表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嘘の世界1

扉は数えられている

作者: ハル
掲載日:2026/02/15

村には、扉が一つだけあった。


それは家にも倉にもつながっていなかった。

立てかけられているだけで、向こう側は見えない。


押しても引いても動かない。

ただ、閉じている。


村の人は、その扉の前を通るとき、少しだけ歩く速さを落とした。

理由はない。

落とさない人もいたし、毎回立ち止まる人もいた。



扉には鍵がない。

取っ手もなかった。

開け方が存在しないことだけは、誰にでも分かった。


ある日、不安そうな顔の人が集まった。

雨が続き、作物が育たず、眠れない夜が増えていた。


誰かが扉を指して言う。

「あれが閉じているから、大丈夫なんだ」


別の誰かは言った。

「何が閉じ込められているんだ」


誰も答えなかった。



それから村では、困ったことがあると扉の前に行くようになった。


泣く人もいたし、何も言わずに座る人もいる。

扉は何もしなかった。

音も、揺れも、変化もない。


それでも、人は帰るとき、少しだけ息が深くなった。


ある夜、扉の前で眠ってしまった女がいた。

朝になっても、扉は閉じたままだ。

女は起きて、首をかしげ、それから家に帰った。


その日から、女は扉の話をしなくなった。



数日後、子どもが扉の裏に回り込もうとした。


だが、裏側はなかった。

どこまで歩いても、正面しかない。


子どもは怖くなって、走って戻った。


大人たちはそれを聞いて、安心したような顔をした。


しばらくして、扉の前に来る人は減った。

雨は止み、眠れる夜が戻った。

不安は消えたわけではなかったが、数が減った。


扉は相変わらず、そこにある。



ある日、誰かが言う。

「もし開いたらどうする」


別の誰かが言った。

「開かないからいい」


その会話は、それきり続かなかった。


今も村には扉がある。

閉じている。

何も守っていないかもしれない。

何も閉じ込めていないかもしれない。


それでも、通り過ぎるとき、胸の奥が少しだけ静かになる人がいる。

なぜかは、誰も確かめていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ