実戦演習ー後編ー
川から這い上がって、どれくらい時間が経ったのか。
森の匂いが濃い。
水気を含んだ土が冷たく、服が肌に張りつく。
夏である事が、不幸中の幸いであった。
上を見上げれば、崖。
下を見れば、川はまだ速い。
ここは演習フィールドの“外側”だ。
そう直感できるくらい、整備の気配が薄かった。
⸻
「……通信、まだ……?」
セリナが、手首の装置を睨むように見た。
レインは、同じ装置に視線を落としてから、静かに首を振る。
「うん。反応、ないね」
音も鳴らない。
雑音すら入らない。
セリナは口元を歪めた。
「笑えないわね……」
強がりの声。
でも、指先が小さく震えている。
⸻
レインは、自分の上着の裾を絞った。
水が落ちる音がやけに大きい。
「ねえ、セリナ」
できるだけ優しい声を選ぶ。
「たぶん今、先生たちは捜索してると思うよ」
「でも……私たち、流されてきた距離が長い」
セリナが眉をひそめる。
「つまり?」
「先生たちの想定する私たちの移動範囲は、崖の上でしょ」
「探すなら、まずあそこを中心にするはず」
レインは、崖の方向を指さした。
「でも私たちは、ここ」
「川は、まっすぐじゃないし……流され方によっては、かなり下流」
言葉にすると、現実が輪郭を持つ。
セリナは、舌打ちを飲み込むように息を吐いた。
「……つまり、すぐには見つからない可能性がある」
「うん」
レインは頷く。
「焦らないでいい、って意味じゃないよ」
「焦ると、判断が雑になるから」
セリナは一瞬だけ目を逸らして、
「……分かってる」
と、短く返した。
⸻
沈黙。
川の音。
葉が揺れる音。
遠くで鳥の声。
演習のざわめきは、もう聞こえない。
ここには、二人しかいない。
⸻
「……さっき」
セリナが、ぽつりと言った。
「なんで、私を助けたの」
刺すような言い方ではない。
疑うというより――確認だった。
レインは、少しだけ笑ってみせる。
「助けるでしょ」
「……私は、あなたに優しくなかった」
「そうかな」
「私は、セリナがちゃんと“ペアの責任”を果たしてくれてたって思ってるよ」
その言い方があまりに自然で、セリナは少しだけ唇を噛んだ。
「……嫌だったのよ」
「何が?」
「あなたが」
言ってから、セリナは自分でも驚いたように目を瞬く。
でも、もう止まらない。
「編入生で」
「普通科出身で」
「それなのに……最初から、みんなの空気を変えた」
言葉が、乾いた音で落ちていく。
「可愛いって言われて」
「優しいって言われて」
「自然に輪の中心に入って……」
セリナは、拳を握る。
「私は、そういうのが苦手なのに」
視線が下を向いた。
「努力しても、評価されるのは“結果”だけ」
「誰かに頼るのも、甘えに見える」
「笑ってごまかすのも、上手くできない」
そこでようやく、レインを見る。
「なのに、あなたは……最初から全部持ってるみたいに見えた」
⸻
レインは、否定しなかった。
肯定もしない。
ただ、聞く。
「……それで、私が嫌いになった?」
セリナは、少しだけ目を逸らす。
「嫌い、っていうより……怖かった」
「私の居場所が、崩れる気がした」
吐き出した後の声は、小さかった。
「馬鹿みたいでしょ」
「馬鹿じゃないよ」
レインは即答した。
「それって、“自分の場所を守りたかった”ってことだから」
「当たり前だよ」
セリナが、目を見開く。
その返しを、想像していなかった顔。
「……あなた、ほんとに優等生みたいなこと言うのね」
「そう見えるなら、そうなんだと思う」
レインは、少しだけ肩をすくめた。
柔らかい仕草。
でも、崩れない。
⸻
セリナは、しばらく黙ってから、ぽつりと言った。
「……私の家、地方の名家なの」
レインは驚かない。
ただ頷く。
「商いと土地で成り立ってる家」
「軍でもMEKでもない」
「だから、戦いとは無縁のはずだった」
「じゃあ、どうしてMEKを?」
レインが聞くと、セリナは一瞬だけ迷って――言った。
「家は……長男が継ぐの」
「それはもう、決まってる」
「私は、最初から“継がない側”」
声に棘が戻る。
「だからって、自由ってわけじゃない」
「家にとって都合のいい婚約とか」
「都合のいい役割とか」
「そういうのが、ずっと用意されてる」
そこで、セリナは鼻で笑った。
「私が何をしたいかなんて、誰も興味がないのよ」
レインは、ほんの少しだけ目を伏せた。
「……それで、ここに来たんだ」
「そう」
セリナは頷く。
「MEKは、実力主義」
「結果を出せば、立場ができる」
「“家の娘”じゃなくて、“私”として残れる。」
「英雄にだってなれる。」
言い切った後、セリナは小さく息を吐いた。
「……だから、絶対に弱く見られたくなかった」
「編入生のフォローなんて、私の役目じゃないって思った」
自分の汚い部分を、認めるみたいに。
「ごめん」
その一言は、驚くほど小さかった。
レインは首を振る。
「謝らなくていいよ」
「今、話してくれたでしょ」
「それが……嬉しい」
セリナが、わずかに眉を寄せる。
「……なんで?」
「なんで、って?」
「なんで、嬉しいのよ」
ツンとした口調。
でも、もう攻撃じゃない。
レインは、少しだけ考えてから言う。
「セリナが、私を“見て”くれたから」
「可愛いとか、編入生とかじゃなくて」
「ちゃんと、相手として」
セリナの喉が、小さく鳴った。
「……ずるい」
「え?」
「そういう言い方、ずるいって言ってるの」
頬が、ほんのり赤い。
気づかれないように顔を背ける。
⸻
しばらくして、セリナが現実に戻るように言った。
「……で」
「ここからどうするの」
「助けを待つ?」
レインは、周囲の地形を見た。
谷は深い。
上へ登る道は、崖に近い急斜面しかない。
そして――
上には、あいつがいる。
「待つだけだと、危ないかもしれない」
「なんで」
セリナが眉をひそめる。
レインは、言い方を選ぶ。
「中級外界種は、下級と違って縄張り意識が強いって聞いたよね」
「さっきの個体……私たちを“逃がした”とは思ってない」
川が障害になって、追ってこれなかっただけ。
なら――川沿いに回り込む、という判断もある。
「それに、演習区域に戻れなかったら、捜索の手掛かりが少ない」
「“ここにいる”って伝える術がないなら……動いた方が見つかりやすい」
セリナが唇を噛む。
「……でも、上に戻ったら、また中級に当たる」
「うん」
レインは頷いた。
「だから、再戦になる可能性が高い」
「でも、戦って倒す必要はないと思う」
「……じゃあ、どうするのよ」
レインは、セリナを見る。
真剣な目。
「私たちが帰るために必要なのは、“安全な道”と“目印”」
「先生たちが探す場所に、痕跡を残すこと」
一拍。
「上に戻って、崖の近くまで行ければ」
「捜索線と交差できる可能性が上がる」
セリナは、少し黙ってから言った。
「……要するに」
「中級に見つからないように、上へ戻る」
「もし見つかったら、時間を稼いで、逃げ切る」
「うん」
レインは柔らかく笑った。
「セリナなら、できるよ」
「判断、速いし」
セリナが、また顔を背ける。
「……褒めたって、何も出ないわよ」
でも、声の硬さは薄れていた。
「動ける?」
レインが聞く。
セリナは立ち上がって、足首を確かめた。
痛みはある。
でも折れてはいない。
「……大丈夫」
「よかった」
レインは、セリナの濡れた髪についた葉をそっと取ってやる。
セリナが固まる。
「……な、なにしてんの」
「ついてたから」
「……そういうの、普通にやるのね」
「普通だよ」
レインは、何でもないように言った。
その“普通”が、セリナには眩しい。
セリナは、短く息を吐いてから、言った。
「……レイン」
「……さっき」
セリナが、声を落とす。
「私、本気で死ぬと思った」
「うん」
「でも」
一拍。
「あなたが」
「“一緒に逃げよう”って言ったとき」
セリナは、少し照れたように言う。
「……なんでか、信じられた」
理由は、分からない。
でも、その言葉は真実だった。
セリナは、こちらを見る。
「私、まだ二流じゃない」
拳を握る。
「戦って勝てるかはわからない。」
「でもーー」
「逃げ切るだけの自分で終わりたくない」
「……うん」
レインは、柔らかく微笑む。
「それでいいと思う」
否定もしない。
煽りもしない。
「一人じゃ無理でも」
「二人なら、できることは増える」
⸻
夜明けの気配が、わずかに空を染め始める。
森が、目を覚ます時間。
「再戦するなら」
レインが、静かに言う。
「場所を選ぼう」
「さっきみたいな、正面衝突じゃない」
「地形を使って」
「“勝ち筋”を作る」
セリナは、その言葉を聞いて目を細めた。
「……やっぱり」
「あなた、只者じゃないわね」
「え?」
「いい意味で」
小さく笑う。
「編入生って聞いたときは」
「正直、足手まといだと思ってた」
「……ごめん」
「だから、謝らなくていいって」
セリナは、立ち上がる。
剣を握り直し深く息を吸う。
「行きましょ」
「夜が明けきる前に」
そして小さく付け足す。
「……足、引っ張らないでよ」
ツン。
でも、声はもう冷たくない。
「うん」
「私も、頑張るね」
レインは笑って、装備のベルトを締め直した。
そして――
二人は再び森の奥へと歩き出した。
———
夜明け前の森は、静かすぎるほど静かだった。
川に流された地点から、二人は時間をかけて上流へ戻っていた。
濡れた服は冷え、足取りは重い。
それでも――
止まるという選択肢はなかった。
⸻
「……この方向で合ってる」
セリナが、地形と痕跡を見ながら言う。
声は掠れているが、判断は冷静だ。
完全に消耗しているはずなのに、思考は止まっていない。
「外界種も……私たちを探してる」
「うん」
レインは、静かに頷いた。
魔気の流れが、そう告げている。
あの中級外界種は、まだこの森にいる。
そして――
こちらに向かってきている。
⸻
やがて。
足元の土が、わずかに揺れた。
空気が、重くなる。
「……来る」
セリナが、即座に構える。
木々の間から、影が現れた。
中級外界種。
昨日と同じ個体。
確実にこちらを覚えている。
逃がした獲物を、追ってきた目だ。
⸻
セリナは、レイピアを握り直す。
「……レイン」
「なに?」
「正直に言うわ」
一拍。
「私一人じゃ、まだ倒しきれない」
その言葉に、悔しさはある。
でも、逃げも誤魔化しもない。
ただの事実だ。
レインは、少しだけ間を置いてから答えた。
「私も」
優しい声。
「私の真気のレベルじゃ、決定打は出せない」
「だから――」
レインは、一歩後ろに下がる。
「私は、できる範囲で支えるね」
「十分よ。前に出ないで。」
セリナは短く頷き、細剣を構える。
足元――
循環歩。
呼吸と歩幅、重心が完全に噛み合う。
⸻
外界種が動いた。
一直線の突進。
セリナは逃げない。
「細剣式・一の型《穿線》」
最小限の踏み込み。
直線的な突き。
急所を狙うが、硬い外殻に弾かれる。
想定通り。
セリナは即座に体勢を崩し、横へ流れる。
外界種の爪が空を裂いた。
⸻
「二の型《返光》」
反転。
剣先が円を描き、関節部を浅く削る。
ダメージは薄い。
だが、外界種の動きが一瞬、乱れた。
――今。
レインは、ほんの“ささやき”程度に魔気を流す。
外界種の感覚が、僅かに鈍る。
セリナには、気づかせない。
⸻
外界種が怒り、咆哮。
地面を叩き、岩が跳ねる。
セリナは距離を取らず、踏み込んだ。
「三の型《断歩》」
循環歩を崩さず、歩幅だけを切り替える。
一瞬で間合いを詰め、連続突き。
――だが、決定打にはならない。
細剣が、悲鳴を上げる。
「……っ!」
衝撃で、セリナが後退。
膝が、わずかに沈む。
呼吸が乱れ始めていた。
⸻
(……ここ)
レインは、外界種の背後に“意識”を置く。
攻撃はしない。
ただ、追う方向を間違えさせる。
外界種の視線が、ほんの一瞬だけ逸れた。
⸻
「四の型《流転》!」
セリナが、それを逃さない。
身体を低く沈め、地を滑るように回り込む。
剣が、脇腹の隙間へ。
初めて、手応え。
だが――
「……!」
外界種の爪が、同時に振るわれた。
カウンター。
回避が、半拍遅れる。
衝撃。
セリナの身体が、宙を舞う。
⸻
「セリナ!」
レインが、叫ぶ。
――使えない。
大きな力は、使えない。
だから気配だけを、全力で押した。
外界種の追撃が、ほんの一瞬だけ遅れる。
⸻
地面に叩きつけられるセリナ。
血。
視界が、滲む。
(……だめ)
(意識が……)
⸻
――浮かぶ。
家。
広い屋敷。
決められた未来。
「お前は家を継ぐ必要はない」
だから――
“好きにしていい”と言われた。
それは期待されていない、という意味だった。
⸻
(……違う)
(私は、逃げたくてここに来たんじゃない)
(私は――)
脳裏に浮かぶ、隣で息を切らしている少女。
優しい声。
何も聞かず、信じてくれた目。
(……負けたくない)
(ここで終わるのは、嫌)
⸻
朝日が、森の隙間から差し込む。
温かい光。
その瞬間――
真気の巡りが、変わった。
世界が、静まる。
⸻
「……まだ、終わってない」
セリナが、立ち上がる。
足は震えている。
身体は、限界だ。
それでも――
芯が、揺れていない。
⸻
「五の型《昇華》」
細剣が、光を纏う。
循環歩が、完全に溶け合う。
迷いが、消える。
一歩。
ただ一歩。
外界種の懐へ。
剣先が、核を貫いた。
細剣が、朝日の中で静かに輝いた。
――突き。
深い。
今までとは、明らかに違う。
核を、捉えた。
———
中級外界種が、悲鳴を上げて崩れ落ちる。
魔気が、霧散する。
⸻
セリナは、その場に膝をついた。
肩で息をしながら、剣を握ったまま、しばらく動けなかった。
「……は……はぁ……」
指先が震えている。
全身が、痛い。
骨の奥まで、疲労が染み込んでいる。
それでも――
生きている。
⸻
「……やった、わね」
掠れた声。
顔を上げると、朝日が木々の隙間から差し込んでいた。
夜が、終わったのだ。
⸻
少し離れた場所で、レインが同じように座り込んでいる。
服は泥だらけ。
息も荒い。
「うん……本当に」
レインは、柔らかく笑った。
「セリナ、すごかったよ」
「……」
セリナは、しばらく黙っていた。
自分の体を、内側から確かめる。
さっきまでとは、明らかに違う。
真気の巡りが、滑らかだ。
無理に回していた感覚がない。
“繋がった”。
そう、直感的に分かる。
⸻
(……二流)
その言葉が、頭に浮かぶ。
ずっと、届かなかった場所。
才能があっても、越えられなかった壁。
それを――
今、越えた。
⸻
「……ねえ、レイン」
セリナは、剣を支えに立ち上がりながら言った。
「私……」
言いかけて、止める。
何を言えばいいのか、分からなかった。
感謝?
安堵?
それとも――謝罪?
⸻
レインは、先に言った。
「帰ろう」
それだけ。
無理に言葉を引き出そうとしない、優しい声音。
「……そうね」
セリナは、短く答えた。
でも、その声には、もう刺々しさはなかった。
⸻
二人は、肩を貸し合うほどではない距離で、歩き出す。
同じ方向へ。
同じ速さで。
2人が捜索隊に保護されたのは、その数時間後であった。
———
それから数日後。
演習の件は、「想定外の外界種出現と通信障害による事故」として処理された。
教官たちは平身低頭。
生徒たちは無事に戻り、演習は一時中断。
詳細は伏せられたまま、学園には、いつもの日常が戻ってきていた。
昼休み。
チャイムが鳴った瞬間、教室の空気がふっと緩む。
椅子を引く音。
弁当箱を机に置く音。
どこからともなく聞こえる笑い声。
いつもの、学園の日常――
の、はずだった。
⸻
「……レイン」
名前を呼ばれて、
レインは顔を上げた。
そこに立っていたのは――
セリナだった。
教室が、ぴたりと静まる。
⸻
(……え?)
(今、セリナが……?)
(まさか……)
周囲の視線が、一斉に集まる。
レインも、ほんの一瞬だけ瞬いた。
「どうしたの?」
いつも通り、柔らかく返す。
セリナは、少しだけ視線を逸らし――
それから、短く言った。
「……お昼」
「一緒に、食べるわよ」
⸻
一拍。
次の瞬間。
「……は?」
ルカの間抜けな声が、教室に響いた。
「ちょ、ちょっと待て」
「今の聞いたか!?」
ミレイアも、目を丸くする。
「セ、セリナが……?」
「レインを……?」
ざわっ。
教室が、完全に騒然とする。
⸻
「え、なに?」
「どういうこと?」
「仲良かったっけ……?」
「ついこの前まであんなに距離あったよな?」
「美女×美女は聞いてないんだけど」
男子も女子も、落ち着かない。
⸻
そんな中。
セリナは、腕を組んだまま言った。
「なに、文句あるの?」
低く、鋭い声。
一瞬で、沈黙。
「……い、いえ」
「ありません……」
即座に引き下がる男子たち。
⸻
レインは、その様子を見て、くすっと小さく笑った。
「いいよ」
「一緒に行こう」
その一言に。
セリナの肩が、ほんの少しだけ揺れる。
「……べ、別に」
「特別な意味はないから」
「この前の演習で」
「たまたま、話す機会があっただけ」
早口。
明らかに、言い訳。
⸻
「はいはい」
ミレイアが、柔らかく笑う。
「じゃあ、私たちも一緒に行っていい?」
「……別に、いいけど」
セリナは素っ気なく答えながらも、レインの隣からは離れない。
⸻
廊下を歩きながら。
レインは、隣のセリナに小さく声をかけた。
「体、もう大丈夫?」
セリナは、少しだけ驚いた顔をしてから――
ふっと視線を逸らす。
「……あんたこそ」
「無理してないでしょうね」
「大丈夫だよ」
レインは、優しく笑う。
「セリナが、すごく頑張ってたから」
⸻
その言葉に。
セリナの耳が、ほんのり赤くなる。
「……べ、別に」
「当然の結果よ」
「調子に乗らないで」
言いながらも、歩幅が、少しだけレインに合わされている。
⸻
(……なにこれ)
(尊いんだが?)
(ていうか距離近くない?)
周囲の視線は、完全に釘付けだ。
⸻
レインは、心の中で静かに思う。
(……ちゃんと、戻ってきた)
血も、魔気もない場所。
昼休みのざわめき。
他愛のない会話。
そして――
少しずつ変わっていく関係。
それを、
守ると決めた自分がいることに。
レインは、まだ気づいていなかった。




