6.教育(なのか?)
生前、普通の家庭環境で育った私は一つ特殊な教育を受けていた。それは前にも話したことだが武道を親から教え込まれた。別に他の家庭でもそんなことはあると思うだろうが日本にある九道をすべて教えられるとは考えもしなかった。
何故かというと父は子離れできないほど私を構い過ぎるところがあった。心配性なところもあり、護身用のために始めさせたのだが筋が良いとのことで様々な武道を叩き込まれる羽目になったのだ。そしてここでも別の教育が待ち構えていた。
5歳になり、自由に歩く、話すに関しては普通にできるようになった。
その数日後のこと、あまり家族ですら顔を見せない父がやってきた。
(太々しい顔だなぁ、もっと笑顔に出来ないかなあー)
私はまじまじと顔を見ながらオフィサーと手遊び中だった。母は(狩に行ってくる)と言ったまま出かけてしまった。その時は(うそだろぉ、5歳児置いてくのかよ。母親じゃないの?)と思った。オフィサー曰く、母の活発なところは今に始まった事ではないらしい。止めようとして無駄だったことを思い出したかのようにため息をついて肩を落とすオフィサーに父は声をかける。
「オフィサー、わしの嫁は何処に、、、」
「狩です。あんまり放置や野放しにしてますと逃げられまれますよ、坊ちゃん。」
メイドは鋭く横目で父に向かい、言葉を返した。痛いところを突かれたのか棒立ちなり生唾をごくりと飲む父だった。そんなことを忘れようと思ったのか急に話題を変え始めた。
「なぁ、〇〇〇〇よ。邸内にいたばかりじゃつまらないであろう、、、、、、どうだ外に行かないか?」とその言葉に私は激しく同意するように首を縦に振った。
初めての外出だ。気分はこの上なく上機嫌で子供のようにはしゃいでしまった。(実際子供のわけだが)と夢心地の中毒吐いていたが外出するにも外は草原だけしかないことを思い出す。何処にいくにしても長距離の移動になるだろう。気になるのは方法だ。私はよそよそしく話し掛ける。
「あの、何処に、、、どうやっていくのですか?」
「んっ?.....あぁ、そういえば初めてだったな。地馬を使う。何処にいくかは楽しみにしておけ。まぁ、目的地ではないが途中で街に寄ることもあるがな。」と邸外で歩きながら話す。
「地馬って何?」
「言葉のまんまだ。天馬、義馬、人馬、地馬だな、世にある乗り物の名には馬と二つ名がつけられる。多種多様であり、今回乗るものはバジリスク種のオオトカゲ、一般的に地を這うか、走るものを地馬と呼ばれる。」
「ふーん、そうなんだぁ〜。」
私は子供っぽく、興味ありそうに応える。本当にいるわけがないと思いつつ、(なんだかなぁ〜、驚かすつもりならもっとマシなのが良かったかな。)と本音を言いそうになった。
「納屋にこれから入るがこれから教えるルールをよぉーーーーーく、守るんだぞ〇〇〇〇よ。」
(あぁ、うんざりする。いるわけないってのに)
父は腰を下ろし、私の両手を優しく掴む。目線を手から始め、私の目元までなぞりながら目を合わせる。「先にも言ったがこれから乗る地馬はオオトカゲだ。基本はおとなしいが様々なものの刺激に対して敏感だ。良いか?これだけは守れ、絶対に驚かすことはするな。わかったな。」私は不満な顔をして頷いてみせた。
「納屋に着いても、私がいいと言うまで扉はかけないことだ。」と付け加え、一旦話は終えた。
邸の少し離れに納屋は思ったより近くにあった。見た目のデザインは普通に農場にある木製の納屋と変わりないが違うところといえば光沢を帯びていた。材料はすべて金属製のものを使用してることがわかる。納屋なのに重量のある建物にする必要はなかったのではないかと感じた。私は扉の前に着くや否、ルールのことなど無視して扉を開ける。
「シャアアアアアアグウウウウウウ、、、、、、」
音圧が私の体全身に浴びせられ、内臓が捻りあげられそうになった。恐怖の余り、立ち尽くして膝震え、顔が青ざめだ。その瞬間、ドアの向こうにある暗闇から口を開けて突進するのが見え、私は死を感じた。首から後ろへ引っ張られるようにして投げ飛ばされた。明らかに突進してくるものに当たって飛ばされたのではない。誰かに投げ飛ばされたのだ。私は両手と尻を地面に着く形で受け身を取り、すかさず誰が投げたのか辺りを確認するがもう一人は父しかいないことは理解していた。
父のことを上目遣いで見ると荒い口調で話しかけてきた。「言っただろう!私が良いというまで開けるなとっ。」
恐怖の余り息を切らしながら話すが過呼吸のようになり上手く声が出なかった。私は無理矢理、父に応答した。「だっ、、、、ゼェ、ほんっ、、、、どぉ、にっ、、、、、ゼェいるとは思わなぁがい、ゼェ、、、、、から。」
「今後、様々な生き物と触れ合うこともあるだろう。今起きたことを忘れないように。」父は続けて地馬のトカゲについて話した。「コイツらは一定の環境下で生息することを好む。だから光や温度、臭いなど環境が急に変化すると威嚇されたと勘違いして暴れるか、近くにいる生き物を攻撃することがある。」
(それは最初に言っておくべきことでは?)
「どんな生き物にも接する方法、、、まぁ、人間で例えるならば作法と言うやつがあるんだがぁ〜、育種師がいなければ教えることができんので今日は教えん。ではどうやってコイツに乗り、地馬として目的地まで運んでもらうかだが、、、、」と途中で話を止め、短銃のようなものを腰から取り出した。全体がシルバーカラーで筒状の部分が大きく突起した特徴を持っていた。父は一発だけ弾を装填する。
「そういえば、今わしから見て方角をそれぞれかわかるかな、〇〇〇〇よ。」
私は何故今になって関係ない話題を振ってきたのかわからなかったが答えた。また、子供扱いする言葉遣で私に話しかけてきた事について腹正しかったが。
「そうかそうか、正解だ。うん、これで帰って来れるな。」
「えっ」
【バシュッ】
音が広がった後、納屋の下から白い靄のような煙が下から広がった。私は煙を見ながら眠くなり、意識を失った。