
例えば、神同士の結婚なら、それが自然現象に意味があるとか……」
そう言うと、今まで黙って料理をひたすら食べていたネフェル様が、
「うむ、わらわとオルクスがまさにそうじゃな。わらわは豊穣神、オルクスは雷神。
オルクスの春雷が春の芽吹きを促し、わらわの力が届きやすくなる。
どうじゃ、まさに似合いの夫婦と思わんか? 思うじゃろう?」
と、照れながら言われます。
わたしはうなずいて続けます。
「ネフェル様、ありがとうございました。
で、神と人との結婚ですが、わたしは根っこの部分を『心のつながり』って見たんですよね。伝承で伝わる神婚は、何かお供え物っぽくて。
ひょっとしたら、『人柱』みたいな『自然=神への畏れ』があるのかもしれませんが」
「……人間はそれでも自然の中で生きて行かなきゃいけませんものね」
「せやなぁ、切羽詰まった哀しさなんやろなぁ……」
『無常堂』の一条戻子さんと貴家鏡子ちゃんがしんみりと言います。
「「心のつながり……ですか……」」
瀬緒里さんと武葉さんが同時につぶやきます。そして二人は目を合わせて、どちらも照れたようにくすっと笑いました。
「確かに、私は空さまのおかげで神去ることなく、神力をこの身に受け入れることができました。私が神として成ったのも、最初の結縁で我が背から『瀬織川津媛』の名をつけていただいたからです」
瀬緒里さんが言うと、武葉さんも、
「私も雄瑠さんの優しさで消滅を免れました。その真っ直ぐな心に惹かれたのです。
確かに、私たち二柱とも、相手のお方に心を許してつながりを求めていますね」
そう言ってうなずく。
わたしはそれを受けて、私の想いを語りました。
「そうですよね? だからわたしは、『相手の気持ちを置き去りにした神婚』や『相手の選択を無視した神婚』ではなくて、『ちゃんとお互いに理解する神婚』を書いてみたかったんです。
で、『デレ神』では武葉さんに武葉さんなりの幸せを求めてもらうことで、地に足がついた幸せの形を描きたかったし、
逆に『無常堂』では、神としての在り方の中で、千数百年を超える縁があるか……あってほしいな、から始まってるんですよ。
だから、『デレ神』と『無常堂』では神婚のルールを少し変えています。見方ではなくルールをね?」
みんながわたしの言葉を聞いて、深くうなずいていると、突然会場のドアが開いて拍手が聞こえました。
わたしが振り返ってみると、黒いマントに身を包んだ、白髪で鋭い灼眼を持つ男性が入って来ました。なんかすごい威圧を感じる人物でした。
「どちら様ですか? 招待状はお持ちじゃないですよね? 警備の者がいたはずですが?」
ことりさんが震えながらも気丈に言うと、その人物はニヤリと笑って言います。
「……あの程度の警備、私にとってはないに等しい。それより……」
その人物はゆっくりと視線を巡らし、ある人物に視線を留めて微笑みました。
「ネフェル、迎えに来たぞ」
それを聞いて、ネフェル様はサッと立ち上がり、まるで長い間ご主人に会っていなかった猫のように、その男性の許にすっ飛んで行きました。
「オルクス、迎えに来てくれて嬉しいぞ♡ わらわ、寂しかったぞ。ほれ、もっとわらわのあごの下をなでんか」
ネフェル様はオルクス様に抱き着いて、一生懸命に甘えます。
オルクス様も、そんなネフェル様を慈しみの目で見つめ、優しくあごの下をなでています。そう言えば、設定的にネフェル様の眷属は猫でした。
わたしたちが二人の世界を温かく見守っていると、みんなの視線にやっと気が付いたネフェル様は、顏を赤くしてパッとオルクス様から離れ、
「……お、おほん。オルクス、大儀じゃの。わらわが居なくて寂しかったじゃろう? の? 寂しかったと言わんか」
そう言うと、オルクス様は苦笑しながら、
「ふむ、確かに。騒がしくも可愛らしいわが姫がいないと、異界の風景も寂れて見える。
ではネフェル、一緒に帰ってくれるか?」
そう言います。
ネフェル様はことのほかご機嫌麗しく、そっとオルクス様に寄り添うと、
「うむ、帰ったらわらわに甘えても苦しゅうないぞ」
そう言って笑います。
オルクス様はわたしたちを振り返り、
「妻バステトが世話になったな。先に連れ帰るが、悪く思わないでくれ。
それと作者よ……」
「は、はいぃ!」
急にわたしをピンポイントで見て、鋭い目で、でも静かに言いました。
「そなたの考えには首肯する。だが力量いまだしといったところだな。
もっと真剣に物語に向き合うといい。さすれば……」
そこで言葉を切り、虚空から巨大な鎌……物語の中では“ヴェリタスの鎌”と呼ばれたものを取り出しました。
(やばい、あんなので斬られたら、たとえ夢の中でも死ぬほど痛いよぅ)
そう考えて身を竦ませた時、
「……我が作品のように、“智慧の調和”にたどり着けるだろう」
そう言いながら、ヴェリタスの鎌を振り抜きました。
★ ★ ★ ★ ★
「ひゃっ!?」
私はびっくりして飛び起きます。心臓は早鐘を打ったようにどくんどくんと鼓動をうち、汗が寝間着をじっとりと濡らしていました。
ふと気が付いて時計を見ると、まだ午前4時です。
「……でも、なんかもう寝る気がしないなぁ。起きて続きでも書くかなぁ」
そう言いながらベッドから起き上がったら、机の上に鴉の風切り羽が載っており、一枚のメモがパソコンにはさんでありました。
「何かな?」
わたしは起き上がってそのメモを見ます。そしてにこりと笑いました。
そこには、こう書いてあったのです。
『親愛なる安堂登呂和先生へ
このたびはご出席、ありがとうございました。
みんな楽しい時間を送れましたことを感謝申し上げます。
またいつか、このような会を執り行いますので、
その際はぜひまたご参加ください。
末筆ながら、先生の変わらぬご活躍をご祈念申し上げます。
岩城ことり
ネフェル・バステト
瀬織川津媛(化野瀬緒里)
志鳥武葉、志鳥椎葉
ほか先生の作品への出演者一同』
それを読んで、わたしは少し誇らしくなりました。と同時に、キャラに負けないよう素敵な作品を書き続けていきたいと思ったのです。
鳥の声が聞こえます。外は少し明るくなってきました。私は窓を開け、朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで思います。
(キャラに詰められるのは悪夢には違いないが、でも心は温かいもので満ちている。今日もいい一日になるだろうなぁ……。)
(真夏の夜の悪夢 おわり)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
一度やってみたかったものが書けて作者的には満足です。
今後、ちょっと先行きに迷ったら、
・主人公対談
・ヒロイン対談
・サブキャラ対談
なんかも書いてみようかなと。
で、ちょっとメタな裏話的なものもお伝えできればなと思っています。
では、またいつか!




