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異世界魔法王国の恋と愛たち

ふたつの魔法しか使えない魔女は、大好きな王子の 隣国王女との婚約を応援した

掲載日:2026/06/04

 



 魔法(まほう)王国ティバールル



 ティバールルの ゼイン第一王子はとても評判(ひょうばん)が悪い。


 顔立(かおだ)ちは良いのに 表情が険(けわ)しく眉間(みけん)にシワを寄(よ)せて、非常(ひじょう)に無口(むくち)だ。

 背が高く肩幅(かたはば)もがっしりしていたので、周りはすっかり怖がっていた。

 そのせいで縁談話(えんだんばなし)も全(まった)く上手(うま)くいかない。



 そこで1人の魔法使(まほうつか)いが呼(よ)び出された。

 伝説(でんせつ)の魔女エルセレス──の ひ(・)孫(・)のエレンだった。

 実は来るように命(めい)じたられたのはエルセレスだが、108歳の彼女はギックリ腰(こし)をおこしていた。

 そこで代(か)わりに 18歳のエレンがお城へと出向いた。



 しかし エレンはたった2つの魔法しか使えなかった。






 城での豪奢(ごうしゃ)で煌(きら)びやかな部屋(へや)がエレンには与(あた)えられた。

 口をポカンと開けたまま天井(てんじょう)の装飾(そうしょく)を見回(みまわ)していると、ノックの音がしたので


「はい」


 と答えてやっと口を閉じた。

 入って来たのは──なんとゼイン王子だった。

 エレンは慌(あわ)ててひざまずく。彼は"かまわない"と手振(てぶ)りで示(しめ)し 話しだした。


「…………助けてほしい。大陸一(たいりくいち)の美女と言われているカトリーナ王女との縁談(えんだん)の話が出ているが、このままでは……絶対上手(ぜったいうま)くいかない」


 彼が話しだした時点(じてん)でエレンは驚(おどろ)いた。

 声が、声が──物凄(ものすご)くちっちゃかったのだ!!


「あのう……何故(なぜ)そんなに声をひそめてらっしゃるのですか?」


 するとゼインは目をそらし顔(かお)がどんどん赤く染(そ)まった。

 そして彼はさらに小さな声で言った。


「私は…………は、は、は、恥(は)ずかしいんだ。……物凄く」




(────恥ずかしがり屋さん!!!!)




 エレンの口は再び開いていた。








 翌朝──

 エレンは頭を悩(なや)ませていたが、とにかくやるしかなかった。自分は2つの魔法しか使えない。それでゼイン王子の重度過(じゅうどす)ぎる恥ずかしいがり屋っぷりを治(なお)さなければ。


 エレンは使える一つ目の魔法、子供の姿(すがた)になる魔法をゼインにかけた。

 途端(とたん)に彼は身体(からだ)が小さく幼(おさな)くなり、瞳(ひとみ)のくりっとした金髪(きんぱつ)の可愛(かわい)い少年になったのだ。

 護衛(ごえい)達にも隠(かく)れて ついてきてもらうよう話はしてある。

 子供の頃の姿に戻り、戸惑(とまど)っているゼインにエレンは力強く言った。


「王子! さあ、遊びに行きましょう!!」






 市民層(しみんそう)の子供服を着(き)て、ゼインはエレンと城下町(じょうかまち)に繰(く)り出した。

 子供の姿になると心も子供に戻(もど)るのだろうか──

 最初はオドオドとしていたが、お忍(しの)びで何かをしたこともなかったからか、露店(ろてん)や出店(でみせ)、道端(みちばた)の大道芸(だいどうげい)を彼は徐々(じょじょ)に楽しんだ。

 気付(きづ)けばエレンとは普通の声量(せいりょう)で話していた。1回目の成果(せいか)としては素晴(すば)らしいものだった。






 外出の2回目には 町にサーカスが来ていた。

 象(ぞう)がとても大きくてゼインは興奮(こうふん)した。エレンの手を取って走り出して


「見てエレン! あんなに大きな生き物がいるんだな!」


 と大声を上げていた。

 後になってからゼインは思いだして赤面(せきめん)した。──あれでは本当にただの子供だ。

 だけどエレンは……彼女はニッコリと微笑(ほほえ)んでくれた。






 3回目の外出では城下町商店の特売日(とくばいび)だった。さまざまな商品がクジやゲームで半額(はんがく)や無料(むりょう)になる。大人は助かるし、子供はそのクジやゲームそのものを楽しむ。

 子供のゼインも嬉々(きき)として輪投(わな)げや的当(まとあ)てをした。彼はとても上手(じょうず)だった。


「やった!!」「とれたよエレン!!」


 と沢山(たくさん)大声を上げた。

 半額の真鍮(しんちゅう)のブローチや飴菓子(あめがし)をタダでもらって、2人はハイタッチをして心から喜んだ。






 その夜、大人の姿のゼインはエレンの部屋を訪(おとず)れた。彼はブルーダイヤモンドのブローチを持(も)ってきて、エレンに差(さ)し出した。


「半額の真鍮(しんちゅう)のブローチでは……君に申(もう)し訳(わけ)なくて。最近は城内(じょうない)でも人付き合いが楽(らく)になってきて、とても感謝(かんしゃ)している。だから……」


 エレンは静かに首を振(ふ)った。ウェブがかった長い髪が左右(さゆう)に揺(ゆ)れる。


「報酬(ほうしゅう)はもう頂いているんです。真鍮(しんちゅう)のブローチで私は充分(じゅうぶん)ですよ。

 ブルーダイヤモンドは凄く高価(こうか)です。──カトリーナ王女にプレゼントなさったらどうでしょう?」


「そうだな……確(たし)かに」


 ゼインはそこで、無性(むしょう)に説明(せつめい)したくなった──何故(なぜ)か。


「カトリーナ王女のマラドス王国とは……いつも国境(こっきょう)をまたぐソレド鉱山(こうざん)を巡(めぐ)って争(あらそ)いが起(お)きている。だから……国にとっても重要(じゅうよう)な縁談なんだ。カトリーナ王女が美しいからって結婚したいんじゃない」


 エレンは黙(だま)ってうなずいた。

 彼女はただその手に真鍮(しんちゅう)のブローチを握(にぎ)っていた。







 4回目の外出は音楽祭だった。いつもの城下町を離(はな)れて、マハ市の音楽ホールで芸術楽団(げいじゅつがくだん)の演奏(えんそう)を聴(き)いた。

 野外(やがい)ステージもあり発表が行(おこな)われている。プロではなくて 歌や演奏が好きな市民達が参加(さんか)しているようだ。


「実は 本日はこちらがメインなんです。王子」


 エレンのもじもじとした言い方にゼインはハッとした。


「まさか 聞くんじゃなくて……」


「はい! 今日は国歌を歌いましょう!!」


 エレンがハッキリと言った。ゼインは


「無理(むり)無理無理無理無理!! それは無理!!」


 と叫(さけ)んだ。だがエレンは


「大丈夫です! 私が一緒(いっしょ)に歌います!」


 と譲(ゆず)らない。ゼインはついにステージに上がることになった。仕方(しかた)なく歌いだす。

 驚いたことにエレンはとても歌が上手(うま)かった。ゼインも子供の身体のおかげか高音も出しやすくて、2人の歌声は綺麗(きれい)なハーモニーとなり 沢山の拍手(はくしゅ)を受けた。




 帰りの馬車(ばしゃ)の中、ゼインはエレンに聞いた。


「歌が上手いんだね。びっくりした。どこかで歌っているの?」


「いいえ。歌うのは森の中だし聞くのは動物や精霊(せいれい)達だけです。私は……魔女ですから」


 ゼインは彼女の寂(さみ)しげな微笑(ほほえ)みを──見つめた。

 そのあとも2人は とりとめのない話をした。






 5回目の外出をする頃には、城下町でも子供のゼインとエレンはかなり顔見知(かおみし)りが出来(でき)てきていた。あちこちから話しかけられるが、彼はそれにも笑顔(えがお)で対応(たいおう)できた。

 だが生地屋(きじや)の女主人は意地(いじ)が悪かった。


「坊(ぼ)ちゃんはきっと高貴(こうき)な血が入っているんですね。美しい金髪で白い肌、鮮(あざ)やかな色が似合(にあ)いますよ。後ろのお付きの方は──」


 中年女(ちゅうねんおんな)はチラリとエレンを見た。


「黒髪(くろかみ)に真っ黒ローブで陰気(いんき)な魔女みたい。お若いのに可哀想(かわいそう)」


 エレンは赤くなってうつむいた。私は魔女だから──その通り……


「魔女でもエレンは可愛い魔女だ!! 何を着ていても笑顔は1番輝(かがや)いてる! 身につけているものだけで人を判断(はんだん)するな!」


 子供のものでも凛(りん)とした──号令(ごうれい)のような声だった。何人かは振(ふ)り向(む)いた。向かいの花屋からは老婆(ろうば)が


「そうそう! 着ているものは関係(かんけい)ありませんよ! 花はそのものが それぞれに美しいものです!!」


 と声をかけた。ゼインは生地屋をにらみつけてから、エレンの手を引いて花屋に行き


「これで買えるだけの花を」


 と持っていた金貨(きんか)を全て出した。老婆はニコニコして大輪(たいりん)の花のブーケを作ってくれた。

 ゼインはそれをエレンに渡(わた)し


「ほら、誰よりも華(はな)やかだ」


 と足早(あしばや)に前を歩き出した。──多分(たぶん)顔は赤い。

 彩(いろど)り鮮やかな花束(はなたば)を抱(かか)えて、エレンは笑顔で彼について行った。







 その夜は近隣諸国(きんりんしょこく)との晩餐会(ばんさんかい)だった。

 マドラス王国のカトリーナ王女も来ていて、その美しさは誰からも絶賛(ぜっさん)されていた。彼女そのものがまさしくその宴(うたげ)の花だった。


 エレンは端(はし)の方で食事をしたり座って楽団(がくだん)の演奏(えんそう)はきいたが、ゲームやダンスには参加(さんか)をしない。

 自分と近い年の女の子達が色鮮やかなドレスをまとって男性達と踊(おど)る姿は別世界の……憧(あこが)れだった。

 その別世界の中で、ゼイン王子はちゃんとカトリーナ王女とダンスをしていた。もう怖(こわ)い表情(ひょうじょう)をしなくなり、優しく話をする彼は評判(ひょうばん)が良くなっていた。


 カトリーナ王女と弟のライル第二王子と楽しく会話(かいわ)する彼の笑顔を見て、その夜──エレンは"自分は役割(やくわり)を終(お)えた"と感じた。






 自室(じしつ)に下がると中央のテーブルには、あのブルーダイヤモンドが箱(はこ)に入って置(お)いてあった。

 エレンは夜遅(よるおそ)くに その箱を持ってゼインの部屋に向かっていた。

 王子の部屋の前には護衛兵(ごえいへい)がいた。

 何をしに来たかを 素直(すなお)にエレンは話した。

 すると彼らは エレンを通してくれた。






 ゼインの部屋のドアをノックしたが返事は無い。エレンは静かに入って、彼の部屋のテーブルにブルーダイヤモンドの箱を置いた。

 奥の部屋には天蓋(てんがい)のベッドがあって、ゼインはそこで もう寝入(ねい)っている。



 エレンは、この2ヶ月で大好きになってしまった人の寝顔(ねがお)をしばらく見つめた。

 2人であちこちに出かけた思い出や、城内で沢山話したことが思い出された。

 とても大好きな人──けれどもその人には すでに結婚しようとしている美女がいて、それは国のためにもなること。




 エレンの魔法は ふたつだけ。

 子供の姿に戻す魔法と それを解く魔法。

 



 でも ただ彼のために祈(いの)った。──心を込(こ)めて。



 どうか この人の想いが叶(かな)い 幸せになりますように

 彼の王国に 平和と繁栄(はんえい)が訪れますように




 そうして エレンは最愛(さいあい)の人の額(ひたい)に 別れのキスをした。









 ゼインは翌朝、エレンがいなくなったことを知った。


 テーブルの上のブルーダイヤモンドを、彼女は最後まで受け取らなかったのだと思った。



 ──それから気づいた。

 エレンは半額の真鍮のブローチと、大輪の花束は持って行ったのだ────と。









 大輪の花達は花瓶(かびん)にいけられ、日が経(た)っても伝説の魔女エルセレスの魔法で活(い)き活(い)きとしている。だがその魔女はひどく機嫌(きげん)が悪かった。


「全(まった)く! ティバールルの王子達ときたら とんだ節穴(ふしあな)だよ。誰も私の ひ孫の素晴らしさに気付けないとは、王国も終わりだね」


 大祖母の大袈裟(おおげさ)な言い方にエレンは笑った。


「私は地味(じみ)な黒い魔女だし、魔法も2つしか使えないのに? ──それも かける魔法と解(と)く魔法だから、実は ひとつの魔法しか使えてないわ」


 エルセレスはそのシワだらけの顔で真剣(しんけん)に言った。


「お前は強い魔力(まりょく)があるよ。使える魔法は少なくても百発百中だろう? そういう魔女は大成(たいせい)するのさ。

 あと 間違(まちが)いなく美人だ! 私の若い頃にそっくりだからね」


 大祖母の話は真面目(まじめ)には聞いていられないと、エレンはバスケットを持って外に出た。丘の下に薬草(やくそう)を摘(つ)みに行くのだ。

 天気は快晴(かいせい)で 気持ちの良い青空が広がっていた。








 エレンは南側から来て、森を出て草原の なだらかな傾斜(けいしゃ)を降(お)りた。白、黄色、赤、薄紫と、さまざまな花達が風に揺れている。


 突然 反対側の北側の丘の上に、騎乗(きじょう)した兵士が1人2人と見えたので、エレンはびっくりした。

 だが3人目は──今でもよく思い描(えが)いているゼイン王子だった。

 彼はエレンを見つけるとすぐさま馬から降りて、丘の下に向かって大きな声で話してきた。


「エレン! 君にとっては子供の私は良くて──大人の私は駄目(だめ)なのか!?」


 エレンは何が始まったのかと少し驚いた。

 だけれど空は澄(す)み渡(わた)り草花は風に波打(なみう)ち、彼はそこにいる。

 ……何故(なぜ)か、何故だかもう……素直(すなお)になろうと思った。


「ええ! 大人のあなたは駄目だと思いました。あなたは……婚約者(こんやくしゃ)がいたから!」


「婚約者なんかいない! 話をしたらカトリーナ王女には想い人がいたんだ! それでマドラス国王達が、縁談の思わせぶりをして悪かったから、ソレド鉱山を我が国に譲(ゆず)ると──変わりになんとか王女に好きな人と結婚させてやってくれと頼(たの)んできた!」


 そんなことが起こっていたとは全く知らなかった。エレンは瞳(め)を丸くした。


「だがエレン! ソレド鉱山のことが無くても、私(・)も(・)カトリーナ王女と結婚する気は無かった! もう無かったんだ!!」


 彼は ひときわ声を張(は)り上げた。


「だからあの夜──カトリーナ王女から話を聞く前には、弟のライルを紹介していた! あ(・)い(・)つ(・)が(・)王女と結婚してくれたらと期待(きたい)したから!!」


 丘を見上げていたエレンの口は 少し開いた。


「父と母にも話して来た! 2人共伝(・)説(・)の(・)魔(・)女(・)の(・)末(・)裔(・)な(・)ら(・)王国の益(えき)にもなるだろうと王妃(おうひ)に迎(むか)えても良いと承諾(しょうだく)してくれた!!

 なんだか私にもよく分からないが、まるで魔法がかかったみたいに全(すべ)てはうまくいったんだ!!」


 一体(いったい)誰がこんな素敵な魔法をかけてくれたんだろう……とエレンはとても不思議(ふしぎ)だった。


「あとは君だ!! 君は森から出て、生涯(しょうがい)私(・)だ(・)け(・)の(・)魔女になる気はあるのか!?」


 この問いかけに、エレンは微笑んだ。


「あなたが私を連れて行ってくれるなら!!! ──でもゼイン王子!」


「なんだ!?」


「私達なんで こんなに離(はな)れて大声で話しているのかしら!?」


「多分6回目の外出だからだ!! ホラ、私は偉大(いだい)な可愛い魔女のおかげで こんなに大きく話せる!!!!」



 2人は笑い出した。



 そして──ゼインは駆(か)け出した。



 エレンもバスケットを落として草を蹴(け)って走り出す。



 色とりどりの花々は風に煽(あお)られ、その花びらは2人の周(まわ)りに舞(ま)った。








 大好きな人の その腕の中に エレンは飛(と)び込(こ)んだ──











使える2つの魔法、勿論ひとつは"子供に戻す魔法"。ではもうひとつは…………ʕ^ᴥ^ʔ

気づかれても気づかれなくてもハッピーエンドですが、結構未来まで大ハッピーエンドにしたつもりの作品です。


うっ……気づいたら『ふたつどころじゃないじゃん!!』と、言われてしまう?Σʕ◉ᴥ◉ʔ

いや〜 そこはもうすみません。実はやはり偉大ということで……むにゃむにゃ


お読み頂きまして誠にありがとうございましたm(_ _)m


評価や感想を頂けましたら、とても嬉しいです。



                  シロクマシロウ子


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― 新着の感想 ―
なんて素敵なお話! エレンの魔法、本当に素晴らしい! 子供に戻れるのも心から愛する人のために祈れるのも。 もう少しで泣いちゃいそうでした。 そしてさすが伝説の魔女!お孫さんの良さをしっかりわかっていら…
シロクマシロウ子様の話に引き込まれ、ツヤツヤの黒髪&黒檀の瞳を持った、ちょっと幼さの残る可愛い女の子を思い描いて読んでおりました。 そんな子が、「私達なんで こんなに離はなれて大声で話しているのかしら…
 何処までを意図していたかは分かりませんが、大人と子供の差にも知る恥を治し消し去る事自体が大人の皮を剥ぎ取る事と気付けば、物語の主体ともなる魔法の意義が深まり、想いを叶えるのみならず、のちにエルセレス…
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