病弱な妹を優先する婚約者の、病弱な妹に転生しました
リリアは生まれた時から普通よりも小さく、人よりも病弱な子どもだった。
屋敷を一周歩くだけで微熱を出すほど、身体が弱かった。
けれど外への憧れを捨て切れず、いつも窓の外を見ていた。
そんな病弱なリリアを、家族はことさら大事にした。
医者を雇って常に健康を管理し、庭師に部屋から見える綺麗な花壇を作らせた。
仕事で忙しい父と母は、仕事の合間を縫ってリリアに会いにきていた。
家族の中で特にリリアを可愛がって溺愛していたのは、年の離れた兄キースだった。
キースは、満足に外に出られないリリアのために、外の様子を話して聞かせた。
そして頻繁に珍しいものを、お土産に買ってきてくれていた。
誰よりも何よりもリリアを優先するキースのことが、リリアも大好きだった。
何かあれば、一番にキースを頼るほどの信頼を寄せていた。
ある時、キースが話して聞かせた学園の様子に興奮したリリアが、いつもより高い熱を出して寝込んでしまった。
キースは責任を感じて、ずっとリリアに付き添っていた。
婚約者との予定を忘れて。
やっと熱が下がったリリアは、一人で頭を抱えていた。
とある記憶を、思い出してしまったからだ。
それは前世と呼ばれるもので、リリアは転生したのだと理解した。
……が、そんなのは、どうでもよかった。
リリアにとって重要なのは、今のこの状況だった。
前世の知識にあった。
病弱な妹を優先する婚約者に、婚約破棄を突きつける女主人公の物語が。
その後、婚約者の大切さに気がついた男性が女主人公に縋り付くが、そんな過去など知らないとばかりに新しい婚約者をゲットする女主人公。
ふと、思った。
今がその場面ではないか、と。
リリアは今までの生活と、キースのことを思い出していた。
突然予定をキャンセルされた婚約者が抗議の手紙を送ってきたのに対し、キースは確かこう言っていた。
「病弱な妹を優先するのは、当たり前だろう。そんなこともわからないなんて」と。
リリアは焦った。
非常に、焦っていた。
このままでは、キースが捨てられる。
そうしてリリアは、決意した。
キースを殴ってでも、婚約者に謝らせようと。
リリアは、婚約者のサティナに先触れを出した。
返ってきた手紙には、3日後なら会える旨が記されていた。
3日後、リリアは微熱で半分理性を吹っ飛ばしながら、渋るキースを連れて、手土産を持ってサティナの屋敷を訪問した。
初めて挨拶するサティナは、大変美しく礼儀正しい方だった。
噂では、学園での成績も優秀らしい。
リリアは応接室に案内されるや否や、キースに膝蹴りをした。
キースの頭の位置が高かったからだ。
そして低くなったキースの頭を上から押さえつけ、自らも深く頭を下げた。
「私の不徳の致すところ、馬鹿兄がサティナ様を侮辱し続けたこと、たいっへん、申し訳ございませんでした!!」
「うぐっ!」
キースの呻き声なんざ、知ったことではない。
「…………えっと……?」
戸惑いの声を上げるサティナ。
リリアは許しがいただけるまで、いつまでもこの体勢でいることを決めていた。
「……ひとまず、頭を上げてください。座って話をしましょう。」
「はい!」
リリアは元気よく返事をすると、ソファに腰掛けた。
隣に座ろうとするキースに制さ……教育的指導を行い、床に正座で座らせた。
床には絨毯が敷いているので、何の問題もない。
「あの……?」
サティナが困惑した顔で、キースとリリアを見比べている。
リリアはキースを放置して、サティナと話をすることを優先した。
「馬鹿兄が、事あるごとに、サティナ様との予定を突然取り止めしていることに関して、本当に申し訳ありません。馬鹿兄には教育的指導をしますので、どうか捨てないでください!」
捨てられたら、結婚相手がいなくなってしまう。
それは、絶対に防がなくては。
「お兄様、身体の弱い私を心配してくれるのはありがたいですが、婚約者は未来の家族。その方を蔑ろにするなど、言語道断ですわ!反省してくださいまし!!」
「う……す、すみません。」
リリアに謝ってどうするのか。
サティナに謝れと言ってやりたい。
「……正直、このまま婚約者継続はどうかと思っていましたの。」
リリアは、当然だと思った。
サティナには、その権利がある。
「ですが、こうして謝罪に来てくださいましたし、もうしばらく様子を見ることにします。」
「本当ですか!?ありがとうございっ……ゴフッ……」
「ちょっ……リリア様!?」
「リリア!?」
リリアの口から飛び出したのは、感謝の言葉と血だった。
リリアは思った。
この身体、そう言えばかなり弱かったなと。
意識の端でそんなことを考えながら、リリアは意識を手放した。
すぐに医者が呼ばれ、治療を行った。
早い対応のおかげで、リリアは1時間ほどで目を覚ました。
「ご迷惑を……」
「お気になさらず。リリア様がこれほど病弱だとは、私も思ってもいませんでしたわ。リリア様のせいではございません、色々と。」
「ありがとうございます。」
サティナの、その凜とした凄みのある笑顔を見て、リリアは胸を高鳴らせた。
頬を高揚させたリリアは、サティナの手を握るとこう言った。
「お姉様とお呼びさせてくださいまし!」
「え?えぇ、構いませんが……」
「お姉様、ぜひ屋敷に遊びに来てくださいませ。お兄様がおらずとも、私とお話ししましょう!私、こんな身体なので、お友達がいないんですの!」
戸惑うサティナをよそに、リリアは自分の気持ちをグイグイと押し込む。
「私でよければ、ぜひ。」
「ありがとうございます!」
リリアはサティナの屋敷で少し休ませてもらった後、キースと一緒に帰って行った。
サティナは約束通り、定期的にリリアに会いに行った。
2人の仲はキースよりも良くなり、本当の姉妹のようであった。
そんな将来の義理の姉妹の交流には、居心地が悪そうにキースが同席していたのだった。




