拍動
眠い。
その一言が今の自分の全てだと思った。
「なぁ、お前最近寝すぎじゃね?」
そう言って茶化す友人の声が、
「おい! 授業に寝るな! 後で職員室来い!」
なんて怒鳴る担任の声が、
「......ちょっと、学校はどうしたの。今日も寝坊? いい加減にしなさい!」
そんなふうに叱る母の声が。
全部全部、頭に響いてどうしよう。
上手く眠れなくなったのは、まだ寒くなる前だったように思う。布団に入っても目が冴えてしまって、ようやく寝れたと思っても一時間後には意識は浮上した。
「......はぁ」
病院に足を運ぶほど酷いものではないと判断して、三連休があったのに家から出なかった自分を責めた。まあ、単純に面倒臭いというのもあったのだけど。
「明日も学校か......いやもう今日か」
二十三時には布団へ潜り込んだのに枕元の時計はとっくに十二の数字を超えていて、またため息をつくしかなかった。
眠れない原因は分かっていた。きっと、行き場のない焦燥と不安に呑み込まれこちらに訴えかける、無駄に速度を上げた拍動のせいなのだ。寝よう、寝よう、と思っても、枕に押し付けた耳の奥でどくどく、ばくばくとうるさく鳴り響くそれは、たしかにこちらを苛立たせる。
「......もう、寝なくていいか」
誰に言うでもなくポツリと呟けば、どこか心が軽くなった。夜に眠れず授業中に眠気が襲ってくるのは本当にやめて欲しいところだが、眠れないものは仕方ない。
「病院、行くか? いやでも......」
躊躇うのにも理由があった。
何を隠そう、僕は薬が大嫌いなのだ。これは完全に想像の話だが、病院に行ったところで
薬を出されるだけで、それでも治らなければまた地獄が追加されるに違いない。そんなわんこそばみたいなシステム、僕が耐えられるはずがなかった。
「うう......諦めて薬飲むしかないのか......?」
昨日より僅かに酷くなった隈のついた目元でそんな絶望に浸っていればだんだんと瞬きの間隔が早くなっていくのを感じた。
あ、寝れそう。
ふあ、なんて気の抜けた欠伸を残して思考が溶けていく。
ほぼ気絶なんだよな、と意識の片隅でいつかの自分が悪態をついていた。




